幸せの代償
松本裕太
「祐一がいない」
この1ヶ月で、同じ言葉を何度聞いたろう。祐一さんと会えなくなってから、そしてそれが一時のものではないと気付いてから、舞は半ば狂気に落ちたように見える。
「おはよう、舞」
「…おはよう」
「いいお天気だね」
「…祐一がいない」
「あー、川澄、ここの英文、訳してみろ」
「…祐一がいない」
「何? いま、何か言ったか?」
「…祐一がいないから」
何をするにもその調子だった。本人は、ただ祐一さんの存在を求める時に言っているだけなのだろう。ただ、他の人が見れば恐ろしく奇異な言動にちがいない。その証拠に、大学に入ってからも、舞に話しかけてくる人などほとんどいない。
全て分かっていた。舞と祐一さんを引き離せば、舞がどんな風になるのか。私は、それを望んだのだ。舞を夜の学校に、お昼休みの屋上に閉じ込めたように。
「祐一さん、どこに行ったんだろうね」
――佐祐理の家にいるじゃない。今日だ
ってご飯あげたわよね。
「きっと帰ってくるよ」
――絶対出られないところに閉じ込めて
おいて、そんなこと言うんだ。
「祐一さん、舞のこと好きだもの」
――だから祐一さんを憎んだんでしょ
う? 佐祐理は。
「舞をおいていくわけないよ」
――だから自分で手を下したのね。
「一緒に待っていようよ。ね?」
――よくそんなことが言えるわね、佐祐
理は。
祐一さんが「3人で暮らそう」と言ってくれたとき、本当に嬉しかった。ずっと3人でいられるなんて、なんて素晴らしいのだろうと思った。その未来図が輝きすぎて、あまりにまぶしくて、私はその場にいられないような気がした。いる資格がない。そう思った。
その場にふさわしいのは舞と祐一さん。どんなにがんばっても、私がそこに居ることが想像できなかった。
一番近くで舞に触れて感じて、私も舞のようになれたような錯覚に浸る。それが私にはふさわしい。そしてそんなことが今の私の全てだ。それを守るためなら何だってする。たとえそれが舞をどれだけ悲しませることであっても。
お昼休み。舞と私は二人でお弁当を食べている。高校の時と同じ、屋上への扉の前。この大学は屋上が学生に開放されていないので、これから少しずつ暖かくなっても、誰も来ない。
今日の舞は、お弁当に箸をつけない。ものすごい勢いで食べるときもあれば、このようにまったく食べない日もある。だから私はいつも、今年の冬と同じぐらいの量を持ってくる。祐一さんがいた、あの頃と同じ量。
お弁当を食べないとき、舞の行動は決まっている。私が食べるのをじっと見つめているのだ。そして食事が終わり、私がお弁当を片付けはじめると、きまって泣きはじめる。声を立てず、ただ涙を吐き出す。
そして、私の行動も決まっている。舞の隣に座って、涙を拭ってあげる。そして言う。
「もう泣かないで。佐祐理がそばにいるから」
――あなたさえいなくなれば、舞は泣か
なくてもすむんじゃない?
佐祐理ののしあわせは、
舞のふしあわせだから。