
私は、花見遊山よりも、葉桜見物をオススメいたしておりますが、新緑の季節がやってまいりました。ほんに、『百年目』の言葉ではございませんが、桜の花見は、どうもイマイチ、にぎやかすぎて、人も多いですし、行きたいとも、出たいとも思いませんが、特に、夜の葉桜ちぇなもん、見に行かはる方、いはりまへんので、空いててよろしい。これも、『天神山』やおまへんけど、だいぶと、変わってまっしゃろ。ま、それはともかく、新緑のハイキング、よく鞍馬山に行かれますな。私も、小学校・高校の遠足でも行きましたか。鞍馬から貴船へ出る道ね。ケーブルもございますけれども、今月は、その鞍馬山の出てまいります、『天狗裁き』をお届けいたしましょう。
発端は、鞍馬ともなんとも関係のございません、単なる、長屋のお家。夫婦が二人、主人公のほうが、昼寝をいたしておりますが、その横で、奥さんが、寝顔を見てる。鼻から提灯出して、お祭りの夢でも見てんのかいなあと思いきや、雨が降って来て、引っ込めたら破れて、中からロウが…。って、鼻水ですがな。今度は、笑うたり、うなされたり。「ちょっと、起きなはれや。どんな夢見てたん?」「夢なんか見てへん」「わたいに、言えんような夢見てたんか。」って、見てないものは、言いようが無い。しかし、嫁はんは、食い下がらん。「昔から、あんたはそうや。わたいが貧乏所帯やりくりして…。」「ボーンと行くぞ」て、夢の話だけで、夫婦ケンカになってしもた。「さあ殺せ」まで。間に入ってまいりましたのは、近所の徳さん。ホンマに、ようもめる夫婦やと、嫁はんを、自分の家、徳さんの家へと。聞いてみますと、ケンカの原因は、夢を見たか見てないかということ。嫁はんがいなくなりましたところで、「ホンマは、どんな夢見たんや?カカには言えんような夢見ることも、あるわいな。」しかし、見てないものは、言いようが無い。「お前とわしは、何や。」って、これも、雲行きが、悪くなってまいります。「三年前のこと忘れたんか?」「八年前に…」って、またここでも、ケンカが始まった。そこへ割って入りましたのは、長屋の家主さん。訳を話しますと、「いんで家業に精出せ。」と、徳さんを家に帰します。二人になったところで、今度は、家主さんまでも、「いったい、どんな夢見たんや?」と。「家主と店子は、親子も同様の間柄。まして、わしゃ町役じゃ。言えんのならば、今日限り、この家空けてもらおうか。」って、これはまた、無茶な。
しかし、ちょんまげ時代のことですから、おおそれながらと、願書をしたためまして、西の御番所へ訴え出る。お奉行さんもビックリしたでしょうなあ。こんなけったいな裁判、やったことない。原告被告、双方が分かれまして、お白洲へ。夢の話をするせんで、店立てを申し渡すとは、不届き千万。一喝で、店子・喜八の勝ちとなります。「喜八とやら、これへ。初め、女房が聞きたがり、隣家の男が聞きたがり、家主が聞きたがった夢の話、奉行にならば、しゃべれるであろう。」って、ここでも、おんなじ話ですがな。人払いまでさして、しかも、「重き拷問に行のうても、夢の話、聞きだしてみせるが、どうじゃ?」て、ムチャクチャですがな。「この者に、縄を打て!」奉行所の庭の松の木に、高手小手にいましめて、ぶらさげられてしもた。しかし、ここで死んだら、世の中に、これぐらいアホな死に方は無い。なんて思っておりますと、一陣の風が吹いたかと思いますと、喜八の体が、キリキリッと舞い上がった。ここは一体、どこやろうと、目を開けますというと、目の前には、手に羽うちわを持った天狗さん。大天狗ですな。「心付いたか。ここは、鞍馬の奥僧正が谷である。」って、天狗さんの住処、鞍馬山まで、連れられて来たんですな。大阪上空を飛んでいると、世にも不思議な話を聞いたんですと。女房・隣家の男・家主から奉行までが聞きたがった夢の話、「天狗は、そのようなものは聞きとうは無い。聞いたところで、何になる。聞きとうは無いが、そのほうが、しゃべりたいというのならば、聞いてやってもよいが。」って、聞きたいんですがな。「わしが、こう言うてるうちに、しゃべったほうが。天狗を侮ると、どのようなことになると、存じおるか。」強制になってきましたがな。長々と伸びた指が、体に食い込んできた。「ちょっとあんた、エライうなされて。いったい、どんな夢見たん?」とこれがサゲになるんですな。要するに、お話自体、最初から最後までが、夢であったと。意表をつかれるサゲでございます。
上演時間は、二十分から二十五分ぐらいでしょうか。派手な演出はございませんが、全編通して、笑える話でございまして、寄席向きでしょうなあ。場面は変わりますが、話題は一緒、しかも、同じことを繰り返すというものですが、割りに、飽きないで楽しめると思います。冒頭は、どこにでもある、長屋の夫婦、夫の昼寝から。夢を見た見てないで、夫婦ケンカになりますな。入ってまいりましたのは、友達の徳さん。嫁はんを自分とこの家に追いやりまして、今度は、この男が夢を聞きだそうとして、またケンカに。次に割って入りますのが、家主さん。今度は、店立てを盾に、夢を聞き出そうとするケンカ。そして、お上へ訴え出て、お白洲へ。当然、主人公の勝ちとなりますが、その後で、お奉行さんにも、夢の話を聞かれます。相手が大物だけに、この辺から、一段とおもしろくなってきますわなぁ。しゃべらへんというので、松の木にぶら提げられて、拷問を受けております。そこを救ったのが、なにあろう、鞍馬山の大天狗。天狗てまた。ここでも、じわじわと、聞きたがっている様子が見えまして、今度はもう…。というところで、サゲになると。最後に、話が盛り上がりますので、なお一層、おもしろいですわな。
桂米朝氏は、東京の故・金原亭馬生氏のものを聞かれているらしく、東京のものかと思いきや、元来は、上方のものだったようです。逆輸入とでも、申しましょうか。所有音源は、その米朝氏、桂春若氏、桂塩鯛氏のものなどがあります。今、申しました通り、これは米朝氏の仕立て直された、復活ネタの一つで、お年を召してからも、よく演じられておりました。それぞれの登場人物に、味がありましたけれども、やはり、お奉行さん・天狗さんに貫禄もございまして、立派なだけに、余計に、夢の話という、ギャップがあって、おもしろいものでした。春若氏のものは、主人公が、いかにも、普通の男でありまして、そのちっぽけさぶりに、権威者との対比があって、おもしろおましたなあ。塩鯛氏も、天狗さんに貫禄があって、大変に、おもしろい、よくウケるネタでありました。
この手の話は、いつの時代でも変わりません。アホらしさが、またよく笑えるんでございます。
<24.5.1 記>
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