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act.15 始まりのトライアングル
離れて立つ三人の間に沈黙が流れた。
どちらかというと和をニラんでいる翔くんを、ショックな気持ちでみていた。
翔くんは大人で…、俺達が好きかってして突っ走り過ぎても、自然と元の位置に
空気を戻してくれる。
優しくて頭が良くて、静かにありのままの俺達を見守ってくれてる人。
その人がこんな風に険しい声で話すのを聞いたことがなかった。
それを言わせた原因が俺達なら…。
ショックでまんじりとも動けなくなってた。
口火を切ったのは和だった。
「で?ムカつかれてるだけじゃわかんねーな」
ビビってる俺に比べて、和はほぼいつもと変わらない声のトーンでしゃべった。
腕を組みながら口の端で笑っている姿は、ふてぶてしさを感じさせるほどだ。
ちょい和…、怒ってる翔くんにそりゃねーよ。
とりあえず謝ろう!
何が何でも一度は謝ろう!
…和、顔色は変わんないけど、アソコはあっと言う間に萎えてんな。
んなこと考えてる場合じゃない、俺!!
「翔くん、ごめっ…」
「だいたいさぁ」
俺の理由なき謝罪は和に遮られた。
「俺達の関係に今更気付いたってことのが驚きなんだけど」
「わかるわけねぇよ。お前らは最初からベタベタしてたし。…最近だろ?デキた
の」
「そうだけど。でもメンバーにはわかるように意思表示してたつもりなんだよな
」
「智くん、そうだったの?」
「俺は…、なんにも考えてねぇ」
とりあえず、ヘラッと笑っておいた。
「………」
あ、無視された。
「この間の休みも2人でいたのかよ」
「…そうですけど何か?」
俺抜きで話進めてら。
ここは少し様子を見たほうがいいよな、うんうん。
「飽くまで、友情だから許されてきたことで、マジでデキてるのはマズいんじゃ
ないの?」
「別に世間に公表する必要なんかないよ。男女の間でも、こんなのは基本的にプ
ライベートなことじゃん」
「これから俺達が活動していくのに支障がでる」
「完全にデキてから二、三ヶ月は経つけど、なんか支障あった?やるべきことは
やってる」
「ひょうひょうとしてんな!!頭にくるんだよ!!」
「ちょっ、待て待て待て!頼むからケンカすんな。それこそ活動に支障がでる」
二人の間に仲裁に入った俺の手を、和がぐいっと引っ張った。
「中入って練習の続きしよう。さとし。…ま、俺たちはほぼ完成しちゃってるし
、やることも無いけど」
「」
翔くんは奥歯をかみしめ、思いっきり顔をしかめた。
引っ張られて翔くんの前を通った時、作った握り拳がぷるぷる震えてた気がする
。
翔くんを置いて階段を駆け下りる途中、慌てて和に話しかけた。
「和!俺たち翔くんの怒りが溶けるまで、みんなの前では離れてるかっ」
「何テンパってんだよ!付き合ったときからこんぐらい覚悟しろっ」
「俺マジでなんにも考えてなかったから…」
ずっと一緒にやってきたメンバーから2人の仲を否定される…。
ボーゼンとしながら頭をがしゃがしゃかいた。足を止めて俺の様子を確認した和
が、防音のきいた個室に引っ張り込んだ。
俺の服の襟を両手で掴んで、バンッと壁に押し付けた。
「いいかっ、聞けよ!!」
怒鳴る和の顔を硬直しながら見つめた。
「これからまだまだこういうことがあるかもしれない!今回は翔くんだったから
いい!でももし噂が広まったら、別れろって言われる時は絶対来るんだ!!」
…こんなに真剣に怒鳴る和は…、初めてだった。
和は少し腕の力を緩めると、穴があくほど俺の目を見つめた。
「でもな、……俺たちなんにも悪いことしてないんだよ」
そのまま俺の肩に顔を預けた。
「後悔するなよ。周りなんか気にすんなよ。そんなの…、全然らしくないじゃん
…」
少し震える肩を感じて…、なんだ…、と胸をなで下ろした。
なんだ…、そんなこと心配してたのか…。
和の後ろ頭をなでなでしてあげた。
「なんで、俺が和を好きになったことを後悔すんだ?…そんなの考えたことねー
よ」
「ビビってるからだろ」
「俺はメンバー全員大好きだから、みんなの迷惑になるなら工夫した方がいいの
かって思っただけ。俺達のことを誰がどう思おうと気にしねぇよ」
「…俺は、今まで通りでいたい。変わる必要なんかない」
「その方が嬉しいよ。俺はね」
和は俺からそっと離れた。
ちょい、涙ぐんでる?
ごめんな…、不安にさせて。
和は気を取り直すみたいに目にかかった前髪を振払った。
「…ま…、翔くんのあの顔は、理性的に考えて怒ってるんじゃないね」
「?どういうこと?」
「知んない。自分で考えれば?さっ、ホントに練習に戻るよ」
…?理性的じゃない?
