吸血鬼達は永遠を生きる存在故の、あるいは血を吸って生きる怪物であるが故の独特の哲学を持っています。
吸血鬼文学にはしばしば、彼等ならではの深いセリフが見受けられます。
あるものはおぞましく、
あるものは悲しみに満ちて、
またあるものは大いなる説得力をもって、実に鮮やかに物語を彩っています。
 そんな心に残るセリフを、私の独断と偏見によりここに集めてみました。
彼等の哲学が垣間見えるでしょうか…?
 尚、()内は発言者と収録作品名です。

<愛について>

「ねえ、私を冷たいなんて思わないでね。
私の強さと弱さは、自分ではどうにもならない掟に従っているからなの。
あなたの心が傷付けば、私の心だって一緒に血を流しているのよ。
あなたの暖かい命で私は生きるの。
あなたはね、あなたは死ぬの、私のために。ゆっくりと死んでいくの。
そういうわけよ、仕方がないの。
私があなたに近付いているように、今度は、あなたが別の人に近づくの。
そして、残酷さに酔いしれるのよ、でもそれだって愛だわ。
ねえ、しばらくはこれ以上私のことを知ろうとしないで。
今は私を信じて、私を愛してくれることで我慢してね」
(カーミラ『吸血鬼カーミラ』)

「人間を愛するだと?そんなことに三百年もかかるというのか!」
(レスタト『ヴァンパイア・レスタト』)

「でも私は遠い処から来たのよ、それはずうっと遠い処なの。
其処へ行った者は誰でも帰って来た事の無い国なの。
そうかと云ってお日様でもお月様でもないのよ。
唯、空間と影ばかりある処なの、大きな路も小さな路もない処でね。
踏むにも地面のない、
飛ぶにも空気のない処なの。
それでよく此処へ帰って来られたでしょう。
何故と云えば恋が『死』より強いからだわ。
恋がしまいには『死』を負かさなければならないからだわ」
(クラリモンド『クラリモンド』)

「私、ほんとうに神様が憎くらしいわ、
貴方はあの時も神様が好きだったし、今でも私より好きなのね。
ああ、ああ、
私は不仕合せね、
私は貴方の心をすっかり私の有(もの)にする事が出来ないのね。
貴方が接吻で生かして下すった私---
貴方の為に利の門を崩して、貴方を仕合せにしてあげたいばっかりに、命を貴方に捧げている私」
(クラリモンド『クラリモンド』)


<情熱と倦怠について>

「情熱とは珍しくも麗しいもの、若さと希望のもつ本当の情熱は。
それはよどんだ池に落ちる小石、
耳に聞こえぬ鐘の響き。
しかし、さざ波がいつかおさまり、こだまが消えるように、情熱も恐ろしい事態に陥る---
なぜなら、遅かれ早かれわかるとおり、幸福を思い出すことは最悪の不幸だから」
(バイロン卿『ヴァンパイア奇譚 真紅の呪縛』)

「結局のところ、倦怠よりは苦悩のほうがまし、静かな池より大洋の嵐のほうがましというものだ」
(バイロン卿『ヴァンパイア奇譚 真紅の呪縛』)


<善と悪について>

「邪悪な生を運命づけられた人間は、それに抗う方法を知っていれば、そうするだろうということは言える。
邪悪になることなどたやすいと主張する輩は、完璧にまちがっとる。
善人であることのほうがよほど簡単なのだ」
(バーナバス『ダーク・シャドウズ』)

「あなたたちの伝説によれば、われわれは悪の精髄でできているとされています。
吸血鬼には魂がなく、
気高さもなく、
贖罪の希望もないといわれています。
わたしは認めません、アブナー。
わたしは数えきれないほど人を殺してきました。恐ろしいこともたくさんしてきました。
しかし、私は悪ではありません。
みずから選んでそうなろうとしたのではないからです。
選択がなければ、善も悪もありえません。
われわれにはそのような選択は決して与えられていませんでした。
赤い渇きがわれわれを支配し、われわれの運命を定め、われわれから一切の可能性を奪っていたからです」
(ジョシュア・ヨーク『フィーヴァードリーム』)

「おまえは悪について語った。
どこでその概念を学んだのか?
むろん彼ら、家畜たちからだ。
善と悪、それらは家畜どものことばであり、彼らの無価値な生命を保存するためだけに発明された空疎なことばにすぎん。
彼らは、彼らにとって本質的優越者であるわれわれを死ぬほど恐れながら生き、
そして死んでいくのだ。
われわれは彼らの夢すらも支配する。
それゆえ彼らは虚偽のうちに慰めを求め、我々にまさる存在として神を発明した。
十字架と聖水によって我々を支配できると信じたいからだ」
(ダモン・ジュリアン『フィーヴァードリーム』)


