act.14 夏祭り)







俺はスタジオの一室で、新曲の振り付けを練習する和をぼーっと眺めていた。

子供をつくるというロマンティックな夢に浸る暇もなく、俺たちは相変わらず忙しい日常を送ってる。

でも…、あの夜は燃えたよなぁ…。
てをかえしなをかえ…、何回もイッて、その後も2人でずーっといちゃいちゃいちゃいちゃ…。


「リーダー」

和の声にハッと顔を上げた。
ダメだ。今はでれでれしてるときじゃねーな。

「なに?」

「ここの…、この振りの入りいつもタイミングズレるんだけど、どうやってる?


「…どうやってんだっけな?…ちょっとやってみる」

「うん」

パイプイスから立ち上がって鏡の前でステップを踏んだ。

1、2、3、4。1、2、3、4。

和が俺を見ながら呟いた。

「…いいね」

「しっくりくる?」

「だね。どこが違う?」

「入り、きっちり3拍半だと早いかも」

「うん」

「気持ちそれより遅めで入ると、…こうなる」

「あぁ、なるほど」


バタンッ!

大きな音に2人で振り向いた。

「あぁ〜〜!もう難しい〜!」

見ると相葉ちゃんが汗だくで倒れてた。

「寝てる暇ないよ!あんた一番遅れてんだから」

和がハッパをかけた。


「リーダーなんでそんなにすぐ出来るんだよ〜」

「なんでだろーね」

相葉ちゃんが可愛くて笑った。

「翔ちゃんできた?」

翔くんは相葉ちゃんの呼びかけを無視し、黙々とステップを踏み続けた。

「この人もさっきからおんなじとこばっか繰り返して進んでないし」

和のからかいに翔くんが振り返った。

「うるせーなっ」

和は、あははと高らかに笑った。

…あれ?…そういえば。

「潤くんは?今日合わせるから来るんでしょ?」

「あの人個室使って猛練習してるんだよ。一番始めるの遅かったからって言ってさ」

相葉ちゃんが廊下の方を指差した。

和が相葉ちゃんの近くに寄ってしゃがんだ。

「なに、どこでとまってんの?」

「あ、俺リーダーに教えてもらうからいい」

「どーいうことだよっ」

「リーダーの方が絶対優しいもん」

和が一瞬相葉ちゃんを見つめた後、相葉ちゃんの脇を激しくくすぐった。

「ひゃはははっ!ちょっ…やめろよ!」

「あーもう、お前らうるせーなぁ!気が散るだろ!」

「じゃあ、潤くんとこいけばいいじゃん」

「…」

「黙った!アハハハ(相&和)」

君たちほんとに仲がいいねぇ。

三人を見てたら自然と顔がほころんでくる。

和はもちろんだけど俺はメンバー全員好きだ。

みんなそれぞれ個性はあるけど、かっこよくて優しくて誠実で、たくさんの女の子が好きになるがよく理由が分かる。


「リーダー、俺なんか飲み物買ってくるよ。何飲みたい?」

「ねぇ、俺ものど乾いたんだけど〜」

「お前は飲んでる場合じゃない。だから買ってこない」

「それひいきじゃんっ。ひいきっ!ねぇっ、翔ちゃん」

「…俺松潤とこ行ってこようかな〜。集中できそうだけど、なんか厳しそう…」

相葉ちゃんを無視して廊下に出ようとした和を追いかけた。

「一緒に行って俺が買ってくるよ」

後ろで相葉ちゃんの叫びが聞こえた。

「やっぱリーダーやさしぃ!」


自販に行く途中で和を捕まえた。
和は俺をみて、あれ?って顔をした。

「待っててくれれば買ってくるよ」
「今月の目標。和を助ける。そうすれば俺を惚れ直す」
「あははっ、なんだそれっ。結局俺も行くからあんま助けになってないし」

和は素直じゃないから、こんなときかわしたりからかったりすることが多いんだけど、本当は結構喜んでるんだよな。
嬉しそうな笑い顔が可愛いから何度でも口説きたくなる。

自販機に着くと和がお金を入れてボタンを押した。

「相ばかは…コレ。翔くんは…コレ。…智には選ばせてあげる」

なんだ。ちゃんと買ってあげるつもりだったんだ。何だかんだ言って優しいんだよ。


…じゃあ、俺は、と。

ボタンを押そうとした時、ドン、という音が響いた。

俺たちは顔を見合わせた。

「なんだこの音」
「…花火じゃない?」
「このスタジオの近くで花火大会なんかあったっけ?」

また、ドン、ドン、と鳴った。

「やっぱそうだ」
「外へでてみよう!」

2人で手をつなぎ玄関から出て上を見上げると、夜空に煌びやかな花達が咲いては消えていった。

「近くに川があるから、やっぱりやってたんだ…」

呟く和の顔が花火に反射して赤くなったり黄色くなったりして光っていた。
遠くでお囃子の音が微かに聞こえてくる。

「あっちで屋台とかもやってるっぽいね」

「見つかったらマズいから行けないけど、りんご飴とか食べたい」

「俺、孫悟空のお面がほしい」

「今度番組の企画でやろーぜ。5人で屋台をはしごして遊ぶの」


多分今俺たちはおんなじ気持ち。