和のいうことは難しくて時々わかんないな。
部屋の扉に手をかけた和が振り返り、ビシッと俺を指さした。
「浮気すんなよ!!」
……しないよ。
??
なんで?
元のスタジオに戻ると、メンバーがそろってた。翔くんもいたけど、俺たちは何
もなかったかのように振る舞った。
松潤が、「そろそろはじめよーぜ」と全員に声をかけると、今回の振付師が「よ
ろしく」と頭を下げた。
みんなわらわらと定位置につく中、相葉ちゃんだけがコンビニ袋の中の缶ジュー
スを物色していた。
「リーダー…、遅かった上にぬるくてマズいよ」
文句を言いながらもスポーツドリンクをがぶ飲みする相葉ちゃんに、ごめんごめ
んと片手で拝んで謝った。
合わせ練習はスムーズに終り、移動の位置とわずかな絡みを確認して、後は自己
責任で自分のパートを完成させるという流れになった。
「この後なんだっけ?」
「ドラマの取材入ってます」
時間を見計らって和を迎えにきたマネージャーが急かすように早口でしゃべった
。
今日はここで離れるのか…。
吹雪の冷たい空気が体を刺すみたいに、寂しい気持ちが心を刺していた。
出て行く姿を見れば…、また寂しさが募るだけだから、少し俯いて和が出て行く
気配だけを感じようとした。
肘まで捲っていた袖を直しながら耳を澄ました。
「深夜まですいません」
「ん、別に平気」
和が横を通り過ぎていく気配に少し体が強張った。
「取材、何分くらいで終わる?」
通り過ぎながら話す和の手が、俺の髪をツン…と引っ張っていった。
……離れて寂しいのはお互い一緒、なんだよな。
「リーダー。ちょっと残って練習付き合ってくんない?」
パタンと和が出て行く気配を確認してから相葉ちゃんに笑顔を向けた。
「うん、いいよ」
相葉ちゃんと1時間ほど一緒に残って、それからタクシーを呼んだ。
家に帰るタクシーの中、ぐったりとシートにもたれかかった。
なんか今日は疲れたな…。でも明日も仕事…。
釣り行きたい。
えーと…、次のオフはいつだっけ?
首をぐるぐる回してるうちに眠気が襲ってきて、ウトウトしてたらいつの間にか
家の近くまで来てたみたいだった。
運転手が遠慮がちに話しかけてきた。
「すいません、ここからの道教えてもらえます?入り組んでるから…」
「…あっ、はい」
眠気を振り払って道を教えようと窓の外を見た…、その時だった。
あれ…?あれっ!?
ちょっ、ちょっと待った!
「止めてください!」
「えっ、ここですか?」
「ここまで来れば歩いて帰れるから!」
キィッと急停車したタクシーから飛び降りて、来た道を少し戻ると、さっき視界
の端に捉えた人影を探した。
少し下った坂の下に、さっきまで一緒にいたよく見知った人が歩いていた。
「翔くん!」
翔くんはサングラスを少しずらして俺を確認すると、俺の近くまで来た。
「顔隠すためだったけど…、こんな静かなとこじゃコレ必要なかったな」
そういうと、翔くんはかけてたサングラスを外しTシャツの首にかけた。
「びっくりした。どうしたの?」
「前来たのずいぶん昔だから細かい場所忘れちゃってさ、結構迷っちゃったよ。
今電話しようと思ってたとこ」
「やっぱ俺んちに用事?」
「うん…、ていうか、智くんに。ちょっと2人っきりで話したくてさ」
…顔はいつもの穏やかで優しい翔くんだけど…、話の内容は決まってるよな。
「…外で話した方がいいよね。近所の店も閉まってるしな…。どうしよう」
「そこの公園でいいよ」
翔くんは俺の肩に腕を回すと、公園の方へ俺をいざなった。
優しく微笑んで一緒に歩く翔くんに、申し訳ない気持ちになった。
忙しいだろうにわざわざ家まで来てくれて…、心配かけてごめん。
公園のベンチの前に来ると、翔くんがベンチの上のホコリを払った。
「きったねーなぁ。智くん、コレ敷こうか?」
腰に巻いてるギンガムチェックのシャツを解こうとする翔くんに笑った。
「いいよ。女の子じゃないんだから」
俺はベンチにどかりと腰を掛けて、両手を膝の上で組んだ。
「そうだよな…」
翔くんも俺の隣に座った。
「俺が何で智くんの家知ってるのか覚えてる?」
「聞いたけど、俺覚えてねぇんだよな」
「あははっ。あなた酔いつぶれてたんだよ」
「らしいねぇ」
「あなたの指名を受けて、なぜか俺が迎えにいったの」
「ありがとね」
「…また送ってあげるよ。いつでも呼びなさい」
翔くんは親指を立てて、フフンと笑った。
爽やかに話す翔くんを見ていたら気分がだんだん落ち込んできた。
俯きながら、切り出してみた。