<神について>

「神は存在するかもしれない---
しかし、存在するとしても、彼はわれわれになんの関心も持っていませんね。
いいですか---わたしはさまざまな恐怖を体験し、永劫というものを親しく知っているのです。
わたしは無窮の宇宙を、終わりのない時間を究明しました。
夜な夜な不可思議な科学に没頭し、霊の神秘、人の神秘をつきつめました。
この世界あの世界、この星あの星、この宇宙あの宇宙を訪ねて、神を捜してきたのです」
「それでも、なにも見つかりませんでした。
わたしたち、わたしとあなたのほかには、なにも存在しないのですよ」
(ヴァケル・パシャ『ヴァンパイア奇譚 真紅の呪縛』)


<運命について>

「追うものか追われるものかでないものがあるかね?
すべてのものが迫害するかされるかしかない…そして運命の女神はあらゆるものを迫害するのさ」
(アツォ『謎の男』)


<孤独について>

「わしのような生き方を楽しむことができる者がおると思うのか?
夜にさまよい、人に愛されることから閉め出されたいか?
邪悪な存在として生き、みんなに憎まれたい、そんな奴がいるだろうか?」
(バーナバス『ダーク・シャドウズ』)

「おまえは孤独について何も知らない」
「それがどういうものか、もう百年、二百年たっても、おまえは感づきもしないだろう!
時の流れの外に立ち、
かつて友と呼び、親友と呼び、恋人と呼んだ人々が
木の葉のようにしなびて死んでいくのを見守るつらさ---
どれほど多くの下僕や仲間に囲まれていようと、結局は常に孤独なのだと知るつらさを。
そして何より恐ろしいのは、対等の相手をもつことはないとさとることだ。
本当に欲求を満たしてくれ、
期待に応えてくれ、
自分を駆り立てるものについて理解してくれる者などいはしないのだと知ることなのだ」
(モーガン『フォーリング・エンジェル』)


<存在について>

「悪なんて一つの見方に過ぎない。
俺たちは不死身さ。
良心なんか味わうことも出来ない豪華な饗宴が目の前にあるんだ。
生命の限られた人間どもがいくら悔しがっても味わうことが出来ないのさ。
神だって人殺しをする。
だから俺たちもするんだ。
神はどんな金持ちだろうと、どんなに貧しかろうと、だれかれの区別なく取る。
俺たちもそうするんだ。
なぜって、神のもとのいかなる生き物も俺たちにかなうものはないからだ。
この俺たちほど神に似た者は他にはいないからだ。
俺たちは、地獄のいやな臭いのするどん底に閉じこめられずに、
神の造り給うた地上と神の王国をさまよう黒天使というわけさ」
(レスタト『夜明けのヴァンパイア』)

「われわれを気高くするもの、われわれを支配者たらしめるものは血ではない。
生命なのだ、ビリー。
彼等の生命を飲め、そうすればおまえの命がのびるだろう。
彼らの肉を食らえ、そうすればおまえの肉は強くなるだろう。
美を糧にせよ、そうすれば美に磨きがかかるであろう」
(ダモン・ジュリアン『フィーヴァードリーム』)

人間がみずから創り出した恐怖のなかで、
みじめで哀れな、ありとあらゆる魔物たちのなかで、
多少なりとも威厳があるのはヴァンパイアだけ。
餌食とする人間たち同様、ヴァンパイアはおのれの暗い欲望を無視して生きてゆくことは出来ません。
でも、ただつまらぬ人間どもとちがって、
たとえいくらさもしい行為に身を委ねようとも、そこにはれっきとした理由がある。
果たさねばならない目的が---つまりは文字どおりの不死の生。
それゆえに彼らは気高く、そして寂しいのです。
(メラニー『死は快楽』)

「吸血鬼という種族の神秘をきわめるようにと、あなたはおっしゃる。
しかし、むずかしいのは吸血鬼の何たるかを知ることではない。
吸血鬼である状態から逃れることです。
われわれには力が、知識が、永遠の生命がある。
でも、われわれが血を求めずにはいられないあいだは、こんなものにはなんの意味もない。
なぜなら、そういう渇望がある限り、われわれは忌み嫌われ、狩り出されるばかりだからです。
しかし、そこまでわかっていても、わたしの渇きは日に日にひどくなる。
じきに、血がわたしの唯一の快楽となってしまうでしょう。
ほかの楽しみは、口に入れても灰のように味けないものとなる。
これがわたしの---われわれの---呪われた運命です」
(バイロン卿『ヴァンパイア奇譚 真紅の呪縛』)


<生と死について>

「いや、いまのぼくは永遠に生きられるからね。
もう詩を書く必要は無いんだ---ぼくはいま詩を生きている。
夜はぼくのものだ。
大地の歌声は、世界と原子の古代のリズムは、けっして変わらない。
ぼくはメドゥサに会ったが、人間には冷酷な死に思えるものが、じっさいは誕生なのだ。
人は人間の熱い子宮から生まれおちるが、それはたんに……卵のなかのひよこが羽をはやすようなものだ。
ほんとうの永遠の誕生は、そのつぎの段階で、冷たい大地から生まれおちる。
そして、すててしまいたいと願っていたものをすべてすてさることができるのだ」
(ポリドーリ=ネピリム『石の夢』)

