暑い夏、と申しますか、例年のごとく、まだ暑い、九月でございます。ホンマ、昼間は、単やのうて、夏もんでも、許して欲しいもんですけれども、今月は、『算段の平兵衛』でございます。別に、これという意味があるわけでもございません。ただ単に、思い浮かんだだけでございます。盆踊りも、終わりましてんけどね…。
舞台は、大阪近郊の農村でございます。お庄屋さんには、お手かけさんがございまして、この、お花さんという方は、同じ村の中に住まわしております。おんなじ村だけに、具合が悪い。お庄屋さんのお内儀が悋気を起こすのも、当たり前。やいやい言うのが、うるささに、いっぺん、算段の平兵衛にでも、相談してみよかということになります。算段の平兵衛さん、普段、何を仕事にしてるのか分からん。いろんなお世話や、かすめとったような金で、生計を立てております。まさに、算段ですな。話をしますと、平兵衛のほうも、やもめのこと、持参金は付いてくるし、人の、お手かけはんになろうという方でっさかいに、お花さんのほうも、そこそこ様子がエエ。鴨がネギ背たろうて、やってきたようなもんで、すぐに夫婦になります。はじめのうちは、持参金で、食べておりますが、稼ぎは、バクチ。次第に、嫁入り道具に手が付いてまいりまして、だんだん、心細うなる。お金のほうは、もう、どないもこないも、しょうがないようになって来た。米も味噌も、醤油も切れてる。切れてないのは、台所の包丁だけ。平兵衛が言うには、お庄屋はんが、今朝早う、隣村へ行ったて。夕方までには帰って来るやろうが、お庄屋はんも、まだ、お花さんに未練がありそう。そこで、美人局(つつもたせ)を仕掛けようと。平兵衛が留守やいうて、お花さんが、お庄屋はんを家に引っ張り込み、手の一つも握りかけたところで、平兵衛が、『間男見つけた。そこを動くな。』ちゅうので、金を取ろうという作戦。こないだ、辰とこがやったけど、『間男見つけた』ちゅうのを間違えて、『美人局見つけた』言うて、失敗してしもたて。ゴジャゴジャ言うてるところへ、お庄屋はんが帰って来た。お花さんは、お神酒の残りのお酒をつけまして、白粉をつけております。平兵衛は、隠れてしまう。
災難なんは、ここへ通りかかりました、お庄屋はん。お花さんが声を掛けますというと、家に上がっては、平兵衛にマズイと。しかし、今日は留守やと言いまして、何とか家へ。上がってみますと、酒が出たある。クサクサするさかいに、お神酒の残りを、一人でやろうとしてたて。「久しぶりやなぁ」てなこと言いながら、お花さんにお酌してもらいながら、チビチビと始めます。平兵衛は、バクチしてるのやら、何してるのやら、なんじゃ分からんて。ほんなら、平兵衛には、また、金で話をつけて、よりを戻そやないかいなと、お庄屋はんの手が、お花さんの手に触れたところで、平兵衛が現れまして、「間男見つけた。そこを動くな!」と、持ってた割り木で、殴りつけますというと、「ウーン」と、お庄屋はんは、倒れてしもた。息してへん。死んでしもた。「年寄りて、もろいもんや。」て、んなアホな。
このまましておくわけには、まいりません。そこは算段の平兵衛、死骸を隠しておきまして、日が暮れを待っております。暗うなった時分を見計らいまして、死骸を背たろうて、誰にも見つからんように、お庄屋はんの家へ。母屋は、息子夫婦が住んでおりますので、離れのほうへ。雨戸が閉まっておりますので、ここへ死骸をもたせかけて、トントンと叩く。向こうが、ガラッと開けたら、ストンと仰向けに、引っくり返って、頭打って死んだと、思わせようという魂胆ですな。お庄屋はんの声色を使いまして、中のお婆んへ、「ちょっと開けて」と。遅うなったんは、平兵衛のとこに寄ってたからやと。と同時に、お花さんのとこですわな。お婆んは、また、悋気を起こしまして、平兵衛のとこに、泊まりなはれて。エエ歳して、締め出しくろたでは、周りのもんに面目ないので、首でも吊って、死ななしょうがないと、平兵衛は、ウマイこと持っていきますわいな。「首吊るなと、エエようにしたらエエがな。」