
はや二月。正月、どこ行きましたんやろなあ?子供時分の、正月いうたら、十五日過ぎるまで、だいぶ、ヒマいりましたけどな。それに、正月らしい雰囲気ちゅうのも、だんだんと、薄れて行くもんで、第一、お注連縄も、すけのなりましたやろ。神さん、来はれしまへんで。といえども、来てもろたら困るのが、節分の鬼でございます。あ、ウマイこと、話入れましたわ。そこで、今月は、お珍しい、『鬼の面』で失礼をさせていただきます。
出てまいりましたのは、十一屋の子守り、おせつと申します。子守りといえども、これもまだ、子供でございます。皆が集まって、遊んでるのに、一人だけ、この店の表へと立ちまして、商売もんの、お面を見てる。いつものことなので、このお店の人が聞きますというと、お面がおもしろいのではない。この、お多福、おたやんのお面が、母親の顔に似ているので、いつも見てるて。奉公しているとはいえ、そら、まだ子供、しかも、女の子ですもんな。買うて行ったらと勧めますが、ここへ来たら、いつも見られるのでと断ります。しかし、始終、前に立って見られるのも迷惑と、お面をあげることにいたします。お金は、ちょっとずつ返しますと言いますが、それも不必要なこと。とりあえず、大事にしますと、お店へ持って帰りまして、自分の部屋の箱の中に、しまいます。暇があると、このお面を、取り出しまして、母親やと思い、話し掛けておりますな。親元は、池田ですのでね。
ある日の夜中、このお店の旦さんが、廊下を歩いておりますと、この、おせつの部屋から、話し声が聞こえる。誰が来てんのんかいなあと、耳をそばだててみますというと、どうも、おかんと言いながら、なんじゃ、箱の中にしもたもんがある。夜中のことでっさかいに、とりあえず、明くる日になりまして、おせつが、子守りで、表へ出た隙を見て、部屋の中へ。箱の中身は、なんと、お多福のお面。これを、母親やと思うて、しゃべり掛けていたんやと、納得いたします。そういやあ、会うたことあるけど、ほんに、お多福ソックリの顔やったと、思い出しますわ。おせつも、よう似ておりますので、お多福に、子多福やと思っておりますうちに、おもろいこと考え付かはった。この前にもろた、鬼の面・般若の面を、この、お多福の代わりに、箱の中に入れといたら、ビックリしよるやろなあと。そこで、この旦さんが、お多福のお面をかぶって、“おたやんは、こちら”と、踊って出て来たら、もひとつビックリするやろと。そして、この、お多福の面と、鬼の面を入れ替えておきます。
ところが、この日は、お店が忙しくなりまして、旦さん、この、お面の一件を、コロッと忘れてしもた。そんなことは知らん、おせつは、日のあるうち、子守りをいたしまして、自分の部屋へと帰ってまいります。いまのうちに、オカンに会うとこと、箱を開けますというと、これがなんと、鬼の面!ただいまの子供ではございません、昔々の、しかも、田舎の子でございます。これは、オカンの体に、何かあったに違いないと、思い込んでしまいます。村を出る時、お地蔵さんに、オカンの体に、もしものことがあったら、夢にでも知らしてもらえますようにと、頼んでおいたと。でっさかいに、これは虫の知らせと、鬼の面を懐へ入れるなり、表へと飛び出します。大阪から池田、ただいまですと、阪急電車で近いもんですけれども、歩いて行きますので、一日掛かります。しかも、子供の足。月明かりを頼りに、暗い山道を、トボトボと、歩いております。
と、呼びかけるもんがある。火いこして欲しいて。というのも、向こうのお堂の中で、勝負てな、バクチしてんので、ここで、見張り番させられてまんねんな。田舎といえども、最近は、警察が、うるさいもんで。だいぶと冷えてきましたので、火をおこしまして、焚き火をしようというところで、火がつけられへんと。そこは、田舎の子でっさかいに、その辺の落ち葉かなんかを、かき集めまして、火をつける。ところが、青松葉なんかが、混じってたもんとみえまして、いっぱいの煙。こらかなわんというわけで、懐から鬼の面を取り出しますと、これを顔へ当てて、フーフーと。さいぜんの男が戻ってまいりますと、煙だらけ。そこで、ようやく、ボッと火がつきますというと、その火に照らし出されましたのは、煙の中の鬼の面。「ぎゃー」という声と共に、バクチをしているお堂の中へ。他の連中は、てっきり警察の手入れやと勘違いをいたしまして、慌てて逃げる。中には、二と六しか出えへん、いかさまのサイコロを探してる奴もある。
そんなことは、どうでもエエのが、おせつのほう。気にせずに、家へと帰ってまいります。「おとっつぁん、開けて。」と言いますが、中では、ちょっと、思案してから。というのも、大阪へ、奉公している娘が、この夜中に、家へ帰って来るのには、どうせロクなことがない。逃げて帰って来たに違いないと思いながら、表の戸を開ける。「オカン、どうもないか?」と。様子を聞いてみて、また、鬼の面を見ますと、そら、誰ぞのイタズラに違いないと、納得をいたします。オカンも、元気ですのでね。しかし、お店を出るのに、誰にも、断って出て来たわけやないというので、こら大変。オカンの、おかめさんは、明日の朝でエエというのを、無理矢理に、食べるもんだけ食べさせまして、提灯を持って、おとっつぁんのほうが、大阪のお店へ送ってまいります。
