〇涼宮ハルヒの憂鬱 第五話 (後編)           キョン ♂:  イツキ ♂: _________________________________________________________________                       (タクシーでどこかへ移動するキョンとイツキ) イツキ:このあいだ、超能力者ならその証拠を見せろ、 とおっしゃったでしょう?丁度いい機会が到来したもんですから お付き合い願おうと思いまして。 キョン:わざわざ遠出する必要があるのか? イツキ:僕が超能力者的な力を発揮するには、とある場所、 とある条件下でないと・・・。今日これから向かう場所が、 いい具合に条件を満たしているというわけです。 キョン:まだハルヒが神様だとか思ってんのか? イツキ:人間原理・・・という言葉をご存知ですか? キョン:ご存知でないな・・・。 イツキ:煎じ詰めて言えば、宇宙があるべき姿をしているのは 人間が観測することによって初めてそうである事を 知ったからだ、という理論です。 キョン:ちっともわからん・・・。 イツキ:我、観測す 故に宇宙在り。とでも言い換えましょうか。 要するに、この世に人間なる知的生命体がいて 物理法則や定数を発見し、宇宙はこのようになっていると 観測できて初めて、宇宙そのものの存在が知られたわけです。 ならば、宇宙を観測する人類が、もし地球でここまで進化する事が なかったら・・・。観測するものがない以上、宇宙はその存在を 誰にも知られる事がない。つまり、あってもなくても 同じ事になってしまう。人類がいるからこそ、宇宙は存在を 知られているという、人間本位な理屈の事です。 キョン:そんなバカな話があるか。 人類がいようがいまいが、宇宙は宇宙だろ? イツキ:その通りです。だから、人間原理とは思索的な理論に過ぎない。 しかし、面白い事実がここから浮上します。・・・何故、宇宙はこうも 人類の生存に適した形で創造されたのか?重力定数が或いは 粒子の質量比が僅かでも違っていたなら・・・。宇宙が このような姿になる事はなかったでしょう。 キョン:何か化学かぶれした、変な宗教の パンフレットにありそうな文句だな。 イツキ:何も僕は、全知全能なる絶対神が人間の造物主である などと信仰している訳ではありません・・・。ただし、疑ってはいます。 キョン:・・・何をだ? イツキ:僕達は崖っぷちで爪先立ちしている、 道化師の如き存在なのではないかとね。 キョン:・・・・。 イツキ:冗談です。 キョン:お前の言ってる事は、何一つとして理解出来ん。 イツキ:人間原理を引き合いに出したのは、物の例えですよ。 涼宮さんの話がまだです・・・。 キョン:だから、どうしてお前も長門も朝比奈さんも ハルヒがそんなに好きなんだ? イツキ:魅力的な人だとは思えますが。それは置いときましょう。 ・・・覚えていますか?世界は涼宮さんによって 作られたのかもしれない、と僕が言ったこと。 キョン:忌々しい事に記憶には残ってるようだな・・・。 イツキ:彼女には願望を実現する能力がある。 キョン:そんな事を大真面目に断言するな。 イツキ:涼宮さんは、宇宙人がいるに違いない、 そうであってほしいと願った。だから、長門有希がいる・・・。 同様に、未来人もいてほしいと思った。だから朝比奈みくるが ここにいる。そして、僕も・・・。彼女に願われたからという、 ただそれだけの理由でここにいるんですよ。 キョン:だ〜か〜ら。何でわかるんだよ!? イツキ:三年前の事です・・・。 キョン:三年前の事はもういい!聞き飽きた・・・。 イツキ:ある日突然、僕は自分にある能力と、どう使うかべきかを 何故か知っていた。僕と同じ力を持つ人間が、僕と同様に 力に目覚めた事もね・・・。