
新年、あけまして、おめでとうございます。どうぞ本年もまた、相変わりませず、この『上方落語のネタ』を、よろしくお願い申し上げる所存でございます。ホンマは、もう、そろそろ、やめよかいなあとも、思うてまんにゃけどね。あまりにも忙しい毎日が続きすぎまして、こんなことしてられへんようになってきたんですよ。は、まあ、さておき、本年は、辰歳でございます。三度目の年男でございますが、辰に因みましての、『小倉船』をお届けいたしましょう。正式名称は、『龍宮界龍都(りゅうぐうかいたつのみやこ)』という名が付いております。お正月らしく、派手な、賑やかな高座をお楽しみくださりませ。
舞台は、大阪ではございません。名前の通り、豊前(ぶぜん)の小倉。九州の小倉から、本州の下関、昔は、馬間(ばかん)と呼んだそうですが、こことの間に、船が通ってございます。ただいまの、関門トンネルちゅうやつですなあ。時刻がまいりまして、乗り前が決まりますというと、船頭さん、歩み板をば、引き上げます。三間半の、赤樫(あかがし)の櫂(かい)で、岸を付きますというと、船は、岸を離れます。深みへ出てまいりますと、櫓(ろ)と変わります。一生懸命に漕ぎ出しますと、下座から、おなじみ、『小倉浜から〜 船〜 漕ぎ〜出だす〜』の歌声。沖へ出ますと、風を見ながら、帆を張り上げる。乗り合いの衆は、帆の影へ、帆の影へと、寄り集ってまいります。今みたいに、時間つぶしに、ケータイ触るちぇなわけに、行きまへんさかいに、乗り合いの衆は、退屈なもんとみえまして、いろんなことをしゃべっております。どうも、妙な、大きいもん持った人が居る。たんねてみますと、大阪の唐物町(からものまち)の唐物屋(とうもつや)の若いもんで、長崎で、フラスコの大きいのん、仕入れて来たて。このフラスコの中へ入って、淀川辺りに沈めてもろうて、川の中を見物しようやなんて。スケールの大きな話ですなあ。
中には、考えもんやろうと言い出す人がいる。要するに、なぞなぞ。賭けてね。まずは、双方共に、十文ずつ出して。「いる時にいらんと、いらん時にいるもんは?」「分かりまへん」「ほんなら、この十文は、いただきます。風呂の蓋。」なるほど。入る時には、要らんけれども、入らん時には、要りますわなあ。感心、感心。今度は、二十文ずつ。「食う時に食わんと、食わん時に食うもんは?」「さあ」「釣り師の弁当」なるほど。魚が、エサ食うてる時は、弁当食えまへんし、エサ食うてない時に、弁当食いまんねんな。次は、五十文ずつ。「丈が一間ほど、目も鼻も口も、何にも無しで、赤いような白いような茶色いような、ズルズルしてるもんは?」「分かりまへんなあ」「ずいきの腐ったん」って、こらちょっと、強引ですかいな?今度は百文ずつ。片方ばっかりが、問題を出してたんではいかんので、これから逆転をいたしまして、負けてばっかりいるほうの人が、問題を出すと。「四ツ足で、角が二本。よだれを垂らして、追うたら、“モ〜”と鳴くもんは?」「牛でっしゃろ」って、誰でも分かりますがな。次は二百文。「今度も四ツ足で、耳が立ってて、たてがみがあり、“ヒヒーン”て鳴くもんは?」「馬でっしゃろ」これも、誰でも分かりますわな。いよいよ、一両!「鳴き声、言いなはんなや。」って、答えるほうも、かわいそうに言いますが、「丈が一丈五・六尺、頭が二つで目が四つ。手が八本で、一本足。闇夜の晩に、ポーイポイと飛んでるもんは何?」「鳴き声は?」て、“言いなはんな”言いましたやんか。「分かりまへん」「分からなんだら、この一両は、もろとこ。化けもんや。」「化けもんて」「こらっ!さいぜん、おのれ、ずいきの腐ったんで、金取ったんちゃうんか!化けもんのどこが悪いねん!」って、この人、実は、勝手知ったる船の中ですねんな。始終、大阪と九州を往復してる人で、こんな奴には、だまされませんな。ゴマの灰・道中師・いかさま野郎ちゅうとこで、最初に、うかうかと乗ったようなフリして、最後に、あべこべに、一両取ったったいうことですわ。化けもんの鳴き声は、“かもか〜”ですわいな。胸スーッといたしまして、小便にまいります。