「…話って、なに?」
「あぁ、…うん」
あ、しまった。翔くんも俯いちゃったよ。
「何の話かはわかってる、でも」
「俺から話すよ」
「…うん」
…自分から話すといった割には、ずいぶんと長い沈黙が落ちていた。
どうしたんだろうと横を見ると、俯いたまま押し黙っているんだけど…。
街灯に照らされた翔くんの顔が……、真っ赤に染まっていた。
びっくりして思わず聞いてしまった。
「どうしたのっ?」
「…いや…」
翔くんは手で口を覆った後、また沈黙した。
「翔くん変だよ。具合でも悪いの?」
にわかに焦った。
けど、翔くんは気を取り直したみたいに俺の目を見つめた。
「…屋上で言った言葉は俺の本心じゃない」
「気は使わないでよ」
「使ってないよ。マジでごめん。ムカついたのは本当なんだけど、別に2人を責
めるとかそういうつもりじゃないんだ」
「……」
「…実は俺、智くんには憧れてるんだ」
「えっ?」
「俺には無い才能たくさん持ってる人だから」
「…そんなことないんじゃない」
照れくさくて少し笑った。
「絵とか、ダンスとか。すごいって思う度、智くんのファンになってる」
ポリポリ指で鼻をかいた。
恥ずかしいけど…、嬉しいかも。
「そういう時智くんが羨ましくなるんだけどさ、それでもトークとかラップとか
キャスターとか、智くんとは別分野で俺だって肩を並べてられるって思うんだ」
「そりゃそうだよ!」
驚いて声を張ってしまった。
「だいたい翔くんが俺を羨ましがるなんて変だ。…だって翔くんだぜ?」
翔くんの魅力は近くにいる俺達が一番知ってる。
翔くんは嬉しそうにはにかんだ。
「ははっ。サンキュ」
「ホントのことだ」
「…合うと思わない?」
「何が?」
「俺達。…足りない部分を補いあえるっていうか…」
??
…どういうこと?
「…合ってるから今まで一緒にやってきてるんじゃない?」
翔くんは体ごと俺に向き直った。
片足をベンチの上に乗せて、その膝を抱えた。
…じっ、と俺をのぞき込む…。
「…智君から見て、俺ってどう?」
「どうって…、どういうこと?」
なんだかさっぱりチンプンカンプンだ。
「その…、アイドルとして…、男として」
自信喪失でもしてんのかな?
その相談だった?
「翔くんが魅力的なのは、ファンの数を見ればわかるじゃん」
「智くんはどう思ってる?」
「翔くんは優しいし頭はいいし大人だし最高だよ。かっこいいっていつも思って
るよ」
俺はふざけてフンッ、とガッツポーズを作った。
「欲を言えば筋肉に見合った力があればもっといいね!」
パシッ、と……。
上げた腕を掴まれた。
なんだ?と思って見ると、翔くんの真っ直ぐな瞳があって…。
グイッと引っ張られた。
前に倒れそうになるのを踏ん張って防いだ。
「な、なに?!」
視界が暗くなった。
と同時に。
ちゅっ…、と。
唇が重なってた。
━━━━!?
ぎゅうぅっと目を閉じて、パッと開いてみた。
そこにはやっぱり翔くんの顔があって。
よろけた拍子にぶつかったのかと思ったけど…それにしては密着度が…。
考えているうちに顔を両手で包まれて、ボーゼンと半開きになってる俺の口の中
に舌が侵入してきた。
翔くんのキスは優しかった。どこまでも気遣いにあふれていて、飽くまでも相手
の快感だけを引きだそうとする舌使い…。
何かの間違いだって思いながらも長い間翔くんに唇を預けてしまって…、翔くん
は名残惜しそうに俺を離した後、照れ臭そうに下を向いて呟いた。
「今更遅いかもしれないけど、俺の気持ちはこういうことだから」
…俺はただただ驚いて…、ひたすら翔くんを見ていた。
翔くんは俺の反応を待つようにベンチに座ってじっと地面を見つめていたけど…
。
俺の足がスクッと伸びた。
翔くんを置いて家の方向に駆け出した。
見慣れた道を通ると、あっと言う間に自宅に着いた。
玄関に入って一目散に部屋に上がる俺に、母ちゃんが気付く。
「さとしっ!お夜食っ」
「後で食う!」
部屋の扉をバタンと閉めると…、数秒後、がっくりと膝が崩れた…。
両手をついて思い切りうなだれた。
一体、今、何が……?
同じグループ内で、男だらけの三角関係…?
…そんなに魅力的なの?
子供にも女にも男にもホレられるオイラ…。
魔性なのか?!(無自覚だけどっ)
明日からどうしよう…。
パンクしそうな頭を抱えながらやっと立ち上がれたのは、翔くんの残り香に気付
いた二時間後…だった。
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