プログラム・ノート


                   PROGRAM

1) A.シェーンベルク:幻想曲 作品47 (1949)

2) G.ルクー:ヴァイオリン・ソナタ   

3) R.シュトラウス:歌劇「薔薇の騎士」より「ワルツ」第1番

4) C.ドビュッシー:ラプソディー 第1番

5) I.ストラヴィンスキー:ヴァイオリンとピアノのための「タンゴ」

6) M.ファリャ:スペイン舞曲 ;歌劇「ラ・ヴィダ・ブレヴェ」より 
              (クライスラー編)


                        楽曲解説

A.シェーンベルク (1874-1951): 幻想曲 作品47 (1949)

  正確に記載すると、この作品には『ピアノ伴奏を伴ったヴァイオリンのための幻想曲 作品47』というタイトルが付い
ている。シェーンベルクは晩年ロスアンジェレスの郊外の高台に家をかまえ、ここで、同じくここに住む友人のヴァイオ
リニスト、A.コルドフスキーの委嘱によって書かれたのがこの曲である。初演はコルドフスキーの演奏で行われたが、
その日、1949年9月13日はシェーンベルクの75歳の誕生日にあたり、このお祝いのために国際現代音楽協会が祝
賀演奏会を開いてくれたのであった。彼は、ナチに追われてアメリカに渡った1934年からロスに住んでおり、ここは言
わば彼の第2の故郷でもあった。この環境はこれら晩年の作品の音楽そのものを思わせるものがある。

 この「幻想曲」は、彼の弟子のウェーベルンやベルクの作品と同様に、無調音楽の代表格、12音作曲技法で書か
れたものだが、この作品を細かく分析していくと、シェーンベルクが1オクターブの中にある12の半音を前半の6音(C
〜F)と後半の6音(F#〜H)の二つのグループに分け、その音列の集合体をベースに、11の部分を作り出し、この曲を
構築していることがわかる。従来の調性音楽に慣れ親しんでいる聴衆には、その難解なイメージから敬遠されている
感じがある。しかし、そのイメージとは裏腹に、「12音技法は、一般的に思われているように近づきがたく排他的な作
曲法ではない。多分に、食わず嫌いの感があろう。論理的秩序のもとに構成されるもので、判り易いのが特徴であ
る」と彼は自らの著書『私の発展』(1949年出版)の中で述べている程である。この作品は、1楽章形式で、全体は166
小節、演奏時間にしても9分程度の短い作品でありながら、その形式は極めて密度の高いもので、ルネ・レイボヴィッ
ツの近著「シェーンベルク」(白水社)で、「この1楽章のなかに、伝統的な4楽章の構成がきりつめられた形で存在し
ている」とのべている。彼は、初期の作品から「1楽章形式」の追及をしてきたが、この幻想曲はその最後の作品であ
り、ここできわめて凝縮された緊迫した音楽を作り出すことに成功していると言えるだろう。これは、感情豊かな作品
で、情熱的で朗々としたメロディーで始まるこの作品には、ミステリアスなところやユーモラスなところなど様々な表情
があり、セクションごとに、またそれぞれのセクション内でも、甘美な雰囲気から暗く静寂な雰囲気まで流れるように
移り変わっていく。踊りを彷彿させるGrazioso(優美で華やかに)とScherzando(滑稽に)のセクションでは、ウィンナー・
ワルツというよりもフォークダンスのような雰囲気があり、ヨーデルのような響きで終息する。最後に、情熱的な冒頭
のテーマがコーダの部分でもう一度登場し、すぐにヴィルトゥオーソのクライマックスへと導かれる。そして、この作品
は、彼の最後の器楽曲となった。


G.ルクー (1870-1894) : ヴァイオリン・ソナタ (1891) 

