これという理由もございませんけれども、今月は、『おごろもち盗人』を選びました。何のことか、分かりまっか?諸説あるには、あるんですけれども、どうやら、“おごろもち”とは、“もぐら”のことらしいですわ。詳しくは、私にも分かりません。金田一先生にでも、登場してもらわな、アカンね。いうても、少年違いまっせ…。

 もぐら盗人ということですから、要するに、土の中から出てくるん。昔のことですから、表の戸に、桟が降りておりまして、この桟の位置を、昼の間か何かに、下見しておきまして、夜、戸が閉まった後に、表から穴を掘りまして、戸の内側の桟を外して、中に進入して、盗みを働くという泥棒さんでございます。表から、穴を掘り始めましたけれども、中では、夫婦のもんが、帳合いをしている模様で、まだ寝ておりません。算盤(そろばん)をはじきまして、相談をいたしております。要するに、銭が足らんと。節季ですのに、払いがでけん。帳面と、額面の算盤は、合うたある。しかし、肝心の、金が足りまへんねんな。もう、エエ加減な時間でっさかいに、嫁はんのほうは、ねぶたいん。「寝まひょいなぁ〜」と。しかし、亭主のほうは、「おかしいなあ〜。何で、こないなんねやろ。」と。嫁はんに聞きますというと、銭函の中から、ちょっと、お金を拝借して、何ぞ買うた様子。そんで、足りまへんねやがな。帳面と、算盤は合うて、銭函の中の銭が足らん。

 そうこうしておりますうちに、さいぜん申しました、泥棒のほうは、表から、穴が掘れた様子。手を突っ込みまして、中の桟を探しております。しかし、寸法を測り間違えたのか、なかなか、桟に手が届かん。「こっちの払いを、そっちに持って行って、ここを待ってもらおうか。もうちょっとやねんけどなぁ。」「何でこの桟が。もうちょっとやねんけどなぁ。」って、亭主は、横手の嫁はんが、おんなじように、しゃべって、相槌を打ってるもんとばっかり。「ホンマ、けったくその悪い。」「ホンマに、けったくそ悪い。」て。ここで、初めて気付きますわ。「おい、カカ、見てみぃ!土間の隅や!」「まぁ、いややの。あんなとこから、手が生えたあるわ。」って、何を、のんきなこと言うてはりますねんな。泥棒ですがな。

 こら、エライこっちゃ。声をひそめまして、夫婦のもんが、細い紐を出そうといたします。それを閂(かんぬき)に通しまして、括り付けといて、明日の朝、警察へ届け出たら、報奨金・褒美の金をくれよるやろうと。それで、この節季の払いをしようという算段。しかし、嫁はんのほうは、「もう寝まひょいな」って、よっぽど、眠たいんですなあ。しかし、これはエエ方法と、紐で指を縛りまして、括り付けておきます。外では、泥棒が、右往左往。こら、エライこっちゃ。

 「明日の朝、警察へ、突き出したるさかいに。」「堪忍しとくなはれ。出来心でんねん。」って、出来心で、こんなマネしまへんわいな。嫁はんは、怖がりまして、「この人に、仕返しされたら、どないなりまんねん?」と。泥棒も調子に乗りまして、「そうだ。わたいが捕まったら、子分が、油掛けて、火つけよりまっせ!」「つけてみぃ!この家、借家や。」「エライすんまへん、大将。堪忍しとくなはれな。」「五年くらい込まれようが、十年くらい込まれようが、出て来た折には、キッチリ、お礼参りさしてもらうわな!」「そんな長いことも、住んでへんさかいに、どこぞへ、宿替えしたるわ!」「エライすんまへん、大将。堪忍しとくなはれ。」と、応対しておりますうちに、ボチボチ、夫婦のもんは、寝てしまいます。

 っと、これは、全くの通りすがり。関係の無い人。どこぞで、ひやかした帰りと見えますが、おもろいことも無さそう。実は、行った店で、恥かかされたので、明日の晩、一緒に行った友達と、その向かいの店で、ドンチャン騒ぎして、ひけらかして見せようという算段。それには、友達から、五円用意しとけと言われております。どこぞに、五円落ちてへんかいなあと、探して歩いておりますうちに、この、指を括られた泥棒さんに出会います。聞いてみますと、忍び込もうとした家で、内側から、紐で指を括られて、動けへんと。この泥棒さんの、腹掛けのあたりに、隠しになってるとこがあって、そこに、ガマグチが入ってる。そのガマグチの中に、五円ほどの金と一緒に、小刀が入ってると。ですから、そのガマグチを取り出して欲しいて。ほんで、その小刀で、紐を切って、逃げようという算段。助け舟とばかりに、手を突っ込みますと、ガマグチが出て来た。中を見ますというと、五円の金。泥棒さんは、指を括られて、動けん。「明日の朝、突き出してもらいなはれ。」と、この男、金だけ取って、逃げてしまいます。思わず、泥棒さんが「泥棒!」っと、これがサゲになりますな。「盗人!}でも、一緒ですけれども。なかなかに、ウマイこと考えられた、意表をつくサゲで、おもしろうございます。

 上演時間は、十五分前後でしょうか。ネタだけですと、十分弱でも、十分、出来ますわな。どちらかと申しますというと、寄席向きの、短い話でございます。お笑いも、多いですし。前半は、節季に間に合わんと、算盤をはじく、亭主と、嫁はん、そして、泥棒さんが出てまいります。「もうちょっとやねんけどなあ」と、亭主と、泥棒さんが、家の表と、内側で、掛け合う所なんか、息が合いますというと、なかなかに、おもしろい場面でございます。また、とぼけた嫁はんの味も、捨てがたいですな。こんな人、今でも、ちょいちょい、居てはります。そして、紐で括って、警察へ突き出して、報奨金で払いを済ませようというのも、いかにも大阪らしい、商人の考えですな。泥棒さんが、火つけると、開き直るのも、もっともですが、借家ではねぇ。おもろい場面です。後半は、誰ぞが、そこへ透りかかりまして、泥棒さんを、助けるもんか、助けないもんか。この男も、五円の金が必要ですので、小刀を渡さずに、金だけ取って逃げると。すかさず、泥棒が「泥棒!」っと。ウマイこと、考えたありますわいな。

 東京でも、演じられるみたいですけれども、あんまり、聞きませんな。所有音源は、故・六代目笑福亭松鶴氏、笑福亭三喬氏などのもの、また、他にも、たくさんの方のものを、聞かせていただいたことがあります。昔は、松鶴氏が、お時間の無い時に、ちょいちょい、やったはりました。声の大きいのが、印象的でしたが、おもしろいもんでしたわくぃな。短時間で、爆笑を、さらっていくというような。案外、嫁はん・奥さんにも、おかしみがありまして、よろしおしたな。三喬氏も、泥棒ネタの一貫で、やったはります。泥棒さんが、ホンマもんみたいで、おもしろい、爆笑ですな。

 小品ながら、笑いの多い、おもしろいネタでございます。季節を問わず、楽しませていただけますね。


<23.10.1 記>


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