艫(とも)のほうに、枡形に切ったとこがございまして、そこから、小便を…。っと、船が揺れた拍子に、五十両の金が入っております、胴巻きを落としてしまいます。こら、エライこっちゃ。一両どころの話や無い。すぐに、いかりをおろしまして、船を止めてもらいましたが、しかし、どうするものでもない。海の中に、落としてしもたんですからな。この人は、もう、大阪には帰れんと、飛び込んで、死んでしまおうといたしますが、そこは、乗り合いの衆、止めんわけにはいきません。今も昔も変わらん、潮の流れの急な関門海峡、さて、どないしまひょ?っと、エエこと思い付いた人がいる。さいぜんの、フラスコ、あれの中に入って、海の中を探したら、どうですと。こら、エエ考えですな。唐物屋のほうも、いっぺんも、使うたことが無いというので、試しにやってみなはるかて。話は決まりまして、この人、フラスコの中へ入りまして、口をしっかりと止めます。綱で括ってございますので、乗り合いの衆が、総出で、この綱を持ちながら、フラスコを海の中へ。ここからが、賑やかになりますなあ。下座から、随分と、お囃子が入ります。勉強不足で失礼ですが、分かるもんやら、分からんもんやら、いろいろで…。海の中はと申しますと、魚がたくさん泳いでる。底へ着きますと、知盛さんの薙刀(なぎなた)てなもんまで落ちてる。源平の古戦場ですな。そして、いよいよ胴巻き発見!っと、手を出しますが、フラスコの中でっさかいに、ガラスが邪魔して、取るに取れん。「宝の山に入りながら、手をむなしゅうして、帰るのか。ちぇ〜、残念なわい。」と、芝居心のあった人で、足を踏ん張った拍子に、フラスコに、ヒビが入った。水が入ってまいりますので、こらかなわんというので、持っておりました矢立で、自分から、このガラスを割ってしもた。ところが、このフラスコ、ホンマの海の底やのうて、岩かなんぞの上に、乗ってただけでっさかいに、ガラスが割れてしまうと、幾何丈とも知れん、波の底へ、まっさかさまに、ズーッと。さて、どないなりまんねやろ?
フッと、目を覚ましますと、そこは、竜宮でございました。よう絵本かなんぞで、見るやつですわな。興味本位にと、中へ入ってまいりますと、腰元連中が、居並んでおります。渡りセリフというやつ。「それへお越しなされしは」「丹後の国は与謝の郡」「水江の里の浦島様」「乙姫様のお待ちかね」「いざまずこれへ」「お越し」「あそばされませ」てなこと言われても、この人、浦島太郎や、おまへんで。「お隠しなされても、逃れぬ証拠が、目の下のホクロ。」てなことまで言われて、否定するわけにもいかず、とりあえず、浦島太郎になりすましまして、「案内頼む」と、奥へ入ってしまいます。拍子の悪い、その後へやってまいりましたのが、ほんまもんの、浦島さん。亀に乗りまして、腰蓑つけて、釣竿持ってまっさかいに、こら、すぐ分かる。ほんまもんが来たというわけで、竜宮は、大騒ぎ。となると、さいぜんのは?ニセモノですがな。捕まえよとなりますが、乙姫さんも、いっぺんでも、口をきいた男ですから、殺すのは、かわいそうと、そっと、裏口の水門を開けて、逃がしてやります。出てまいりますと、そこら一面、真っ赤な珊瑚樹畑(さんごじゅばたけ)。胴巻きの五十両の代わりに、これを持って、大阪に帰ったら、一枝五両の値打ちは、十分する。一本五両・三本で、珊瑚の十五両。って、しょう〜むないことを言うておりますが、早う逃げたらエエのに、この様子を見ておりましたのが、竜宮の代官で、フグわた長安という、腹に毒持つ、怖い侍。見つかってしもた。小魚を大勢引き連れまして、大立ち回りとなりますな。