先月の続きでございます。『上燗屋』の部分は、お笑いで済ませられますけれども、これから先は、なかなかに、けったいは話でございますね。誰が考えはったんやろ?

 主人公の男、上燗屋を、からかいながら、一杯飲んでおりますけれども、そろそろ帰り仕度。「なんぼ?」と言いますが、これまた、勘定がしにくい。酒は埋めるわ、豆や、おからは食べるわ、ニシンは食べさしやわ。「二十五銭にしときまひょか。」と。「二十五銭。安いなぁ〜。何ぼか負からんか?」って、んなアホな。「わい、毎晩、この前通って、家帰るねん。顔覚えといて。覚えた、覚えた?ほなら、つけといて。」これも、無茶な相談。初めてのお客さんですにゃさかいに。なんじゃかんじゃ言いながらでも、最期には、お金払いますわ。五円。しかし、宵から最初のお客さんで、お釣りが無い。ちょう〜ど、向かいに、夜店出しの道具屋さんが、店出してなはる。宵から、ちょっと、お客さんがあったみたいですので、あそこで、両替しましょうと、上燗屋のおやっさんが行きかけますが、「わいが行て来る。」て、まさか、逃げんのん、ちゃうやろね。

 「道具屋。これ何や?」「毛抜きでおます。」ヒゲ抜きまんねんな。いっぺん使うてみると、痛い!そら、心得ごとで、火鉢の灰を付けてから、抜きまんねんと。ああ、こら、ほんに痛いことおまへんわ。一本ずつ抜きながら、「道具屋、お前、嫁はんあんの?」って、いらんことをまた。酔うてますからな。嫁はんと子供の、三人暮らしですと。「夜寝る時、どないして寝んの?」放っときなはれな。真ん中に子供で、両端に親ですと。要するに、川の字ちゅうやつですわ。「鞭声粛々(べんせいしゅくしゅく)夜川を渡る(よるかわをわたる)。やっぱり、川渡る時、パッチ脱ぐのん?」おもろいですなあ。意味は、お分かりですか?頼山陽の『川中島合戦』ですな。

 「返しとこ」って、買えへんのかいな。そらもう、ヒゲみな、抜いてしもたんやさかいに、用事おへんわなあ。「その横手にあんのは?」「杖でおます。中が仕込みになってございまして…」っと、説明しますが、要するに、座頭市の持ってるような、仕込み杖。「なんぼや?」「宵から値付けておられますが、一文も負かりまへん。五円でおます。」「五円。そこを、二十五銭だけ負けてんか?」けったいな、値切りよう。向かいの上燗屋に、払いをせんならんのでね。事情を話しまして、道具屋はんに、二十五銭負けてもろうて、仕込み杖を買いまして、上燗屋へ。「コラッ!貸すの貸さんの、ぬかしやがって。」エエッ、斬るつもり?違います、違います。脅しながらも、二十五銭の払いを済ましまして、上機嫌で家へと帰ります。

 人間、誰しもそうでございますけれども、やはり、男のお方に、多いように見受けられますけれども、刃物を持ちますというと、何か切ってみたいという、衝動に駆られます。特に、手に入れた時にはね。まして、仕込み杖てな、珍しいもんが手に入りましたので、何か切ってみたくて、たまりません。酔いも手伝いましてか、一旦、寝ておりましたけれども、何を思いましたのか、布団から起き出しまして、表の戸を細目に開けまして、また、布団の中へ。「戸開いたあるがな。用心の悪い。お留守ですか?どなたも、おいでやおまへんか?ほなら、入れてもらいまっせ。」と、今度は、家の中へ、泥棒が入ってまいります。来よった、来よった、これを待ってたんやと、寝ておりました男は、起き上がりますというと、例の仕込み杖を抜きまして、襖の陰から、大上段に構えて、待っております。泥棒のほうは、「入れてもらいましたで。」「んん〜」「けったいな声がしたあるなあ。誰かおるんかいな?」「んん〜」何かいなあと、襖から首出しよった。待ってましたとばかりに、襖の、こちら側の陰から、ズバーッと!!腕は無かったんですが、刀が業物(わざもの)とみえまして、首の皮一枚残して、切れてしまいます。

 「あ〜びっくりした。あ〜びっくりした。急に水かけやがって」って、違う、違う。首斬られてまんねや。首の皮だけで、胴体と引っ付いてるもんですから、手で押さえながら、慌てて、逃げて帰ろうといたします。表へ出ますと、拍子の悪い、近所に火事があったもんとみえまして、火事や火事やと、手に手に提灯を持って、逃げ惑うております。「え〜い、邪魔になる、どきさらせ!」と、後ろから突かれた拍子に、首がちぎれて、横手の溝へ、はまってしもた。胴体のほうが、一生懸命、首探しとおる。ようようのことで、見つけ出しまして、懐へ入れたんですが、それでは、向こう先が見えません。再び、取り出しまして、グーッと前へ突き出しますと、首が、「火事や火事や」と、これがサゲになりますな。ちょっと、見てもらわんと、言葉だけでは、サゲが分かりにくいかもわかりません。首が提灯の代わりてね。想像もつかんような、変わったサゲでございます。

 上演時間は、ここまで入れると、二十五分から三十分前後は、かかりますね。となりますと、やはり、落語会向けの、ちょっとゆっくりした、時間の余裕のある時用のネタになりますな。笑いは多いですけれども、どこか不思議な、けったいなネタですね。上燗屋で、さんざん、ウダウダ言ったあげく、今度は、道具屋へと移ります。ここでも、川を渡る話、おもろいでんなあ。そして、仕込み杖を買い求めまして、負けてもろうた分で、上燗屋の払いを済ますと。おやっさんを脅して、斬ろうとするのも、後のための伏線なんでしょうなあ。家へ帰ると、わざと、泥棒が入って来るように仕向けまして、しばらく寝ておくと。ここに入ってまいりました泥棒こそ、災難みたいなもんで。って、盗みすんにゃさかいに、当たり前やてか?襖の陰から、刀を振り下ろされて、首の皮一枚で、逃げて出てくる。近所が火事で、手に提灯を持って、大騒ぎしているところで、後ろから突かれて、首が落ちる。ややこしいですわなあ。いっぺん懐へ入れて、前が見えんので、それから出すと、首が“火事や火事や”と。

 東京でも、同じ演題ですけれども、先月も申しました通り、上燗屋の件りや、道具屋の件りは、ございません。しかも、泥棒も出てまいりません。お侍でございます。お侍に首を斬られて、首の皮が一枚残るという話でございます。ま、演題は一緒なんですが、同じ話として、エエもんかどうかちゅうぐらい、趣きは異なりますな。所有音源は、笑福亭松喬氏のものがあります。ちょいちょい、やったはりますな。前半の『上燗屋』だけで、尻すぼみにならない程度に、最後まで、ヤマ場がありまして、なかなか聞き応えのあるもんでございます。

 しかし、聞けば聞くほど、けったいな話ですわいな。『胴斬り』も、そうですけれども、斬られても、胴体と首が、バラバラに動くてねぇ。

<23.4.1 記>


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