孫
松本裕太
「――綾香お嬢様、ご自宅への連絡をしなくてもよろしいのですか?」
付き従うセリオがしつこく聞いてくる。確かもう4度目、いや、5度目かもしれない。少しうるさいけれど、『お仕事』に忠実なことは認めてあげなきゃいけない。
「いいのいいの。悪いのはおじいさまの方なんだから。それよりも、今から一番早く乗れる飛行機を探してきてよ。行き先はどこでもいいわ」
「――――――分かりました」
会話の際の処理時間がいつもより長いのは、セリオの思考にわずかな葛藤があったからかもしれない。
受付カウンターに向かったセリオを見送った私は、腕時計を見たりして、誰かと待ち合わせしているみたいに振る舞った。春休みもとっくに終わった4月の平日。空港のベンチに制服で座っていれば、家出少女とでも思われかねない。まあ、『家出』ってのはほとんど正解なんだけど。
事の経緯は簡単だ。おじい様が珍しく「たまには家族だけで旅行に行かないか」なんて言うから、少しは楽しみにしていたのに、それが実は来栖川の仕事絡みだったのだ。
一万歩譲ってそれは仕方ないとしよう。しかし、相手が『世界的にも有名な企業グループ』で、しかもそこに結婚適齢期の御曹司がいる、というのがどうしても許せない。来栖川と向こうの力関係を考えれば、向こうさんの「来栖川の次女と縁組すれば商売がやりやすくなる」という意図が見え見えだ。
もちろん上手くいけば儲けモノぐらいの考えだろうから、実現する可能性は高くない。けれど私は、その手のことまでお金に翻訳できるほど大人じゃない。そこで、学校帰りに迎えに来る手筈だったセバスを巻いて、空港まで逃げてきた。ここからどこか適当な所へ旅立とうというわけだ。そのとき無理やり連れてきたセリオも、ずっと一緒にいる。
「――お嬢様………綾香お嬢様」
「あ、あら? 早かったわね」
「――お身体の不調がおありでしょうか? 何度かお呼びしたのですが」
どうも、自分で考えている以上に真剣モードだったらしい。
「ごめんごめん。大丈夫よ、ちょっと考え事してただけ」
「――そうですか。では、ご気分が優れないようでしたらすぐにおっしゃってください」
「わかったわ。ありがとう」
いけないいけない。この真面目な子を心配させちゃダメね。セリオと旅行するなんて初めてだし、嫌なことは忘れて楽しまないと。
「で、結局どこ行きのチケットを買ったの?」
「――17時35分発の鳥取空港行きです」
とっとり? と言うと…?
「鳥取砂丘の鳥取?」
「――はい。そうですが」
また随分地味な所ね。砂丘ぐらいしか連想できる物がない。ま、行ったこともないからちょうどいいか。
「OK。じゃ、行きましょうか」
「――はい」
でも、私達の旅は、最初の最初でつまずいた。
……
「――ではこれを外します」
セリオは側においてある机に腕時計を置く。
………
「――ではこれでしょうか」
さらに、このまえ私があげたネックレスを外して机に置く。
…………
何度も金属探知機のゲートをくぐるセリオを見ていると、少し可哀想になってきた。
「ねえセリオ、あなたの体、金属の塊でしょう?」
「――…………」
全然気づかなかったみたい。意外に抜けてるわね、この子。
「ということだから、ここ、通してくれません?」
さっきから呆然と眺めていた受付のおじさんは、慌てて頷いた。
私は向こうの気が変わらないように、急いでセリオの手を引っ張り、搭乗口へ向かった。本当なら、どんな武器を持っているかも分からないロボットなど機内に連れていけるわけがないのだろうが、セリオがかなり人間に近い形をしているのが幸いしたかもしれない。まあ、国内線の持ち物チェックは結構いい加減だしね。
「うんっ…と。着いた着いた」
空港のロビーで大きく伸びをする。曲げっぱなしだった関節が喜んでいる。
「――あちらがタクシー乗り場とバス乗り場になっているようです」
のんきな私の横で、セリオはさっそくナビを始める。それぐらい看板を見れば私でも分かるんだけど、お仕事に忠実な彼女は真剣に言う。まあ当然なんだけど。
「じゃあセリオ、この辺りのお天気調べてみてくれない?」