 ギヨーム・ルクー(Guillaume Lekeu)は、1870年にベルギーに生まれ、ドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」が
作曲された1894年、腸チフスのため24歳で没した天才作曲家である。
パリに学び、フランクの後継者と期待されていた。その作品は、所在不明のものや断片をふくめて、およそ30曲を数
えるにすぎない。そのなかでもっとも知られているのがこのヴァイオリン・ソナタ(1891)である。ルクーのベルギーの
ローマ賞二席に入賞したカンタータ ≪アンドロメド≫に感銘をうけたヴァイオリニストのウジェーヌ・イザイは、ヴァイオ
リンソナタの作曲を委嘱し、初演も行った。因みにこの曲はイザイに献呈された。彼はこれをレパートリーとして、各地
で演奏したという。「骨身を削って、魂のすべてをじぶんの音楽に注いでいる」という言葉と、1889年にバイロイトで≪
トリスタンとイゾルデ≫を観て、感動のあまり失神したという逸話は、この作品をとおしてみると、じつに真実味があ
る。
 ゆるやかな歩みのなかに、循環主題が示される。この循環主題からそれぞれの楽章の主題が導かれ、さらにその
主題からいくつかの要素をとりだして利用する。主題同士の堆積も随所にみられるという徹底したルクーの手法に驚
かされる。以前にあらわれた主題と、旋律じたいの進行との対比、ワーグナーを想起させる無限旋律めいた線の動き
と赦密な半音階的進行。これらは後期のベートーヴェンに匹敵するようである。ソナタという形式は、フランス人にとっ
て本来的なものではなかったと思えるが、ベートーヴェン、ワーグナーから多くを得て主題の展開というものをきわめ
たルクーの音楽は、フランクと同様に〈線〉そのものを生かしつつ、素材の浸透と展開を自然体でやってのけたソナタ
を見せているのである。

曲は3楽章からなり、約30分余りを要する。この曲でもフランクが盛んに用いた循環形式が採用されている。
第1楽章 :Tres modere - Vif et passionne
第2楽章 :Tres lent ;8分の7拍子(2+2+3)を中心に拍子が不規則に変化するが、これはルクーの故郷ベルギー 
              のワロン地方の民謡に由来する。
第3楽章 :Tres anime


R.シュトラウス (1864-1949) : 歌劇「薔薇の騎士」より「ワルツ」第1番 (プシホダ編)

 リヒャルト・シュトラウスはュトラウスのオペラは、「サロメ」、「エレクトラ」、「影のない女」などあるが、知名度ではこ
の「薔薇の騎士」が群を抜いている。嘗て「ザルツブルク音楽祭」でのカラヤン指揮のこのオペラの盛況ぶりは歴史に
残るものであろう。それは、マリア・テレジア治下のウィーンの宮廷が舞台であることや、彼が「サロメ」「エレクトラ」の
ようなR.ワーグナーの影響を多く受けた作品に比べ、「モーツァルト風のオペラ」つまりロココの香りを漂わせながら、
遊びと真実を対比させた曲を目指したところも人気のある理由であろう。

 曲中、ワルツが多く現れるが、これらを独立させ「ワルツ第1番、ワルツ第2番、組曲など」として演奏されることも多
い。これを「ヴァイオリンの魔術師」と称えられたヴァーシャ・プシホダ(1900-1960)が、ヴァイオリンとピアノのために編
曲し、『バラの騎士』のワルツとしたこの曲はヴァイオリン・ファンなら誰でも知っている曲になっている。リヒャルト・シ
ュトラウス(ドイツ)と「ワルツ王」ヨハン・シュトラウス(オーストリー 1825〜1899)は全く関係のないことを記しておこ
う。


C.ドビュッシー (1862-1918) :ラプソディー 第1番(1909)