「ほな、そうするわ。」こらもう、しめたもんですわいな。死骸の帯を解きますと、横手の松の木に掛けて、輪を作りまして、そこへ、死骸の首を掛けて、帰って来てしもた。しばらくしますと、お婆んのほうが、どないなったんかいなあと、表の戸を開けてみますというと、お庄屋はんの死骸。ビックリいたしまして、母屋に知らせようといたしましたが、しかし、夫婦喧嘩の挙句に、お庄屋はんが、首吊ったでは、村の人に見られたでは、面目ない。変死でっさかいに、検死もせんならん。「こら、算段の平兵衛にでも、相談せな、しゃあない。」回ってきましたがな。
平兵衛の家に、お婆んが、コッソリやってまいりまして、事情を語る。ビックリするのも、白々しい話ですが、お庄屋はんが、首吊って、死んでしもたて。何とか、穏やかに収まりますように、算段をと頼まれますが、そこは、死人のことでっさかいになぁ。「これは、門跡さんにあげよと思うていた、二十五両一包み。これで、何とか、算段を。」やて。エライ話や。困っておりました折ですので、すぐにも引き受けまして、とりあえず、誰にも見られんようにと、お庄屋はんの死骸を、松の木から下ろして、取ってまいります。死骸には、派手な浴衣を着せまして、ほうかむりをして、腰にうちわを差します。自分も、おんなじ格好。今度は、目立たんようにしながら、隣村へ。隣村では、盆踊りの稽古の真っ最中。電気の無い時代でございますので、かがり火はありますが、顔は見えん。櫓の上から、音頭取りの唄やら、太鼓の音が聞こえてまいります。踊りの輪へ入って、死骸を持ちながら、平兵衛が、その死骸の冷たい手を、他の踊ってるもんの顔へ、ペチャッ。ヒョイと。踊ってるもんは、気色悪がって、どうも、よその村から、踊りをつぶしに来たもんやと、推察いたします。今度、冷たい手が来た時には、その手を掴んで、どついたろうという魂胆。ヒョイッと来たので、「こいつや〜!」と、袋叩きにする。瞬間、平兵衛は、お庄屋はん放り出して、逃げて帰って来る。
動きが無いので、明かりを持って来て見ると、これが、隣村のお庄屋はん。エライことしてしもた!酒に酔うての上かも分かりませんが、隣村のお庄屋はんが、悪さをした仕返しに、皆で、殴り殺してしもたでは、二ヶ村がケンカになって、後々、遺恨が残ること間違いない。お年寄りには、また、後で相談し直すといたしまして、若いもんだけで計ってみますと、こらどうも、算段の平兵衛にでも、相談せなしゃあない。とりあえず、とっさのこと、一番の金持ちから、後で返すと、二十五両一包みを借り受けまして、数人で、平兵衛の家へ。寝ているというのを、叩き起こしまして、事情を語る。って、百も承知ですわいな。いっぺんは、断りますが、そこは、金の力で、算段を引き受ける。今度は、どんな手でっしゃろ?死骸と共に、五・六人が、崖端(がけはな)の一本松まで上がって欲しいて。そこで、月見の宴を開いているという設定にする。平兵衛は、お庄屋はんの家へ行って、お婆んに聞くと、まだ帰ってないと言うに違いない。探しに行きまひょと、外へ連れ出して、提灯を振るのが合図、死骸を、崖の上から落として欲しいて。そこで、『お庄屋はんが、すべりこけた〜。』言う声で、お婆んも、得心させようという魂胆。「そんなことで、向こうのお婆んは、得心しますか?」「お婆んは、任しとくなはれ。」て、そらそうですわ。向こうにも、算段する言うてまんねやさかいに。隣村へ、盆踊りへ行った話は、知りまへんねやさかいにな。