神はわたしへの誅罰として、死を禁じたもうたのではないか。
何百年も前、まだ若かったころは、地獄への転落を考えただけで、力の弱まる暗い朝に冷や汗をかいて目を覚ましたものだ。
だが今のわたしにとって永遠の断罪とは、永遠の生を強いられることにほかならない。
(ヴラド・ツェペシュ『夜の子供たち』)

「これから先のことを考えると怖いよ、ソーニャ。
この向こうにあるものが怖いのだ。
死ぬとはどういうものか、わしは知っている。
だが非生命の死後には何があるのだろう?
死者が死んだときには、何が起きるのだろう?
人間たちには、<あの世>で起きることにたくさんの選択肢があるようだが---われわれはどうなのだろう?
われわれは天国に行くのだろうか?
それとも地獄に行くのだろうか?
それとも単に、どこへも行かないというだけなのだろうか?」
「悲しいよ、実に悲しい。
何もかもすべて、意味のないたわごとだ、そうだろう?
苦痛も、死も、策謀も---みんななんの意味もないのだ」
(パングロス『フォーリング・エンジェル』)

「だいたい物を見ておどろくのはまちがっとる
…というのは、見方によればあらゆるものが似たり寄ったりでな…
生と死にしても、墓のあっちとこっちなんだから、あなたの想像以上に似とる」
(アツォ『謎の男』)

「わたしはあの鷲の子を自分の一部にしたかった---生気にあふれていたからだ。
だが、殺すことで、わたしを惹きつけていたものをわたしは破壊してしまった」
(バイロン卿『ヴァンパイア奇譚 真紅の呪縛』)


<血について>

「まだ長いことあなたを愛することができるわ。
私の命はあなたの命の中にあって、私の全身全霊があなたから出てくるのよ。
この世のどんな霊薬よりも貴重で効き目の強いあなたの豊かで気高い血の数滴が私を生き返らせてくれたのだわ」
(クラリモンド『吸血女の恋』)

「一しずく、ちっちゃな赤い一しずくだけ、針の先にチョッピリ赤くつくくらい!
……あなたがまだ私を愛してくれている以上、私は死ぬわけにはいかないのよ……ああ!気の毒なお人!
あざやかな赤い色をしたこの人の立派な血を今から飲むんだわ。
お眠り、私のかけがえのない宝。
お眠り、私の神さま。
お眠り、私の坊や。
痛い目にはあわせないわ。
あなたの命から、私の命を消さないために必要なものを頂戴するだけなの。
これほどあなたを愛しているのでなければ、ほかの男どもを恋人にして、その血管から吸いつくす気にもなれるだろうけど。でも、あなたを知ってからというもの、誰だろうとイヤでイヤで……まあ!立派な腕だこと!丸々として!この白さったら!
こんなきれいな青い血管に針を突き刺すなんて、とてもできないわ」
(クラリモンド『吸血女の恋』)


<時間について>

「…しばらく生きれば誰しも、時間と空間が思い出の妨げとなると感じだすものだ。
いつも間違いだとね」
(ヴラド・ツェペシュ『夜の子供たち』)

「かつて所有していた生命からこれほど離れてしまったと感じたことはない。
毎年、毎日が鎖の輪を一つずつ作り出してきた---私自身の不死性の重さだ。
その重荷を今では支えきれない」
(バイロン卿『ヴァンパイア奇譚 真紅の呪縛』)


<人間について>

人間は自分達の基準によって、現実というものを規定しようとする。
だがそうするための装備はお粗末なものだ---なぜなら、選択的に耳をとざしたり、片目を閉じたりしているからだ。
人間はまわりを取り巻く全宇宙を類別しようという飽くなき欲望を抱いている生き物だが、
それによって全宇宙が人間が開拓し利用するにふさわしいものであることのみが明らかにされるよう強要する。
物ごとは、あるべき姿に維持されなければならないのだ。
(ソーニャ『ミッドナイト・ブルー』)

「お前は人間であるということを、何かほめるべきこと、自慢すべきことだと考えているようだがね。
年月を経るにつれて、人間というのが本当はどういうものか、見えてくるだろうよ。
自分たちの世界を滅ぼそうと熱心な、目先のことしか見えないちっぽけな獣だということがね。
だいたい、われわれがいなかったら、人類という種は三十年ほど前に核で自滅していたことだろうよ」
(パングロス『ミッドナイト・ブルー』)


<誘惑の言葉>

「パパ、パパ、なかへいれて、ここは寒くて暗いのよ!」
(アレグラ『石の夢』)


<迷言?!>

「いい子にしなさい」
「さもないと、あのヴァン・ヘルシングみたいなやつにつかまるわよ!」
(ヴァレリア『夜の仲間たち』)