 これはドビュッシーがコンクールの課題曲用にクラリネットとピアノのために作ったもので、1911年にはドビュッシー
自身の手でオーケストラに編曲もされているが、今回はクラリネットに代わりヴァイオリンで演奏される。ドビュッシー
特有のゆったりとした音の流れで始まり、最後にアクロバティックなほどの技巧を聴かせる。いわば静寂から血潮た
ぎるラテンの気質まで、その振幅の大きさをどれだけ表現しようとするのかがこの曲の面白さであもある。
 ピアニッシモの音楽を背景にヴァイオリンがドビュッシーの固有の和音を響かせ、ぽっかり浮かび揚がってくる。そ
れはちょうどモネの有名な絵画「印象・日の出」の情景を想起させるようだ。そしてしっとりと最初の主題を奏でる。そ
してこの和声と旋律の流れこそドビュッシーのオリジナリティーである。ムードたっぷりに歌わせ、強弱を小刻みに変
化させながら自在に動き進んでゆく。拍子も次々変わりそれはまさに幻想的。聴き手の心に意図的なほど揺さぶりを
掛け、いや、ときには衝動的ですらある。頂上から一気に下降する旋律が波のように続き、音楽的なエクスタシーに
達して、その美しい境地を味あう。


I.ストラヴィンスキー (1882-1971): ヴァイオリンとピアノのための「タンゴ」 (1941)

  原曲はピアノ曲で1940年に作曲された。これを作曲者自身によって小管弦楽版(1953)、ドゥシュキンによるヴァイオ
リン編曲にされていて、よく演奏されるようになった。
ストラヴィンスキーの作品は、有名な『春の祭典』、『火の鳥』及び『ペトルーシュカ』など知られている曲も決して少な
くないが、だからと言って一般的に愛好されているともいえない作曲家であろう。
 彼は、生涯に、原始主義、新古典主義、セリー主義と、作風を次々に変え続けたことで知られ、「カメレオン」という
あだ名をつけられるほど創作のスタイルや分野は多岐にわたった。先に述べた初期に作曲された3つのバレエ音楽
は、原始主義時代の作品である。この原始主義時代は複調的であり、変拍子やリズム主題の援用など多くの共通
した特徴を挙られる。中期の新古典主義時代は、バレエ音楽『プルチネルラ』以降にあたり、バロック音楽や古典派
のような簡素な作風に傾倒している。和声の響きは初期に比べてかなり簡明になった。この「タンゴ」はこの時代の
作品といえる。後期は、セリー主義(十二音技法)時代といわれ、大戦後は、それまで敵対関係であったシェーンベ
ルクらの十二音技法を取り入れ、またヴェーベルンの音楽を「音楽における真正なるもの」などと賞賛するようになっ
ていた。これには同じくアメリカに亡命していたクシェネクの影響もある。ストラヴィンスキー自身は、「私のセリーの音
程は調性によって導かれており、ある意味、調性的に作曲している」と語っており、あくまで調性的な要素の強いセリ
ー音楽である。各楽器をソロイスティックに用いる傾向が一段と強まり、室内楽的な響きを多くのセクションで優先す
るために、初期の豪華な響きの光沢は全く聞かれなくなった。バンドネオンで演奏するのがタンゴと考えると、そもそ
もピアノで弾くタンゴはどうしてもドライな変わった感覚になるが、ヴァイオリンのちょっとセクシーなメロディーが入ると
妙に潤いを与えて楽しい。タンゴという曲は武満徹にもあったが、武満徹のタンゴは確か弦楽器が主体でこれは湿っ
た感じさえする。


M.ファリャ: スペイン舞曲 ;歌劇「ラ・ヴィダ・ブレヴェ(はかなき人生)」より


  ファリャは近代スペインを代表する作曲家であるが、1905年に作曲された歌劇「はかなき人生」で一躍その存在を
知られるようになった。この「ラ・ヴィダ・ベヴェ(はかなき人生)」は、作曲当時のスペイン・グラナダを舞台に、「ジプシ
ー娘・サルが裕福な青年・パコに恋をし、捨てられ、そのパコの結婚式に乗り込み、彼の足元で息を引き取る・・・」と
いうドラマティックなオペラだが、この「スペイン舞曲」は、パコとカルメーラの結婚祝宴でフラメンコの歌い手が歌い始
め、情熱的な踊りが踊られるときに演奏される曲である。この曲は、ギターを初めさまざまな曲に編曲されているが、
この演奏会では、クライスラー編曲のヴァイオリンとピアノで演奏される。 




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