ついでに、それが涼宮ハルヒによって もたらされた事も・・・。何故かは説明出来ません。 わかってしまうんだから仕方がないとしか・・・。 キョン:一億万歩譲ったとして、ハルヒにそんな事が出来るとは思えん。 イツキ:我々だって信じられなかった。一人の少女によって 世界が変化・・・いや、ひょうっとしたら創造されたのかもしれない なんて事もね。しかも、その少女はこの世界を自分にとって 面白くないものだと思い込んでいる。これは、ちょっとした恐怖ですよ。 キョン:何故だ? イツキ:言ったでしょう?世界を自由に創造出来るなら、 今までの世界をなかった事にして、望む世界を一から創り直せばいい。 そうなると文字通り、世界の終わりが訪れます。 もっとも。僕達がそれを知る術はないでしょうが・・・。 むしろ、我々が唯一無二だと思っているこの世界も・・・実は 何度も創り直された結果なのかもしれません・・・。 キョン:だったらハルヒに自分の正体を明かしたらいい。 超能力者が実在すると知ったら喜ぶぞ?あいつ。 世界をどうにかしようとは思わないかもしれん。 イツキ:それはそれで困るんですよ。涼宮さんが、超能力なんて 日常に存在するのが当たり前だと思ったなら、世界は本当に そのようになります。物理法則が全てねじ曲がってしまいます。 宇宙全体がメチャメチャになりますよ。 キョン:ハルヒが望んでお前達がいるなら、何故ハルヒ自身は それに気づいてないんだ?おかしいだろ? イツキ:宇宙人や未来人や超能力者が存在してほしいという願望と そんなものがいるはずがないという常識論が、涼宮さんの中では せめぎあっているのですよ。彼女の言動は、確かにエキセントリックです。 しかし、その実。涼宮さんはまともな思考形態を持つ一般的な 人種なんですよ。中学時代は砂嵐のようだった精神も、ここ数ヶ月は 割に落ち着いて、僕としてはこのまま落ち着いてほしかったんですけどねぇ。 ここにきてまた、トルネードを発生させている。 キョン:どういう訳だ? イツキ:あなたのせいですよ。 キョン:俺がどうしたって? イツキ:怪しげなクラブを作るように吹き込んだのは、あなたです。 あなたとの対話によって、彼女は奇妙な人間ばかりを集めたクラブを 作る気になったのだから、責任はあなたに帰結します。 その結果、涼宮ハルヒに関心を抱く三つの勢力の末端が 一同に会する事になってしまった・・・。 キョン:・・・濡れ衣だ。 イツキ:ま、それだけが理由ではないのですが・・・。 (とある横断歩道の前に降りたキョンとイツキ。) ここまでお連れして言うのもなんですが、今ならまだ引き返せますよ? キョン:今さらだな・・・。 イツキ:暫し、目を閉じていただけませんか?ほんの数秒で済みます。 キョン・・・・? (目を閉じるキョン。その途端、キョンの手がイツキによって握られる。) 何の真似だ・・・。気持ち悪い。 イツキ:もう結構です。・・・次元断層の隙間。我々の世界とは 隔絶された、閉鎖空間です・・・。丁度、この横断歩道の真ん中が、 この閉鎖空間の壁でしてね。半径はおよそ5キロメートル。通常、 物理的な手段では出入り出来ません。僕の持つ力の一つが、この空間に 侵入する事なんですよ。地上に発生した、ドーム状の空間を 想像してください。ここはその内部です。今、この時でも外部では なんら変わらない日常が広がっていますよ。普通の人がここに 迷い込む事は・・・ま、滅多にありません。閉鎖空間はまったくの ランダムに発生します。一日おきに現れる事もあれば、何ヶ月も 音沙汰なしの事もある。ただ一つ明らかなのは、涼宮さんの精神が 不安定になると、この空間が生まれるって事です。閉鎖空間の現失を 僕は探知する事ができ、そこに入る事も出来る。さらに、僕の能力は それだけではありません。