先月、十月のある日のこと、夜中の三時ごろに、急に大きな物音がして、家族中がみんな起こされてしまいました。その正体、実は猫が金魚を捕まえようとして、池に落ちた音だったのであります。まさに、“猫の災難”ということで、今月のネタは、猫の災難を選びました。

 主人公は、ある男。仕事が休みだったせいか、朝からどこぞで一杯飲んでの帰りがけ、ふと魚屋の前を通りがかります。“大将、何ぞ、いきまひょか”との魚屋の声に連れられ、なんじゃかんじゃとしゃべり出します。“蛸の尾と頭はどこじゃ”とか、“蛸の足は何本か、イボイボの数はいくつか”と、おちょくったりしている間に、ふと隅に置いてある鯛の尾と頭に目がいきます。“腐ってまっせ。食べられしまへんで。”と魚屋に言われながらも、竹の皮に包んでもらって、上機嫌で家に帰ります。この辺の魚屋との会話、おもろいでんなあ〜。

 帰ってから、どう思いついたのか、この鯛の尾と頭をまな板に置いて、真ん中にすり鉢を伏せて置いて、一見すると、さも鯛が一匹いるかのように見せかけて、思案しているところへ、この男の友達がやってきます。この男も仕事が休み、今日は二人で一杯飲もうと誘いにきたところが、この鯛を見つけて、“酒は俺が買うてくるさかいに、その間に鯛を料理しといてくれ。”と頼んで、酒を買いに行ってしまいます。しかし、もとより真ん中の身のない鯛、どうしようかと思っていると、相手が酒を買って帰ってきます。“ボンボンと切ったが、真ん中を猫が持っていってしもた。今日は猫仲間の寄り合いがあるので、ちょっと頂きたいと猫が言いながら…。”なんて言い訳をします。“それでは尾と頭で潮汁(うしおじる)を作って、それで一杯飲もう。”と相手に言われますが、もともと腐っているので、“油断した隙に、天窓からお日さんがニコニコッとしはって、腐ってしもた。”と、これもまた訳の分からん言い訳をしてしまいます。こんな言い訳、なかなかかわいいですな。相手の男は、酒のアテがなかったら酒が飲めないと、それではしょうがない、乗りかかった船で、“アテを買いに行くさかいに、その間に酒の燗をつける用意をしといてくれ”と主人公に頼んで、出て行ってしまいます。

 一升瓶をド〜ンと置かれた主人公、飲みたくなるのは世の常、ちょっと一杯と、味見をし始めます。なかなかのええ酒、燗して飲むなんて素人、ほんまの酒飲みは冷やで飲むねやと、二杯・三杯と進んでいきます。ちょうど半分、そう、どちらにしても半分は主人公の飲む分なので、半分までは先に飲んでもええわなあと思いながら、ついつい余計に飲んでしまいます。今度はちょっとぐらい水で薄めといても分からんと思いながら、なおも飲んでいきます。この酒の飲み始めから、だんだん酔いが回ってくるところ、面白いですわなあ〜。途中で近所の長屋の娘はんが戸の穴から覗いているとか言いながら、唄を唄ったり、訳の分からんとことを言うたり、この辺は演者によって演出が異なりますな。とうとう、もうちょっとだけになって、最後のちょっとを畳の上にこぼしておきます。

 相手の男が帰ってくると、酒がない。また猫が持って行こうとするので、今度は怒って割り木を投げつけると、ちょうど一升瓶の詰めに当たって、酒が中から出てきてしまったという言い訳。しかし、主人公が前にもまして酔っているのを見て、相手が問いただすと、その畳の上にこぼれた酒を吸って飲んで、酔ったとのこと。“湯呑みで飲む酒もええけど、畳の上の酒はよう酔う。”おもろいセリフですな。そうこう言い合いしているところへ、主人公が噂をしていた猫が家に入ってきて、神棚の三方(さんぽう)さんの上に乗るなり、“悪事災ニャン(難)のがれますように。”と、これがサゲになります。猫が物を言う訳がないのですが、災難と、猫の鳴き声のニャ〜ンをかけているわけであります。しかし、あまり良いサゲとも思われませんし、分かりにくいですわな。

 上演時間はだいたい二十五分ぐらいから三十分ぐらい、普通は三十分ぐらいのものが多いと思われます。しかし、前述のように、サゲがあまり良いとも思えませんので、一升の酒を飲んでいる最中、飲み終わって言い訳をするあたりで切ることが多く、サゲまで演じられる方がかえって珍しいかも分かりません。また、極端に短くする場合は、最初の筋書きを作って、サゲまでいかずに途中で切って、“試し酒”という題で演じられることもあるようです。

 前述した型は、初代桂春團治の型といわれますが、それ以前がどうだったのかは私は全く知りません。しかし、現在は、この魚屋の件りを全く省いて、長屋の隣人から鯛を尾と頭をもらったという設定で話が始まることも多いようです。本来は、この型の方だったのでしょうか?しかし、魚屋のおっさんとの会話も非常に面白いので、私は結構好きです。とにかく全般にわたって、笑いの多いネタですが、やはり一番の聞かせ所・笑わし所は、一升瓶の酒を飲みながらの一人しゃべりでしょう。一杯飲んで酔いながらのしゃべり、演者としてはなかなか難しいところですわな。

 所有音源としては、故・二代目桂春團治氏、故・笑福亭松鶴氏、故・露の五郎兵衛氏、林家小染氏などのものがあります。春團治氏のものは、有名な『春團治十三夜』の中のものしか聞いたことがありませんが、全編にわたって、さすがに笑いっぱなしの、おもしろいもので、サゲは、“悪事災ニャン祓わせ給え”とされていますね。松鶴氏のものも爆笑ですが、やはり一升瓶を飲みながらの一人しゃべり、唄の入るところなんか、最高でしたな。五郎兵衛氏のものは、魚屋の件りがなく、途中で切る型となっていますが、他には見られない味があり、兄弟船の替え歌が入ったりと、これまた爆笑です。小染氏のものも大変におもしろく、特に一人しゃべりのところは、先代の小染氏を思い浮かび上がらせるような、先代が乗り移ったような描き方で、私も好きです。

 とにかく、笑いの多い、お酒の出てくるネタですので、結構残っていくネタではあると思いますが、結構難しいネタですよ。

<12.11.1 記>
<21.6.1 最終加筆>


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