なんとなく面白くない私は、どうでもいいことを頼む。セリオの売りであるサテライトサービスを使ってみたくなった。この機能が最大の強みを発揮するのは、天気予報やニュースなど、リアルタイムに変化する情報を入手する時だからだ。
「――はい、かしこまりました」
「………」
「――………」
「………」
「――………」
「……どうしたの?」
いつもならどんな質問にも一瞬で答えてくれるのに、今回は妙に時間が掛かる。
「――衛星へアクセスできません」
「へ? どこか故障したの?」
「――いいえ、そうではありません。故障箇所は認識できません。原因不明です」
セリオも、初めて遭遇する事態らしい。戸惑っている…ように見えなくもない。
「じゃあ……回線がパンクしてるとか?」
「――違います。現在来栖川のデータ送信用衛星を利用しているメイドロボは、他に居ませんから」
「それなら…ここ、『圏外』なんじゃない?」
「――携帯電話ではありませんから…………?」
言いかけて、少し考え込むセリオ。
「――そうかもしれません。これまでは、研究所周辺での実験だけでしたので、遠距離移動した際の補正が完全ではない可能性はあります」
「衛星放送のアンテナみたいに、角度が関係するわけね」
この前、引っ越しをした友達がそんなことを言っていた。
「――はい」
「ということは、データのダウンロードは無理になったってこと?」
「――はい。申し訳ありません」
「あ、気にしないで。無理やり引っ張ってきた私が悪いんだから。それに…」
「――なんでしょう」
「あ、なんでもないわ」
面白そうじゃない、と言いかけて、一応思いとどまった。
空港に着いたときにはもう夜の七時をまわっていたから、今日はとりあえず近くのホテルに泊まることにした。少し足を伸ばせばちょっとした温泉地もあるらしいけど、セリオが機器の微調整をしたいと言ったので、手近な所で済ませることにしたのだ。ホテルは、外見は少し汚れていたが、中は掃除が行き届いていて案外きれいだ。
セリオは鞄の中からノートパソコンを取り出し、何か難しい操作をやっていた。やがてそれも終わったらしく、パソコンをしまいはじめる。
「どうだった? 本格的に具合が悪いようだったら、明日の朝の飛行機で帰る?」
「――いえ、大丈夫です。本体に故障箇所は見受けられませんから、活動は可能です」
私に気を遣っているのかもしれないけど、まあ本当に大変だったらちゃんと言うだろうし、ひとまず安心ね。
「じゃ、そっちは他にすることはないの?」
「――出来れば、研究所に連絡を取りたいのですが…」
……忘れてた。これが難問だったわ。
会ったことは数えるほどしかないが、セリオの開発責任者はセバスの息子らしい。そして、私の行方を追っているのは当然そのセバスだろう。セリオも一緒にいなくなっているから、研究所に連絡すれば彼にまで居場所を知られることになる。どうせすぐに見つかるだろうけど、まだ少し早すぎる。ただ、セリオの方も妙なことになっちゃったし、連絡はしておいた方がいい。さてどうしよう。
「うーん…………そうね、まず敵を知ることから始めましょうか」
「お電話代わりました、長瀬ですが」
「こんばんはー。来栖川綾香です」
「あ、はい、どんなご用件でしょうか?」
疲れた声から一転、急に緊張した声になる。
「ごめんなさい、いまセリオをお借りしてるの」
「そうなんですか? 困ります、実験中のメイドロボを勝手に連れ出すなんて。メイドロボに関しては厳密な実験規定を定められたばかりじゃないですか。せめて事前に連絡しておいてくれれば…」
ん? どうも会話が噛み合わないような……
「あの、だれかと間違えてません? 私、来栖川綾香なんですけど…」
「いえいえ、間違えるわけありませんよ。来栖川……って、あれ? ひょっとして、『綾香お嬢様』ですか?」
声が1オクターブ跳ね上がる。
「そうですけど…誰と間違えてたの?」
「来栖川って言ったらとりあえずエライさんかと思いまして…いや、失礼しました」
父親に似ず、ずいぶん呑気な人みたい。
「おや? では、綾香お嬢様がセリオをお連れになっているのですか?」
「そうよ。結構遠くに来てるの」