言うなれば、僕には涼宮さんの理性を反映した 能力が与えられているのです。この世界が涼宮さんの精神に生まれた にきびだとしたら、僕はにきび治療薬なんですよ。 キョン:お前の例えはわかりにくい・・・。 イツキ:よく言われます。しかし、あなたも大したものだ。 この状況を見て、ほとんど驚いていませんね。 キョン:既に色々あったからなぁ・・・。 イツキ:始まったようです、後ろを見てください。 キョン・・・?・・・!!! (キョンが振り向くと、半透明の巨人が街を破壊している) イツキ:涼宮さんのイライラが限界に達すると、あの巨人が 出てくるようです。ああやって周りをぶち壊す事で、ストレスを 発散させているんでしょう。現実世界で暴れさせる訳にもいかないから こうして閉鎖空間を生み出し、その内部のみで破壊行動をする。 なかなか理性的じゃないですか。物理的には自分の重さで立つことも 出来ないはずなんですがね。いかなる理屈も、あれには通用しません。 たとえ軍隊を動員しても、あれをとめる事は不可能でしょう。 キョン:じゃあ、あれは暴れっぱなしなのか? (その時、巨人の周りに赤い光が飛び交う) イツキ:見てください。・・・僕の同士ですよ。 僕と同じように、涼宮さんに力を与えられた巨人を狩る者です。 さて、僕も参加しなければ・・・。 (そう言うとイツキは赤い球体に身を包み、巨人の元へと飛んでいく) キョン:・・・・!!!デタラメだなぁ、もう・・・・。 (無数の赤い光によって、巨人は粉々に寸断されていく。) イツキ:お待たせしました。最後にもう一つ、面白いものが見れますよ。 キョン:・・・これ以上何があるんだ? イツキ:あの怪物の消滅に伴い、閉鎖空間も消滅します。 ちょっとしたスペクタクルですよ。 (再びタクシーで移動する二人) わかっていただけましたか? キョン:・・・いいや。 イツキ:あの青い怪物を、我々は神の人・・・神人と呼んでいます。 神人は涼宮さんの精神活動と連動している。そして、我々もそうなんです。 閉鎖空間が生まれ、神人が生まれる時に限り僕は異能の力を発揮出来る。 それも、閉鎖空間の中でしか使えない力です。例えば、今僕には 何の力もありません。何故、我々にだけこんな力が備わったのか・・・。 多分、誰でもよかったのですよ。たまたま選ばれただけなんです。 神人の活動を放置しておくわけにはいきません。何故なら、 神人が破壊していけばいくほど閉鎖空間は拡大していくからです。 さっきの空間は、あれでもまだ小規模な物です。放っておけば どんどん広がって、そのうち全世界を覆い尽くすでしょう。 そうなれば最後・・・。あちらの灰色の空間が、こちらの世界と 入れ替わってしまうのですよ。 キョン:何故、そんなことがわかる? イツキ:わかってしまうのだからしょうがありません。 僕達、機関に所属している人間は全てそうです。僕達がなんとか しなければ、確実に世界は崩壊するのです。・・・困ったものです。 涼宮さんの動向には注意しておいてください。ここ暫く安定していた 彼女の精神が、活性化の兆しをみせています。 今日のあれも、久しぶりの事なんですよ。 キョン:俺が注意してても、どうこうなるもんでもないんじゃないのか? イツキ:さぁ・・・。それはどうでしょうか?僕としては、 あなたに全てのゲタを預けてしまってもいいと思っているんですがね。 我々の中でも、色々と思惑が錯綜してまして・・・。 キョン(M):古泉は、ハルヒの動向に注意しろと言う・・・。 長門も何だか知らないが、気をつけろと言っていた・・・。 それでも俺は、今すぐ何かが起きるのだろうとは思っていなかった。 もし俺に予知能力があって、翌日あんな途方もない事態が 到来する事がわかっていたとしたら・・・。 とてものん気にしてはいられなかっただろうなぁ・・・。 続く