なかなかの、見ものでございますけれども、多勢に無勢では、叶う余地がございません。珊瑚樹かたげて、逃げ出しよった。やれやれと、一息ついたところで、「旦那、駕籠いきまひょか?」って、こんなとこに、駕籠がありますのかいな。大阪までと言いますと、天保山か、天王寺の亀の池までやて。そら便利や。こら、ありがたいと見ますると、変わった駕籠かき。顔も髪の毛も赤いんですがな。「おまはんら、人間かえ?」「アホらしい。こんなとこに、人間がおますかいな。わてら、猩々(しょうじょう)です。」「折角やけどなあ、駕籠はもうエエわ。」「何でだす」「駕籠賃安うても、後で、酒代(さかて)が高う付く。」と、これがサゲになりますな。ご存知、猩々は、酒飲みですからな。駕籠賃の酒代と、掛けてあるんですな。現代のお方には、ちょっと、分かりにくいですか。
上演時間は、二十五分前後でしょうか。本題だけですと、もうちょっと、短くは、なりますね。聞き応えと申しますか、見応えある噺でございますので、賑やかな場には、よろしゅうございますね。大笑いは無いかも分かりませんが、風情たっぷり、想像力豊かな作品でございます。前半は、船の中のお話。実際に、私も、そんなに経験はございませんが、船の中ちゅうのは、退屈なもんとみえまして、『兵庫船』しかり『矢橋船』しかり、何なと、いろんな遊びごとをしはります。今回は、考えもん。なぞなぞといったところでしょうか。そしてまた、昔の人は、賭け事好きですよねぇ。だんだん値段を上げながら、なぞなぞが出てまいります。風呂の蓋・釣り師の弁当ぐらいまでは、なるほどと、考えさせられるもの。いよいよ、エエ加減なもんになってまいります。そして、攻守交替で、易しい問題ばかりと思いのほか、最後に一両で、今までの分、皆、取り返すて。ホンマは、最初から、この主人公、ゴマの灰であることを、見抜いてはったんやね。その割りに、悪いこと出来ません、胴巻きを落としまして、大騒動の始まりでございます。フラスコの中入って、海の中へ落としてもらうて、これまた、奇想天外な話ですよねぇ。ここらが、おもしろい発想でございます。しかも、お鳴り物も、ふんだんに入りまして。胴巻きはありましたが、当然、フラスコの中からですから、手は出せません。そこで、踏ん張ったがために、ガラスが割れまして、波の底へ。目を覚ますと、そこは竜宮。これも、おもしろい所です。浦島太郎と間違われまして、中へ入りますが、そこへ本物がやってまいります。長唄の『浦島』で、踊り踊らはる方も、いはりますな。乙姫さんに裏から逃がしてもらいまして、珊瑚を盗もうとする。ここで、フグわた長安との、大立ち回り。見応え十分ですな。逃げた所で、猩々と出くわし、サゲになると。想像の部分も、多いですので、上スベリにならないように、気を付けたいものでございます。
東京にも移入されまして、同じように演じられております。といえども、最近は、あんまり聞きませんな。もちろん録音ですが、故・三代目三遊亭金馬氏なんかも、やったはりました。聞かせていただくと、見事です。所有音源は、林家染丸氏などのものがあります。この噺、昔は、大変よくウケたようで、桂米朝氏や故・五代目桂文枝氏なども、やったはりました。近ごろ、あんまり出ませんな。賭け事の部分が、放送でいかんのか、そらどや知りませんけどね。染丸氏も、楽しんで、やったはりました。座ったままですが、『浦島』、ちょっとだけ踊ったはりましたな。見応え十分の、おもしろいものでございました。
鳴り物の手も要りますし、型を見せる場面なんかもありますので、なかなか稽古しないと、出来ないかも分かりませんが、残しておいていただきたいものでございますな。わたしゃ、好きな話です。
<24.1.1 記>
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