「父が探しておりますよ。さきほど研究所に電話がありました。いろいろな事情がおありだとは聞きましたが、出来るだけ早く……」
「ごめんなさい、もう少しだけこっちにいるわ」
こういう説得は、向こうが正しいと分かっているだけにあまり聞きたくない。話に割り込んで、強引に打ち切った。
「では、せめて連絡先を…」
「それもだめ。言えばセバスチャンに教えちゃうでしょう?」
「それはそうですが………ただ、セリオを連れていっている以上、こちらにも物を言う権利はある筈です」
うーん、やっぱりそうきたか。
「そのセリオのことなんだけどね、こっちに来てから衛星へのアクセスが出来なくなっちゃったのよ。大丈夫かしら?」
「衛星へのアクセスが出来ない? 故障ですか?」
口調が、研究者モードに入った。
「セリオは、衛星へのアンテナの角度が問題だって言ってるんだけど」
「え? ああ、そうですね。今のところ、こちらでの実験しか想定していなかったので…」
マニュアルか何かを確認しながら話しているせいか、ところどころ引っかかりながらの会話だ。
「じゃあ、放っておいても心配ないのね?」
「ええ、大丈夫ですよ。こちらに戻ってくれば直るはず……」
「分かりました。じゃ、そーゆーことで」
「ああっ!! 待ってください!」
本気を出すと、結構大きな声が出るみたい。さすがはセバスの息子。
「まだ話は終わってません。せめて父に声だけでも聞かせてあげてください。ひどく心配していますから」
「でも、どこかのお人好しさんが、セリオはこのままでも大丈夫だって教えてくれたしね。『すぐ帰らないと危険です』って言われたら、こっちは帰るしかなかったんだけど」
「あ……しまった…」
そんなこと全然考えてなかったみたい。本当にお人好しね。嫌いじゃないけど。
「でもまあ、セリオの件は私が全面的に悪いしね。わがままばかり言うのもなんだから、取引しましょう」
「取引ですって? こっちには頼むことなど…」
「セリオを連れて、『スナックみゆき』に行ったでしょ?」
「な……?」
絶句、という言葉がぴったり。
「いいのかな〜? 『メイドロボに関しては厳密な実験規定を定められたばかり』なんでしょ?」
「どうしてそれを……?」
「ダメよ、セリオの本体に残ってるデータを消し忘れちゃ。音声だけだったけど、全部聞かせてもらったわ。なんでも、次のメイドロボはみゆきママをモデルにするんですって?」
「わ〜〜〜〜っ!! それは酒の席の出来事であって決して本気では…」
「分かってます。別に脅かすつもりじゃないけど、これで取引の形にしません?」
長い沈黙の後、さらに長いため息。
「仕方ありません。ただし、数日中には父に伝えますよ。それ以上は隠し通せません」
「ありがとうございます。私もそんなに長く逃げ続けるつもりはありませんから」
「それにしても…いやらしいことしますねえ」
怒った声ではない。半ば呆れ半ば感心、というところ。
「だてに来栖川財閥の娘を17年もやってませんから」
「ふふっ…そりゃ家出の一つもしたくなりますな。あ、今の発言も取引の材料にしてくださいよ。父に知られたら殴られます」
この人も変な家庭に生まれて苦労してるみたい。
「分かりました。本当に感謝します」
「セリオをよろしくお願いしますよ」
「それは安心してください。しっかり面倒見ます。では、おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい」
長い電話を切ると、セリオの姿が見当たらない。部屋を見渡すと、バスルームの明かりがついていた。どうも先にお風呂の用意をしようとしているらしい。
でも、今のセリオに任せっぱなしというのも少し不安だ。私は座っていたベッドから立ちあがり、バスルームへと向かう。
「――綾香お嬢様………」
「どうしてお風呂に湯を張るだけで、そんなぐしょ濡れになるの…?」
「これぐらい気づきなさいよ」
「――申し訳ありません」
言いながら私は、黒いつまみをひねる。湯船にお湯を張ろうとしたのに、「シャワー・蛇口」の切り替えを忘れたらしい。おかげで頭から熱湯を浴びている。人間だったらやけどしているかもしれない。セリオにその心配はないから、服を脱がせてバスタオルで拭いてあげれば終わりだ。
