いよいよ今年もやってまいりました十二月、年末、やはり年末にふさわしく、今月は尻餅を選びました。演題は一般に“尻餅”といわれていますが、“尻餅”と漢字で書くと、どのような話かいっぺんに分かってしまいますので、“餅つき”という題にして演じられることもよくあります。そうですわなあ、演題としては“餅つき”の方がよいかも分かりませんなあ〜。
主人公のある男、おきまりの貧乏暮らしの長屋住まい。女房と男の子が一人という三人家族。今年も来てもいらん正月が、もうすぐそこまで来ているという年末。嫁はんの言うのには、近所では餅つき屋を呼んで餅をついているとのこと。この餅つき屋はん、関西では“ちんつき屋はん”とも呼ばれるもので、臼や杵なんかを頼まれた家まで持って行き、数人で餅をつくという、ほとんど年末しかない商売であります。来てもらう家では、もち米を用意しとくんですな。この嫁はんの言う中に、演者自身の名前を入れて、“噺家の○○はん、三斗もつかはってんで”なんか出てきます、ちょっと笑いのあるところですな。それを聞いた亭主、お金がないのでしょうがないと言い返しますが、どうしてもつきたいという嫁はんにせがまれ、それやったら近所に音だけでもさして、見栄張っといたらええがなと、夜中に嫁はんのお尻をたたいて、ついているような音を出そうということで、寒い冬のこと、三人仲良く寝てしまいます。
その夜中、嫁はんはが寝ている亭主をようよう起こして、亭主も寒い寒いのに、長屋の入り口へとやってきます。入り口の戸で頭を打って、“イタッ、誰やこんなとこにかんぬきかけやがったん。泥棒が入るて。あべこべに、この長屋から泥棒がちょいちょい出て行くぐらいやちゅうのに”なんか言うところ、おもろいでんなあ〜。表では、御大家の丁稚さん、正月迎えの掃除にかかったはる声が聞こえる中、長屋の入り口の戸をドンドンと叩く亭主。“○○はんとこのお家はどちらです?”嫁はんが、“どなたはん?”“俺や”と、つい言ってしまいます。“ちんつき屋で”と言い直し、“カカ、誰や?ちんつき屋はん。また後で来てもらい。”と今度は家へ戻って亭主の声色、“いや、こちらの奥さんが、ぜひとも一番釜でお願いしたいとのことですので、一番にやってきました。”と、またちんつき屋の親方の声、忙しいでんな。ここで、親方がもう一つの釜をどこそこへやって、なんか指図するという細かい芸を見せながら、長屋の入り口から、手に下駄やなんかをはめて、大勢の人数がいるように、さも重たいものを持っているようにしながら、井戸端までやってきます。ここで、“釜がぐらついてる、瓦をかませ”とか、“じんわり降ろしや”とかの親方の指図の声、雰囲気がでてまんな。釜に火を入れて、もち米が蒸し上がるのを待ちながら、甚句などを歌うところ、なかなか聞き所です。また、体を温めるためと、お酒や煮しめ、そして祝儀を出してやります。ひときわ声の大きくなるところですわな。口で言うだけでは、なんぼ言うたかてタダですもん。
ちりとりをせいろに見立てて、湯気で前が見えないので、その湯気を吹きながら走り回るという、なんとも細かい芸を見ながら、いよいよ蒸し上がって、つきに入ります。つまり、嫁はんのお尻をたたくわけですな。始めは“こつき”でお尻をもんで、いよいよつきに入りますが、ただでさえ寒いのに、その上に、冷たい手で尻をたたかれ、嫁はんはたまったもんやありません。これが二臼、つまり二回続きますが、このお餅をつくように見せてお尻をたたく音、演者が両手をたたいて音を出しますが、なかなか見ものですなあ。二臼目には、嫁はんも痛いものですから、お尻をすかして、亭主が空振りして、敷居か何かで手を打ってしまうという、“カラ臼ついた”なんて、懐かしい言葉も出てきますな。それから、子供が起きてきたということにして、ちんつき屋が子供をほめるあたりなんかも、よくわかる光景ですな。さて、二臼終わって、嫁はん、“ちんつき屋はん、あといく臼ありまんねん?”“おかみさんが、あといく臼やたんねたはる。へえ、二臼。あと二臼でやすと。”“せっかくやけど、あとの二臼は白蒸し(しらむし)で。”と、これがサゲになります。白蒸しとは、もち米を蒸しただけのもの、今でもお盆なんかには、蓮の葉に包んでお供えしますわな。しかしながら、現在は一般に、だんだんとすたれつつある言葉ではありますので、“あとの二臼はおこわで”とサゲるようにしている方の方が多いのではないでしょうか。もともと東京では、古くからこのサゲを使っていたようです。
上演時間は二十二・三分から三十分前後、だいたい二十五分ぐらいのものが多いと思います。昔のちんつき屋はんの光景をそのまま落語化してあるものですので、あまり現代的なものにアレンジはできないようですが、そこがかえって良いのですな。最初の夫婦の会話やちんつき屋はんの出入りから餅をつく所まで、結構笑いの多い、おもしろいネタでありますし、もちろんメインの餅つき、尻をたたくところも非常に滑稽でありますが、なかなか演じるのは難しいネタであると思います。特に、両手をたたいて餅つきの音を出すところなんか、なかなか誰でもできるものではありません。それゆえ、人前で演じるまでには苦労が多いかもしれませんが、演じられるようになったものは、どなたのものでも非常に愉快で、楽しいものであります。
所有音源としては、故・桂小南氏、故・四代目林家小染氏、桂ざこば氏、林家小染氏、桂む雀氏、他に、笑福亭松之助氏、桂文我氏のものも聞いたことがあります。小南氏のものは、もちろん東京での高座ですので、時間が少々短く、やや風情に欠けると思われるところもなきにしもあらずですが、その分、大爆笑は取っておられました。先代・小染氏のものは、夫婦が布団に入ってのコソコソ話のところなんか、ちょっとHっぽい部分もあるんですが、おもろいでんなあ。ざこば氏では、甚句を歌うところなんか、たっぷりと風情がありますし、夫婦の会話が何とももっともらしくてうまいですな。現・小染氏のものも、いかにも長屋の嫁はんという奥さんの描き方がおもしろいですな。む雀氏のものも、爆笑を取っておられます。また、松之助氏のものは、おそらく昔の型はこんなんであったのだろうと思われる、昔ながらの演出で、カラ臼をつかすところなんか、まさに昔の餅つきそのままといった感じでありました。文我氏では、扇子を広げてせいろに見立てたちりとりを持って走り回るところなんか、非常に印象に残っています。なお、小南氏・文我氏はおこわのサゲ、松之助氏・先代小染氏・ざこば氏・現小染氏・む雀氏は白蒸しのサゲだったと記憶しております。
とにかく、演じられる時期が非常に短い期間ですので、上演頻度はそんなに多くありませんが、とりあえず私は大好きなネタなのであります。
<12.12.1 記>
<以降加筆修正>
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