『さて、どん尻に控えしは…』の十二月でございます。押し詰まりました。寒ぅなりましたな。今年は、暑い夏でしたけれども。一年の総決算とて、いろんな催しも、ございます。今年こそは、久しぶりに、臼と杵で、正月の餅なと、搗こうと思っておる次第ではございますけれども、『尻餅』は、もう出ましたな。お寒い季節の、『風邪うどん』で失礼させていただきます。サゲが分かりますので、『風うどん・かぜうどん』の表記も、よく取られております。
主人公と申しますのは、演題の通りの、うどん屋さん。屋台の、夜なき、流しの、うどん屋さんでござります。今日も今日とて、寒い晩に、荷を担げて、歩いております。「うど〜んぇ〜 そ〜いやぅ〜」「これ、子供、早いことしなはれや。うどん屋さん、通ってはるで。」と、こら景気がエエ話。商家みたいですので、丁稚さんを使いにやらして、店のもん、全員に、うどんを食べさせてやろうと、注文に、せかされてる…。と思いきや、出てまいりました、丁稚さん、表の溝をまたげて、小便。エエッ?違う違う、用事を言い付けられて、先に、自分の用を足して、ガラガラピシッと。エエエッ?用事忘れて、店入ってしもたんかいなあと、うどん屋はんのほうから、「こんばんは」と。「注文忘れて、店入ってしまわはりましたけれども。おうどんは、何杯さしてもらいましょ?」聞いてみると、エライ話。ここの子供さん、夜遅いと、暗いさかいに、裏の便所へ、よう行かんと。そこで、いつも、表を通る、うどん屋さんの灯りを目当てにして、溝をまたげて、小便してはんねて。こらまた、ややこしい話ですがな。うどんの注文、違いまんねて。「くそったれめが。」「いやいや、くそやない、小便や。」て、オチまで付いたある。
「うど〜んぇ〜 そ〜いやぅ〜」っと、今度は、酔っぱらい、酔いたんぼや。見つからんように、歩いては、おりますけれども、荷を担げておりますので、そういうわけには、まいりません。「うどん屋くん」「えらいエエご機嫌でんなあ。」「エエ機嫌?わしが、エエ機嫌で飲んでるか、悪い機嫌で飲んでるか、知ってんのか?」って、また、悪い酒や。「ちょっと、くれますか?」「おうどんですか?」「ゆ〜」「へぇ?」「ゆ〜や。さいぜん、溝へ、はまってしもて、泥だらけやね。ちょっと、湯かけて。」断るわけにもまいりませんので、こんなために、沸かしてある、お湯でもございませんが、かけてあげます。そんなんでもしといたら、うどんの一杯でも、食べてくれはるかいなあと思いますというと、案の定、「一杯くれるか?」て。ありがたい、「おうどんですか?」「水」「おひやですか?」「水」「そやから、おひやでっしゃろ。」「ああ、そう、水のこと、おひやちゅうの。ほな、エライ水害で、“水つきや”は、“おひやつき”か?“淀の川瀬の水車”は、“おひや車”か?」て、エライ話や。そやけど、水も、おひやと、言わんことはないて。場所は、一流の料亭、床柱背にして、前には、山海の珍味に、上等の酒。手を叩きますというと、『旦さん、何ぞ御用で?』『ちょっと、水を持って来てくれたまえ。』『へぇ、おひやですか?』と、これが、おひややて。うどん屋ふぜいでは、水で、よろしいねんと。一杯飲みまして、「これ、なんぼ?タダ?ほなら、もう一杯。」って、あんじょう、からかわれてまんねやがな。けったくそ悪い日ですなあ。
「おい、ちょっと置け。」と、こら、場面が変わりまして、なんじゃ、ヒソヒソ声。つまり、十人ほどが集まって、暗い所で、バクチしたはりまんねやな。小腹が空いたと見えまして、うどん屋の建て前を聞いて、注文に。それでも、ご法度ですので、大きな声出して、この夜の夜さりに、うどんを十膳も、注文しにくい。バクチしてんのん、バレたら、いかんさかいにねえ。うどん屋はんのほうは、どこぞで、「うどん屋」と呼ばれたような気はしましたが、あまりに声が小さいので、化けもんかなんぞやと思いなはって、気持ち悪がって、通り過ぎようとしております。「うどん屋〜。大きな声出すな。うどん十膳持って来てんか。」と、こら、ありがたい、大口の注文で。出来ましたけれども、大きな声を出すわけにまいりませんので、注文された家の戸口で、コソッと声を掛けて、中へ入れてもらいます。銘々が、食べ終わりまして、鉢を返して、「なんぼや?釣りは、いらん。」と、こういう遊びをする方は、たいがい、こういう粋なこと、しはんねん。「明日から、毎晩、回っといでや。たいがい、十人ぐらいは寄って、こんなことしてんねん。」と、声を出さずに、正直やったんが気に入られたんでしょうなあ。ま、ポーカーと、サンドウィッチの話も、あるぐらいですから、こういうものには、付き物ですわなあ。
