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怖い。
こんなに怖い映画には久々に出会った。
終始何かに覆われて、体をグイグイ圧迫されるような感覚。
何が一番怖かったかって、エンディング。
今考えてもぞっとする結末。
まずひとつ、私は「監禁」という行為に凄まじい嫌悪を持っている。
人間の尊厳をまったく顧みず非道にして何よりも恐ろしくも残虐な行為だと思っている。
拉致監禁という犯罪は今までも記憶に残る数々の事件が挙げられるが、
ここに書くのもおぞましいほど、私はそういう事件を引き起こした犯人を憎む。
この映画の主人公デスはまったく理由も不明なまま、15年も、15年もビルの一室に監禁される。
現代では本人の意思に関わらず定期的に眠らさせたり、
気が狂わないように薬でコントロールしたり、生き長らえさせながら監禁する事が可能なのだ。
しかも後にわかるのだが、デスは「監禁ビシネス」を営むれっきとした業者に預けられているのだ。
そんな世にも恐ろしいビシネスを考え出す輩がいるなんて。
そしてそれを利用する客がいるなんて。
これは日本のコミックが原作となっているらしいのだが、
このアイディアだけでも別の恐ろしい物語がいくつも作れそうな勢いだ。
その閉じ込められた時間の中でテレビだけは自由にみてもよい、
いずれ世に解き放たれた時に生きるのに困らないように。
そしてまたひとつの恐ろしい事実、妻が殺されその犯人はほかならぬデスだと報じられている。
気も狂わんばかりだろうが、それでもデスは生かされる。
そしてある日突然開放される。
知り合った孤独な若い娘ミドの手を借りて、なぜ自分は監禁されたのか、
理由を知り、そして犯人に復讐する為に奔走する。
しかし、すべては犯人であるウジン(Old boy:同窓生)の意のままに操られているだけ。
もちろんみている側も、その動機をデスと一緒に必死で追うので、退屈している暇などない。
画面に渦巻くように漂う負のオーラにクラクラしながらも目が離せないのだ 。
デスを演じるチェ・ミンシクの演技がこれまた凄い。
鬼気迫るとかそういう陳腐な表現をはるかに超える。
まさにモンスター、15年監禁されていた男、そのもの。
監禁ビジネスの経営者を襲い、大勢の手下を一心不乱に倒していく
横から撮影されたシーンはまさに圧巻。息もできないほど釘付け。
衝撃的な事実がわかった後の、虚脱の演技がそれ以上に切なくて痛すぎる。
まさに骨の髄までデスそのもの。
そしてその黒幕にしてもう一人の復讐の鬼、ウジンを演じるユ・ジテ。
私は彼の他の作品を2本みているけど、そのときに好青年ぶりをみながら、
笑顔の後に真顔になったときの一瞬の薄ら寒い何かを感じていたのだが、
やっぱりこの人はこういう役のできる人なんだ、と感慨にむせんだ。
素晴らしい、素晴らしい、そして怖い。
彼に関するすべてのシーンがおぞましいくも美しい。
リモコン式ペースメーカーをうめこんだ均整の取れた体躯、
ペントハウス窓際でのストイックなヨガのポーズ、
ガスマスクを装着して眠るミドに寄り添う姿、
他のキャストが追い詰められてボロボロになっていく中で、
彼だけは髪のひとふさも乱さない。
そんな狂気を奥に秘めた無機質な彼の存在はやはりこの役に見事にマッチし、
異常なまでの綿密で執念に満ちた計画はもう恐ろしいを通り越して悪魔のごとく。
その悪魔に震えながらも惹かれる自分がそこにいる。
ウジンはおそらく、姉を愛してしまった自分の狂った倫理を忌んでいたのではないか。
復讐、というよりもデスを同じ姦淫の道に陥れることで、
孤独な自分の世界にデスを引き入れようとしていたのではないか。
金持ちがその財力にまかせて、壮大なコン・ゲームを仕掛けるという展開は嫌いなのだけど、
根底にある人間の不条理な悲しさにはどうしても引き込まれてしまう。
まだまだ恐ろしいアイコンはたくさんあって、
拷問シーンの痛さ、許しを乞うデスの最後の切り札・舌切雀の描写、
(思わず目を閉じてしまって肝心のところはみてない)
ウジンと姉の秘密を友達(たった一人だけなのに)しゃべってしまったデスの、
口は災いの元、というか相手が悪かったツキのなさ。
あと、生だこムシャムシャシーンも結構怖い、っていうか気持ち悪かった。
そして何といっても、デスが選んだ実の娘ミドとの行く末。
これが一番恐ろしい。
これはいけない、だめだ、やめてくれ、と心で叫ぶ。
ガタガタ震えるくらい、ラストの二人の抱擁には押しつぶされる思いだった。
どうしてデスはミドと生きていく道を選んだのか、そのまま姿をくらましてしまうことも出来たのに。
孤独で何よりも大事なミドの想いに応えるためなのか、
それともミドを女として愛してしまったためなのか。
儒教の国、そしてキリスト教徒の多い韓国でこの結末はどう受け止められたのだろうか。
み終わって数時間経過した今でも映像がグルグルと渦を巻き、様々な思いが浮かんでは消える。
後味の悪さはもう他の追随を許さない。
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