「念のため聞いておくけど、あなた、防水は完璧なんでしょうね?」
「――はい、日常生活で起こりうる事態には対応できます」
「……『生活防水』の腕時計、雨で壊れることがあるわよ……」
「――いちおう基準が違いますから」
まあそれはそうなんだろうけど。
なんとかお風呂にも入って、ホテルの中のレストランで適当にご飯を食べると、もう11時になっていた。明日は学校にも行かないし、夜更かししても良いんだけど、別にすることもない。外を散歩することも考えたけど、窓から見える酔っ払いの群れを見るとそんな気も失せる。なにより今日は、精神的に疲れたから。
「じゃ、そろそろ寝ましょうか?」
「――はい」
「…って、どこ行くの? ベッドは大きいから、こっちに入ったら?」
「――ですが…」
「いいからいいから。椅子の上でじっとされる方が気になるのよ」
ためらうセリオを、ベッドの中に無理やり引きずり込む。
「これでよしっと」
「――………」
「じゃ、電気消すわよ」
「――はい。起きる時間は何時になさいますか?」
「んーー…べつにいいわ。自然に目が覚めた時間で。じゃ、おやすみなさい」
「――はい、おやすみなさいませ」
「……」
「――……」
「……」
「――……」
「セリオ、起きてる?」
「――綾香お嬢様がお眠りになるまでは待機しています」
愚問だった。この子はそういうロボットだったわ。
………ロボット、ね。
「ねえセリオ、こーゆーの、ちょっとどきどきしない?」
「――どきどき、ですか?」
「そ。あなた、これまで研究所以外に泊まったこと、ないでしょ? 私が無理に連れてきたせいで、こんな知らない土地に居るのよ」
「――お気になさっているのでしたら…」
「違う違う。それもあるけど、でもこんなトラブルも面白いんじゃないかな、ってこと。ちょっとした逃避行だしね」
「――どなたか綾香お嬢様を追っているのですか?」
そういえば、セリオには事情を全然説明してなかったわね。なんか、口に出すのも嫌だったからなあ。
「ま、詳しい事情はおいおい説明してあげるわ。でも、追ってくるのはあなたとも関係ある人なのよ。あなたの産みの親は、長瀬主任でしょう?」
「――はい、主任は私の開発責任者です」
「そのお父さん。私の家で執事をやっているのよ」
「――ご心配なさっているのではありませんか?」
「そうね、暑苦しい心配の仕方してるでしょうね」
簡単に絵が浮かぶわ。リアクションの分かりやすさにかけては世界レベルよね。
「まあそれはどうでもいいわ。要は、こういう状況も楽しんでしまえた方が面白いってことよ」
「――申し訳ありません。よく理解できません」
「まあ、それも少しずつ覚えていけばいいと思うわよ。人間と一緒に何かするんだったら、そんなことも分かっておいたほうが得よ」
「――分かりました」
「うん。じゃ、今度こそおやすみなさい」
「――おやすみなさいませ」
「わあ………」
「――……」
けっきょく無駄に早起きしてしまった私たちは、「砂丘に行くなら朝が一番ですよ」というフロントのお兄さんに従った。そしてそれが正解だったことを知った。
夜に海から寄せる風が、広い砂丘に模様を作る。「風紋」というそうだ。朝はこれが強く残っているから、フロントの人も薦めてくれたらしい。これが何kmにもわたって続いているのは、確かに壮観だ。
「なんだか日本じゃないみたいね」
「――そうですか…?」
「うん。気持ちいいわあ。あ、次はあっちの砂山に登りましょ」
「――はい」
「ねえセリオ」
「――はい」
「前言撤回。やっぱここ、100%日本だわ」
「――そうですね」
「最初のうちは晴れてたのにねえ………」
横なぐりの雨。それも、ほとんど嵐に近い勢いだ。砂丘には雨宿りをする場所などあるはずもなく、ひたすら来た道を引き返すだけだ。あんなに綺麗だった風紋は、もう影も形もない。
「砂丘なんて、雨が降ったらただの泥山じゃないのっ!!」
「――確かにあまり美しいものではないかもしれませんが…」
「はあ……」
