だんだんと、暖かくなってまいりました。とはいえ、まだ、お寒い日も、ちょいちょい入り込んでおりますのが、三月でござりまするなあ。私は、えげつない花粉症でございますので、だいたい、三月は、家に居ることが多いんですけれども、それでも、やはり、出かけたくなる季節でございます。また、お彼岸を過ぎますと、もう、桜の花も、チラホラと見えかけ…。っと、何にしよかいなあと、今月のネタを、探り探り、書き始めましたけれども、マクラとて、何のつかみも、ございません。『首提灯』でございます。東京式の『首提灯』は、ごく、あっさりとしておりますけれども、上方式のものは、これまた、何じゃろと、いろいろ、いらんもんが入っております。ですから、前半部分だけを独立させて、『上燗屋』で演じられることも、結構ありますにゃね。そこで、今月は、前半の、『上燗屋』の部分だけで、御免蒙ります。
主人公と申しますのは、もうすでに、どっかで、一杯飲んでの帰りがけ、エエあんばいで、フラフラと道を歩いております。行き当たりましたのが、上燗屋。つまり、一杯飲み屋はんですな。『上燗』と書いたあるだけに、熱うなし、ぬるうなし、コロ加減で、上燗。店のおやっさんに聞いてみますと、一杯十銭でおますと。酒の燗付けんのん、なかなかウマイこといかへんと、つけてもらいますというと、これがヌル燗。ちょっとぬるいん。こら、どんならんというので、あっため直してもらいます。今度は…。って、口付けられへん。熱すぎますねやね。どこぞの世界に、ふいて飲まんならん酒があんのかと、冷めるのん、待ってますが、なかなか冷めへん。そこで、「ちょっと足して」と、ヒヤの、常温のお酒を、そのまま足してもらいます。「そんなことしたら、勘定が、ややこしなります。」「何ぼ飲んだかて、十銭しか払わん。」って、おもろいもんでんなあ。こいで、上燗・上燗!吉本新喜劇の、花紀京さんやがな。
「ここに、これ、豆こぼれたある。こぼれた豆は、何ぼ?」って、豆が良かったら、鉢から、盛って出してくれはんのに。わざわざ、台の上に、こぼれた豆やて。「そんなもん、お金いただくわけに、いけしまへん。」「タダなら食ぅたろ。」なかなかウマイなあ。豆も、ウマイみたいやけど。「もっとこぼしたろ」て、これまた、えげつない話ですがな。「ここに敷いたある、黄色いもんは?」「イワシの、からまぶしで。」「いや、違う。下の黄色いもんやがな。」こらあ、イワシに、酢が、きつう回らんように、おからが、下に、敷いておますにゃな。「これ何ぼ?」って、イワシやのうて、おからのこと。「イワシの付きもんでっさかいに、おからだけでは、お金いただかれしまへんがな。」「タダか。ほなら、食ぅたろ。」て、何でも、食べはるがな。今度は、その上に乗ってるのが、目に付いたん。「これは?」「紅ショウガでんがな。」「これ何ぼ?」「イワシの付きもんで。」「タダか。ほなら食ぅたろ。」しかし、ここの店、タダのもん多い。って、んな、アホな。こんなんばっかり選って、食べてなはんねやがな。酔うたはるだけに、おもろいですわな。
今度は、正真正銘の、売りもんに目が付いた。「これは何?」「ニシンのつけ焼きです。」「イワシの付きもん?」って、どこぞの世界に、イワシにニシン付いてきまんにゃな。サメとコバンザメ違いまんにゃさかいに。「こらぁ、お金いただきます。五銭で。」っと、五寸ほどのもん、一口かぶりますが、何せ、ニシンですからな、ちょっと硬いん。「わしの歯に合わん。返しとこ。」て、返してもろても、困りまんがな。「そのびんに入ってる、赤いもん、それは何?」「鷹の爪でんがな。」「それ、何ぼ?」「こんなもん、調味料でっさかいに、お金もらわれしまへんがな。」「タダか?ほたら、食ぅたろ。」鷹の爪でっせ、とんがらしでっせ。知らんと食べたら、こら、口の中、エライこっちゃ!!「あ〜ぁから、あ〜ぁから。こう辛ぅては、おから食わなしゃあない。」と、上燗屋半泣きになっております。ここで切られまして、おなじみの、『上燗屋』でございますと。
上演時間は、十分から十二・三分程度、寄席向きの、ほんの、お笑いタイプのお話でございます。よくウケておりますね。酔っぱらいが主人公ですので、間が長く取られておりますために、なんとはなしの話ですが、なかなか、おもしろうございます。案外、わたしゃ、これだけで満足できるぐらい、好きな話では、あるんですがね。おもしろいじゃないですか、酔っぱらいと、お店のご主人て。ただ、横から見てるとですよ。東京では、この部分は、『首提灯』には、入っておりません。ま、全く別の話としても、イイのかも知れませんがね。所有音源は、この『上燗屋』だけですと、故・四代目林家小染氏、桂南光氏、笑福亭松喬氏のものがあります。小染氏、お時間に合わせましての時には、よくやったはりましたよね。本人さんが、酔うてきはっても、あないなったはったんの、ちゃうやろかいうぐらい、ホンマもんの酔いたんぼみたいで、おもしろかったですわいな。また、嬉しそうに、お酒飲む振りしたはってね。豆こぼすとこなんかも、楽しそうでしたもん。おもろかったですよねえ。南光氏のものも、嬉しそうに、お酒飲んだはります。細かい描写なんかもありまして、おもしろいですなあ。松喬氏は、『首提灯』までのものもありますが、これだけでも、録音がございました。ワッと、大爆笑を取ったところで、ウマイこと、終わったはります。おもしろく、楽しめますわなあ。ま、続きは、来月の『首提灯』へ。
<23.3.1 記>
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