
家をプチ改装いたしまして、ほんのわずかだけ、キレイになったのでございます。もう、畳も腐って、シロアリで、床が落ちてましたんでね。大昔、冷蔵庫代わりに使っておりました、石造りの地下室も、降りやすいように、大工さんが、出入り口を作ってくれはりましてん。とりあえず、梅の収穫時期でしたので、梅酒を作って、置いてみました。ホワイトリカーや焼酎やらブランデーやらで。出来上がりが楽しみでございますけれども、そんなこんなで、今月は、お珍しい、『電話の散財』で失礼をいたします。へぇ?何でかて?『梅にも春』ですがな。
昔から、大店の金食い虫はと申しますと、若旦那と相場は決まったもん。特に噺はね。ただ、このお話は、全くの反対。極道もんは、親旦那というのですから、まだ輪を掛けて、タチが悪い。若旦那へお電話が掛かってまいりますというと、はよ事務所へ、選挙の事務所へ来て欲しいて。選挙運動ですな。しかし、親旦那を残して行くと、どうも遊びに出掛けそうで困る。常でも、道頓堀あたりで、若いおなご連れて歩いてるところで会うと、具合悪いのに、この前は、堺からの帰りがけ、住吉の乗り換えするときに、バッタリと会うた。女もんの長襦袢着て、ほうかむりして、踊ってたて。連れのもんが居たので、体裁悪かった。そら、選挙期間中ですもんな。帰って言うと、『十日でも二十日でも、行きやせん。』と口では言えども、留守にすると、どうも、出て行きそうで、具合悪い。そこで、番頭さんに、後を頼んで、若旦那は、人力俥で、事務所のほうへ。『ただいま、出はりました。』と、先方さんへ電話を入れてもらいます。
さて、後へ残りました親旦那、若旦那が出て行きなはったのを、番頭さんに確認してから、「羽織出しとくれ」。『初天神』やおへんけれども、羽織着て、便所行くわけやなし、ミナミへと。十日・二十日やおろか、一日も、辛抱できしまへんのかいな。たった一時間も、辛抱でけんて、子供やがな。というのも、ミナミに、エエ娘が居てはりますねやて。佐久鶴さんちゅうて、ちょうど、写真を持ってなはる。これが、なかなかの、唄のウマイ方ですねやて。唄聞くと、頭痛も治って、胃の痛いのも治る。医者みたいなもんやさかいに、唄聞きたいと。そこで、エエこと思い付きました、番頭さん、ミナミへ電話を掛けて、電話室の中で、唄を唄うてもろうて、それを、こっちで聞くというのは、どうですと。「それでは、顔が見えんがな。」「お写真見ながら、声聞かはったら、よろしいやないかいな。わたいが、お酌いたします。」って、いよいよ、おもろなってきましたで。こらちょっと、よそにない型・遊び方でっさかいになあ。電話での散財、電話の散財ですわ。お金が無いという類の方では、ございませんのでね。
ミナミの十九番、番頭さんが、電話をいたしまして、聞いてみますと、今、お風呂へ行ったはるて。折り返し、電話をしてもらいますのが、西の五千九百十番。“じじ ごくどう”って、通販違いまっせ。おもろい番号で。ちょっとした小鉢もんを誂えておりますところへ、先方から電話。今日は、芝居行きは、やめにして、電話室で、三味線弾いて、唄を唄うてくれて。しかし、一人では、おもろないので、いつもの通り、芸妓はんやら、太鼓持ちも、呼んでもらいます。こらまた、豪勢な散財ですわ。しかし、粋なもんどすな。用意がでけましたら、ボチボチ始まります。っと、下座からは、『梅にも春』。途中で、『昨日、お見せになりました見本は?』て、こらどないなってまんねん?番頭さんに聞きますというと、これが、混線してるて。昔の電話には、ようありましたんやな。長いこと掛けてると。こういう場合は、『話し中』と言いますというと、元に戻る。昔の映画やなんかでも、こんな場面、ちょいちょいありますわ。「話し中」っと、また、元の、『梅にも春』に戻ります。『先方さんが、えろう、せいたはりますのんで。』って、また混線や。「話し中」。
今度は、皆が揃うての散財にふさわしく、『磯節』やて。にぎやかでよろしいな。しかし、電話口の向こうは、どうも、しおれた様子。飲み食い無しですねやね。親旦さんは、飲んではりまっさかいに、向こうでも、何なと、好きなもんを取らせまして、『磯節』の始まり。おなじみの、「テヤテヤ」とやっておりますところへ、忘れもんがあったかと見えまして、若旦那が帰って来た。ふっと、電話室を見ますというと、親旦さんが、電話してなはる。しかし、どうも、様子がおかしい。「お父さん」「テヤテヤ」「お父さん」「コラコラ」「もうし、お父さん。もうし〜。」「話し中!」と、これがサゲになりますな。おもろいサゲでっしゃろ。親旦那のほうは、「お父さん」の声が、混線している相手先やと、思うたはりますねやね。
上演時間は、十五分から二十分前後。噺だけですと、もうちょっと、短くは、なりますがね。昔の電話の説明、電話室の存在、混線・話し中、現在に至りましては、説明しておかないと、分からない部分ばかりでございます。本来は、寄席向きなんでしょう。ただ、お珍しい話ですので、何か、特殊な会の時ぐらいしか、出ませんな。前半は、親旦那が、若旦那に小言を言う場面ではございませんで、いつもの逆。若旦那が親旦那にて。冒頭は、選挙の話を出しましたが、現在は、普通に、遊びを止めるというのも型みたいですね。ちょっと、いろんなところに、影響が出ては、困りますので。とりあえず、親旦さんを、一歩も外へ出すなと、番頭さんに言い付けまして、若旦那が家を出る。っと、いつものごとく、出たいのは、親旦那。番頭さんが、止めまして、そこは、珍しい、電話での散財となりますな。これがまた、変わっておりまして、おもしろいやないですか。お唄のウマイ方みたいですのでね。いつものように、みんなを集めましての宴会。ちょいちょい、混線いたします。ここで、「話し中」と。そこで、若旦那が帰ってまいりまして、混線していると思った親旦さんが、「話し中」でサゲになる。現代では、分かりにくいものばかりですが、しかし、実に、おもしろい話です。
この噺は、二代目林家染丸という方が、得意にされていたと、いわれております。おおもとは、曽呂利新左衛門・桂文之助作らしいですけれども、この形になったのは、やはり、二代目の染丸さんらしいですね。四代目林家染丸氏のものは、随分と昔に、聞かせていただきました。小品ですが、なかなかに、おもしろみのある、派手なもんでしたな。林家花丸氏のものも、聞かせていただきましたかな。
こんな噺、私、案外、好きでんねんで。また、滅びん程度に、ちょいちょい聞かせていただきたいものでございます。
<24.7.1 記>
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