途中、あの、お堂の前へ、差し掛かりましたところで、実は、これこれ、こういうことがありましたと、おせつが言い出します。いっぺん調べてみよかいなあということで、中へ入りますというと、そこらにお金が散らばったある。放っとくわけにもまいりませず、というて、お店では心配しているやろうと、一刻も早く大阪へ行かねばならず、とりあえず、おとっつぁんが、手拭いの中に、お金を掛け集め、包みまして、それを持って、急ぐことといたします。一方、お店のほうでは、そらもう、大騒ぎ。なんぼ奉公人といえども、行方不明では、親元へ対して、面目が無い。そこらじゅう探しますが、見つからん。女の奉公人は、ご寮さんが見ないかんと、旦さんは、イジメたんやないかと、責め立てます。と言うてるところへ、おせつ親子が戻ってくる。これこれしかじかと、話を聞いてみますというと、こら、旦さんの仕業ですがな。お多福の面出すのん、コロッと忘れてなはったんでっさかいに。一件落着となりまして、せっかくでっさかいに、おとっつぁんも、ゆっくりしていきと、旦さんがすすめますが、これから、警察へ行くて。なんぼなんでも、こんなことぐらいでと思うてますと、そやないん。これも、実はこれこれでと、お金を勘定いたしますと、総額が二百円。旦さんが言うのには、警察へ届けたところで、バクチ場でのこと、引き取り手なんか、名乗り出てくるわけが無い。一年経ったら、おとっつぁんのもんになると。「鬼さん、ありがとう。」って、鬼の面に礼言うてなはる。「わたい、来年になったら、大金持ちでんなあ。」「そういうこっちゃなあ」「アッ。今、この面が笑うた!」「来年の話を、したさかいやろ。」と、これがサゲになりますな。来年のことを言うと、鬼が笑うという、ことわざですな。元来は、「どうりで、金札つかんだ。」というのが、サゲらしいです。鬼の面だけに。
上演時間は、二十分超えるぐらいでしょうか。そんなに長いものではございません。しかし、話の展開が、早く進みますので、あんまり急ぎ過ぎると、我々、お客のほうが、なかなか付いて行きにくい状態に陥りますな。割り合い、間を持って、演じられたほうが、聞かれたほうが、よろしいかと思います。前半は、おせつが鬼の面を持つようになった、いきさつと、大阪でのお店の様子。駄菓子屋さんか、おもちゃ屋さんか知りませんが、冒頭に出てくる、お面を売ってるお店の、おっちゃんちゅうのも、案外、見逃せませんな。優しいんですが、お面をくれるのが、いかにも、哀れさが出ると、マズイですし。イタズラを思いつく旦さんは、オチャメですな。普通なら、見つけたところを、これこれと、言うてしまうんですけどね。中盤は、この、お多福の面が、鬼の面へと変わって、これが、オカンの体が悪いと、知らせるものではないかと、池田の親元へ。ここら、純朴な子ですわ。でも、ビックリしたでしょうなあ。おっそろしい、鬼の面に変わってるて。お多福から鬼ですから、大違い。途中、山道の、お堂の前で、火おこしの手伝い。ここに出てくる見張り番も、さいぜん同様、見逃せません。割り合い、エエおっちゃんですねんで。煙の中から、鬼が出て来て、ビックリして、バクチ場の連中は逃げてしまう。それは放っておきまして、おせつは家へ。母親の無事は確認いたしましたが、無断で出て来たので、すぐにでも、帰らんと、お店で心配してなはる。父親が付いて戻りますな。後半は、大阪へ戻って、話が収まる。といきたい所ですが、途中、あの、お堂を見てみますと、お金がそのまま。とりあえず拾って、大阪へ。事態収拾後も、おとっつぁんが、警察へ行くというので、中身を調べますと、大枚二百円。落し主不在になること、間違い無しで、来年には大金持ち。ここでサゲになると。拾得物が、一年後に、拾い主の者になるという法律、いつ出来たんでしょうなあ?勉強不足で、わたしゃ、知れしまへんねけども、それで、この話は警察の出てくる、明治以降のものと、作り変えられているのでしょうか?
東京にも、移されているんでしょう。詳しくは知りません。所有音源は、桂雀三郎氏、桂梅團治氏、月亭八天氏のものがあります。雀三郎氏以前に、あまり聞いた記憶がございませんのですが、ちょいちょい、やったはりました。てんごする旦さん、いかにもオチャメで、かわいらしいですよね。梅團治氏の、おせつの、おとっつぁんは、いかにも正直者で、日本のお父さんという感じがしましたな。八天氏も、旦さんが、おもしろい人に描かれております。そこそこ笑いはありますが、しかし、うわすべりしやすいネタですので、お三方とも、工夫をされているのでござりましょう。
<25.2.1 記>
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