「うど〜んぇ〜 そ〜いやぅ〜」「うどん屋さ〜ん」って、こんなん、流行ってまんにゃろか?またもや小さい声で呼ばれますわ。今度も、十杯売れんのかいなあと、調子付きまして、「十杯ですか?」「いや、一杯で。」と、こら、おかしいがな。どうやら、味見やな。一杯だけ、先に注文しといて、毒見をしてから、後の十杯と。気を取り直しまして、「おまっとうさんで」と。また、この人、ウマイこと、キレイに、食べはるわ。ここは、演者が、うどんを、丸々一杯食べて、演じて見せる場面でござります。「ああ、うまかった。何ぼや?渡しとこ。また、明日も、おいでや。」「おおきに、ありがとうさんで。」「うどん屋〜」「へぇ〜」「お前も、風邪引いてんのんか〜?」と、これがサゲになりますな。こう書きますというと、文章だけでは、何のこっちゃ、さっぱり、お分かりになりますまい。要するに、先に小声で、バクチ場で十杯売れたんですが、後の小声の人は、ただ単に、風邪引いたはって、それで、小声やったという話です。実際に、聞いてもらいますというと、おもしろいサゲなんですけどね。
上演時間は、二十五分前後ですか。長くも、短くも、出来ますので、その場の状況にも、よりますね。お笑いの多いネタですので、どこでもよくウケることと思います。一つずつの件りで、一つずつ話がありますので、なかなか、おもしろいですな。最初は、子供さんの所。誰かて、お店で、何杯かの注文やと、思いますやん。それが、うどん屋の灯りで、小便するて。最後に、オチまで付いて、フラれてしまいます。二番目が、酔いたんぼ。このやりとりも、なかなか、おもしろい。しかし、『親子酒』にしろ、『替り目』にしても、酔っぱらいに、うどん屋ちゅうのは、付きもんなんでっしゃろかなあ?ま、夜に、流しで、商売をされておりますので、こうなるんでしょう。湯に水て、タダのもん、ばっかりですがな。二番目も、不発ですな。三番目が、バクチ打ちの連中。ここで、うどん十膳と、大儲けでござります。小声で応対したんが、何よりのポイントでございまして、明日からの、お得意さんが、増えるてなもん。そして、最後が、小声の人。これも、バクチ場かいなあと思いますが、数は、一杯。味見と見ますけれども、ここで、この落語のポイントでござります。うどんの食べ方。おいしそうに、また、寒い中、あったか〜い、おうどんをすすっている情景が、目に浮かびましたら、大成功でございます。そして、サゲへと。
東京では、主に、『うどん屋』の演題でございます。一つずつの話の内容が、少し違ったり、順番が変わったりしておりますけれども、中身は、おんなじものでございます。故・五代目柳家小さん氏も、ちょこちょこ、やったはりまして、よくウケておりましたね。所有音源は、故・桂枝雀氏、故・桂吉朝氏のものがあります。枝雀氏のものは、やっぱり、爆笑型ですな。そんなに、筋がハッキリしているものでもございませんので、こういうものは、なかなか難しいんですが、こういうものこそ、お得意でしたよね。おもしろかった。吉朝氏のものも、笑いが多く、おもしろかった。最後の、うどんを食べる所、いや実に、おいしそうに、すすってはりましたわ。目に浮かぶように、思い出しますな。
年の暮れは、おそばを召し上がられますけれども、この寒い晩、おうどんもまた、格別でございますね。どうぞ、良いお年をお迎えくださりませ。
<22.12.1 記>
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