ずいぶん遠くまで来ちゃったのね。砂丘の入口近くには建物があるけど、距離はまだ結構あるみたい……
「あら?」
遠くを見やった私は、ひどい雨だというのに何故か巻き起こっている砂嵐に気づいた。正確には、何か大きな物が猛スピードで走っている感じだ。
「ねえセリオ、あれ、見える?」
「――はい、黒いタキシードを着用された老人のようです」
「…………」
意外に早かったわね。今日の夜、宿に飛びこんでくるのは覚悟してたけど。
距離100m。
「見つけましたぞーー!! 綾香お嬢さまーー!! お風邪など召されておりませんかー?」
「そんなに大きな声出さなくても、聞こえてるわよ」
距離50m。
「ご無事でしたかっ? 芹香お嬢様も旦那様も奥様も、心配なさっておられますぞ!」
「それは反省してるから…」
距離10m。
「とりわけ大旦那様が…」
「その名前は出さないでっ!」
……………
「なっ、なぜカウンター攻撃をっ?」
「214+攻撃ボタンで出せるし…」
「Queen of Heartの話じゃありません!!」
ちょっとしたお茶目じゃない。自分が出場してないから嫉妬してるのかしら。
「まあそれはともかく。あなたや他のみんなには悪かったと思ってるけど、おじい様は御自分で反省する方よ」
「なぜですか? 大旦那様は、ただ家族の休暇を…」
「さて問題です。私はどうしてこんなに怒っているのでしょう。ヒント。政略結婚」
都合よくバックで雷が鳴る。
「うっ…それは…」
「というわけだから、おじい様が謝ってくるまで絶対に許さないわよ」
「ですが…それでもこんなことをされては困ります。お立場を考えていただかなければ……」
こういう論法で来られると、やっぱり弱る。
「…わかったわ。あなたを怒っても仕方ないもんね。とりあえず帰るわ」
「ありがとうございます!」
「ただし! おじい様には、絶対に謝ってもらうから」
「……分かりました。私も大旦那様を説得します」
「そう? ありがと」
ここで初めて、セバスがセリオを見る。
「で、このメイドロボはどうなさったのですか?」
「ああ、聞いてるでしょ? うちの学校で運用実験してるのよ。開発責任者は、あなたの息子さんよ」
「――はじめまして。HMX-13、通称セリオです」
ふかぶかと頭を下げる。
「おお、聞いたことがありますぞ。芹香お嬢様の学校にもおりましたな」
「そう。向こうのテストはもう終わっちゃったらしいけど、セリオの方は少し実験期間が長いのよ」
「なるほど……」
まじまじとセリオをみつめる。
「ですが私は、ロボットが人の形をしてうろうろするのはあまり好きではありませんな」
「でも、この子はあなたの息子さんが作ったんだし、孫みたいなものでしょ」
「いえ、それは…」
そうそう、セバスにはお孫さんいないんだっけ。
「――孫、ですか?」
「そうよ、あなたの開発責任者のお父さんだもの。ほら、『おじいちゃん』て呼んであげなさい?」
「――わかりました」
ここでセバスに向き直る。
「――おじいちゃん」
「うっ……綾香お嬢様…それは………」
「――おじいちゃん、どうなさいましたか?」
「ええい、やめんかっ!!」
「――なぜですか、おじいちゃん」
「おまえ、わざとやっておるのではないか…?」
決定。面白いから、ずっとこの呼び方でいさせようっと。
建物でざっと髪を乾かした私たちは、セバスチャンの運転する車で空港へ向かう。『まだ温泉に行ってないんだけど』と言ったら怒鳴られたので、今回は諦めて、すぐに家へ戻ることにした。
「一応言っておくけど、『家族旅行』には絶対行かないわよ」
「分かっております。旦那様が、先方へ断りの電話をお入れになっていましたから」
別に罪悪感は覚えないけどね。
「で、私たちの居場所はどうやって知ったの?」
「空港で来栖川の人間が聞き込みをしたのですよ」
長瀬さんは約束を守ってくれたみたいね。
「でも、予想以上に早かったわね。今日の夜くらいかなと思ってたんだけど」
「旦那様が熱心に探されたこともありますが、もう一つ大事な理由がありまして」
「何?」
「ページ数の都合です」
「あっそ……」
こんなありきたりなネタをオチにしていいのかしら。