さあ、お婆んのほうには、ウマイことしときましたちゅうて、誘い出す。提灯を上げ下げする。死骸が落ちて来る。もとより、医学の発達してない時分、近所で、一番エエかげんな医者を呼んでまいりまして、事故死扱いにする。口外する者、誰も無し、八方無事に収まりまして、平兵衛の懐には、五十両という金が残ります。そらもう、毎日、朝から酒飲んでますわいな。と、近所に住んでおります、按摩の徳さんちゅうのが、「ちょっと、一服さしてもらおかいなあ。」とやって来る。揉み療治で、目がご不自由ですが、それでも、バクチを打とうという男。「近ごろ、エエ景気やそやないか。」どうも、ゆすりに来た様子。しかし、それとても、どこまで知ってるのか分からんだけに、気持ちが悪い。「寄進に、一分ついとこか。」すると、また四・五日してから、「ちょっと、しのがしてえな。」ちょいちょい小遣いを取られるようになってきた。近所の人がビックリして、「上には上があるもんやなぁ。平兵衛から、まだ、むしり取る男が居てるやなんて。」「しかし、相手は、算段の平兵衛と言われた男、こんなことばっかりしてたら、しまいに、エライ目に、あわされるで。」「さあ、そこが、○○○平兵衛に怖じずやがな」と、これがサゲになります。関係各位の皆様方、誠に申し訳ございませんが、これで堪忍しとくれやす。古典作品ということを、ご理解の上でのことと、お考えいただければ、幸いでございます。サゲまでは、普通、演じられませんけどね。
上演時間は、三十分程度、そこそこ長いものですし、ちょっと特殊な話ですので、特別な時に演じられるほうが、多いですか。というのも、筋の運びが多いのと、土台、悪は栄える、だます内容のものですので、そこは、難しいですな。いやらしさを感じない程度に、おもしろくですからな。場面は、コロコロと変わります。冒頭は、地の部分で、ちょっと説明をしておかなくては、話に入れません。お手かけはんが、平兵衛の嫁になるという所です。そして、美人局をやると。昔から、なんじゃ、小水が掛かります、美人局と書いて、つつもたせ。割り木で殴ってみると、お庄屋はんが死んでしまう。本当は、卒中とか、ショック死やったかも分かりませんね。放っておくことは出来ませんが、そこは、算段の平兵衛、夜になりますと、死骸を背たろうて、お庄屋はんの家へ。元々は、戸を開けた拍子に、コトンと、頭打って死んだように、見せかけようとしますが、そこは、お婆んとの会話で、ウマイこと、首吊りに持って行く。この辺は、やっぱり、算段の平兵衛ですわな。他の人には、でけん芸当。家に戻ると、お婆んから、二十五両で、お庄屋はんを算段して欲しいて。こら、カモネギですわいな。今度は、隣村へ。盆踊りで一緒に踊りますが、ここで流れてまいりますのが、『堀江の盆踊り』の唄。また、『らくだ』と同様に、死骸も踊らせます。袋叩きにあった末、これまた、この話が、算段の平兵衛のところへ。また、二十五両付いてます。そして、月見で飲んでるうちに、足滑らせて、崖から落ちて死んだことにするて。そら、お婆んは、納得しますわいな。おもろい話といえば、おもろい話ですが、災難なんは、やっぱり、お庄屋はんでっしゃろなあ。何で死んだや、分からんて。ま、たいがい、ここで切られて、終わります。話といたしましても、そのほうが、エエように思いますね。
東京には、移されているかも分かりません。上方ネタですけれども、これは有名な、桂米朝氏による、復活ネタでございます。といえども、そんなに、回数は、演じておられないかも分かりませんけどね。元々は、もう一回殺されるらしいのですが、残念ながら、勉強不足で、私は、全く知りません。所有音源は、その米朝氏、月亭可朝氏、月亭八方氏、桂文珍氏のものなどがあります。米朝氏のものは、サゲのあるものや、途中のもの、いくつかありますが、やはり、ウマイですな。平兵衛の、いやらしさも感じさせず、本当に、お話という感じで、ムリなく進行してまいります。可朝氏は、違うサゲを付けておられましたが、おもしろい。平兵衛のニヒルな悪役ぶりも出まして、よろしいなあ。八方氏も、また違うサゲを付けておられましたが、おもしろいものでした。なかなか、出来る人、いはりませんさかいになあ。文珍氏のものは、もっと笑いの多い、にぎやかなものでした。
どこでも演じられるというものでもございませんが、たまには、よろしいよ。舞台は農村ですが、しかし、在所では、この手の話は、あんまりウケないみたいですけどね。
<24.9.1 記>
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