人気がでるのはとってもとっても嬉しいことだけど、やりたいことや行きたいところが制限されていくのも事実で…。

それを実感するとき、少し寂しい気持ちにもなるんだ。


「…和と2人で原宿デートしてーな…」

「50才くらいになったらしよーか」

「今…、屋台デートは無理だよな、やっぱ」

「困らせんなよ」

空を見上げる横顔を見つめた。

和、大好きだ。お前とだったら一緒に、世界中どこでも行きたい。

「ちょっと待ってて」

和が不意に何かを思いついたように向かいのコンビニに走っていった。

戻ってきた彼の手には買い物袋。

「花火買ってきた。この建物確か屋上あったよな。一緒にしよ」

顔がゆるむ。

自然にこういうことができるとこ、最高にカッコいいよ。

和は俺の肩を抱き、2人でまた建物の中に戻った。
そのままその足で屋上へあがった。

屋内より空気はじんわり湿っていて蒸し暑かったけど、眺めは最高だった。

ドン、ドン、と上がる打ち上げ花火の下で、小さい花火の用意をした。

和がネズミ花火を取り出した。

「あれ?なんか火付けたのにはじまんないんだけど」

「しけてんじゃなくて?」

バチバチバチバチッ!!

「うわっ!!!」
「あっちぃ!!」
「ちょっと、こっちくんな!」
「あはははっ!」

ネズミ花火、手持ち花火、打ち上げ花火。笑いあってはしゃいでるうちに、あっという間に全部終わってた。

線香花火だけが残ってたんだけどあんまりやる気しなくて、いつの間にか座ってて、また夜空の打ち上げ花火を眺めてた。



キス…したい。



いつもは和のしたい時に和から誘ってくるけど、たまには俺からしてもいいよな…?

手を伸ばせば届く距離にいる彼の肩を引き寄せた。

チラッと俺の顔を見た和が、一瞬照れたようにふっと笑うと、(ほら)と唇を突き出し目を閉じた。

軽くするつもりだったけど気持ちが抑えきれなくて、両手で力強く和の顔を引き寄せ、柔らかい唇に深く唇を重ねた。

和は俺の舌が入ってくるのを待ちかまえていたみたいだった。
少し遠慮がちに舌を滑り込ませたら、途端に絡め取られてしまったから。

気持ちに応えたくて、出来る限り首を傾けた。
奥まで愛撫出来るように深く深く唇を密着させた。

和は俺の舌をチュパチュパほ乳瓶みたいに吸ったり…、俺は和の口元から流れた唾液を舐めたりして…。


ふと、気持ちよさそうな和の顔を見ていたら、アソコはどうなってるのか気になった。

ウエストの緩そうなジャージだったから、手を中に滑り込ませてパンツの上から触ってみた。

「アッ……、ゥ!」

和が微かに顎をそらせた。
さわった瞬間は半勃ちだったと思うんだけど…、和の喘ぎ声と同時にソレはぐぐぐ、と堅さを増した。

汗ばんだ額が俺の首に当たる。
俺の腕を掴んでいる手に力が入る。

こんなとこじゃなかったらそのまま押し倒したいとこだけど…。


「和、大丈夫?」

「も〜…、どーすんだよ、コレ。あんたが丹念にキスした上に触ったりするから…」

…照れてる。珍しいな。

「一回出しとこうか?」

「ここじゃ受け止めるものがない。…この後もリハあるし」

「じゃあ一緒にトイレ行こう」

「一緒じゃなくていい」

「怒ることねーじゃんっ」

「怒ってねーよっ」

「やっぱ怒ってんじゃん…」

「怒ってないって」

怒ってなくても困ってるよな…。舐めて、飲んでもいいんだけど…、俺も今少し勃ってるし、そんなことしたらそのままの状態を保っていられる自信がない。

「取りあえず中入ろーよ」

手を引いてあげると、和は少し前かがみになって立ち上がった。

「なんかこの状態、情けないな…」

「そんなことない。和はいつもカッコいい。………‥でも…、…すごい気持ち良かったんだね。さっきのキス」

「………だなー。智テクニシャンだもん」

「……俺、練習はいる前にもう一度和とキスしておきたいんだけど…、ダメ?」

和のキレイな顔をのぞきながらイエス、ノーを伺う。

答えはイエス。

俺の顔を優しく引き寄せてくれたから。

お互い愛してることを確かめるためのキス。

最初はついばんで…、それから次第に深くなっていった。



その時だった。




コンコンコン。



ハッと2人で音の方向を振り向いた。


スラッとした人影が屋上の出入り口の扉に寄りかかり、腕を組みながらこっちを見ている。


コンコン…。


その人影が自分に気づかせるために扉をノックしていたんだ。



翔くん……。

「いくら仲良しコンビっつっても、それはいきすぎだろ」


今まで見たことのない険しい表情に、心臓が、ドクッと鳴った。


ドッ…、ドッ…、ドッ…。


翔くんは鬱陶しそうに頭をボリボリかくと、吐き捨てるように言った。



「はっきり言うわ。オレ、今スゲームカついてる。何でだか、凄く気にくわねー」



平和だった俺たちの間に、突然降ってわいた、不協和音の始まりだった。