それから、
日羽は、消えていった。
幽霊らしく、消えた。
俺の声に、振り向きかけた、その瞬間の残像だけを残して。
まだ暑い日ざしは、さんさんと照りつける。
俺の肌に残るアイツの感覚ごと、焼き消すように……。
その日は、結局家に帰ったのは夜遅くだった。
寄り道できるところは、すべて回ったから。
夢は、見なかった。
冷蔵庫に缶ビール。
よりによって、ダース単位で買いやがって…。
しょうがないから、ダチを呼んだ。
日羽が死んだことはこいつらも知っているから、
俺の誘いは断らないでいてくれた。
アイツの話は、結局一度も出なかった。
一晩飲みあかし、ダチは帰っていった。
飲み散らかした缶も、捨ててくれた。
ベッドから布団をはがす。
物干しにそれをかけようとして、一瞬手を止めた。
でも結局、干した。
今日はいい天気だから。
しばらく続いたコンビニ飯。
一日二回の割で増えていくゴミ。
二週間くらいして、さすがに俺もキレた。
なににキレたのかは、結局今も分かりたくないけれど。
部屋の中で、俺は大きなゴミ袋を持って走り回る。
普段なら、ちょっと捨てるのに躊躇するようなものも、
この機会だからまとめてゴミ袋に入れた。
明日は可燃ゴミ・不燃ゴミ、どちらも収集日だ。
全部、持っていってくれ。
久しぶりの自炊。
冷蔵庫のなかでしなびた野菜が、多すぎた。
結局、新しく買ってきた食材ばかり。
食器かごのなかの皿は、カンペキに乾ききっていた。
一月がすぎ、二月がたち、三月を越して、
だんだん日羽のことも考えなくなる。
ときどき夢に出てくるアイツの顔も、
起きてみるとなぜかよく思い出せなくなっていく。
そんなときの朝は、
誰が見ているでもないのになんだか気恥ずかしい。
秋がすぎ、冬を迎えて、そして年を越す。
正月はひとりで過ごした。
それなりに、うまくやっていられると思う。
二月の世間の喧騒も、
思ったよりは気にはならなかった。
人工的で不自然なイベントのたびに、
一年も前のことなんてそうそう思い出せるものじゃないってことだ。
そして、春。
さくらを散らす雨。
いつ以来か、
乱雑に突っ込まれた傘立てのなかに
一本だけ、きちんとたたまれた傘があった。
視線の端だけで見ていたそれを、俺は手にとった。
付きあいだしたころ、それまであった傘のかわりに
アイツに買わされたやたら大きなシロモノだ。
当然、一人では使いようもない。
だから傘立てにさしっ放し。
今の今まで、使われなかったままで。
俺はその傘を手にとった。
もう、いいだろう?
留め金を外し、
少しだけ息を止めて、
俺は傘を開いた。
何の変哲もなく傘は開く。
たぶん、
いまの俺の家の中で、
日羽がいたころのままだった、最後のもの。
冷たい春の雨の中、不釣合いに大きな傘をさしながら歩く。
そばから持ち手に添えられた、
「傘、持ちにくいからヤメロ」って
何度俺が言ってもやめなかった手。
今はもうない。
昼飯を食ってるうちに、雨は止んだ。
崩れた花束みたいになっている傘立てに手を伸ばし、
俺は一瞬手を止めた。
このまま置いていこうかと思った傘を、
もういちど手にとって、家路に向かう。
次の傘を買わされるときまで、
適当に大切に使っていくさ。
いつか、
この傘もきちんと捨てるから。
そんなわけで、先日松本裕太から薦められたアリスソフトの会員専用ソフト、「HASHABY
BABY」。
プレイ時間はせいぜい二時間くらいの一本道AVGと、まさに小品なんですけれど
相当、イケてます。
ファンクラブ会員限定販売という一般性のかけらもない販売形式なので
このページを見てくださる方で、このソフトを知っている方はまずいないでしょう。
そんな、そのソフトを知らない方々に
間違った先入観を与えかねないこのSS(…なのか?)は、
正直公開していいものか、迷ったのですけれど
「今の僕」が一番書きたいものを載せていくことだけが、
この場を維持していく絶対条件だということで
公開することにしました。
いや、マジで面白いですって。このソフト。
「最後の一週間」というテーマは、「KANON」の栞シナリオと相通じるものがありますけれど
書き方が全く異なっています。
「KANON」がデコレーションケーキなら、
これはバームクーヘンというくらい。
「西の横綱」アリスソフトの、底力を思い知らされます。