今年のゴールデンウィーク、間に挟まれました、五月二日の木曜日は、久々に、平日ですので、定休日となり、休めますので、おおよそ六年ぶりですか、みやこめっせの古本市・古書市に行こうかと思い立ちました。まだ、どうなるか分かりませんねやが…。そこで、今月は、これも、お珍しい『古手買い』で、失礼をさせていただきます。

 いつもおなじみ、おもろい男が、入ってまいりますと、話の始まりで。昨日、ゆんべ、家へ帰ったら、カカの他に、男が居てる様子。障子を開けて、中へ入ると、カカの弟ですて。聞いてみると、勤めてるとこで、またヒマ出されたて。学校出て、丁稚に行ってたが、商売に向いてないと、ヒマ出された。両親が居てないので、姉のとこへ帰って来た。世話をしてくれる人があって、また勤めに行ったが、ここもあかなんだ。商人は向いてない、職人になったらどうやと、しばらくは、家に居ることをススメる。しかし、カカのほうは、そんなこと言うさかいに、甘えるのやと言いながら、それでも、実の弟でっさかいに、ありがたいと感謝してまんにゃろと。話は、ここからですわいな。よう見たら、汚い着物を着てる。こんなんでは、また返されてくると、着丈が一緒でっさかいに、わしのを出したれと言い掛けるが、この人かて、そないに何枚も、持ってはれへん。『坐摩の前へ行て、何ぞ買うてきたる。』と言うと、止められたて。この人、買いもんが下手ですねんと。しょうむないもんを、高い銭で買うて、『おおきにありがとう』と礼言われて帰って来る。特に、古手屋、古着屋さんへ行きますので、そこは、買いもんのウマイ、源さんをおだてて、一緒に行ってもらいと。「行てくれるか?」ここら、『壺算』と同じ要領ですが、おもろいでんな。

 「足元見られんように」のギャグも、ありまんにゃけれども、とりあえず、坐摩の前、古着屋さん・古手屋さんの集まった場所へ。大きすぎても、負けてもらえへんし、小さすぎても、品数がすけない。ほどほどの、一軒の店へ入ります。実は、ここらからしても、買いもんのコツなんですな。源さんは、木綿の袷(あわせ)を頼みますが、丈は、お連れと一緒でっさかいに、七寸五分。河内木綿の藍じゃがというやつで、新品同様…。お連れは、座布団の糸を、むしってなはる。「こらもう、ツヤが良うなりまして、裏も、花色の木綿…。すんまへん、お連れさん、猫のヒゲ抜かんように。」また、そんなことして。実は、これこれしかじかと、この男の買いもんの割りに、頼りないので、代わりに付いて来たと言いながら、値段の交渉。番頭さんが、算盤(そろばん)入れて、渡してくれはった。「気に入るように、玉動かし。」って、動かした後は、何でんねん、これ?動かすだけ動かしたある。

 とりあえず、五円十五銭というところを、きっぱりと、五円にしまひょと。「わいに値切らせて」と、また出てまいりまして、「十銭に負からんか?」て。十銭負けてと思いきや、十銭にやて。「子供、これ、元の棚へ、直しときなはれ。」そら、誰でも怒るわ。「盗んできたもんや、拾うてきたもん売ってんのと違います。」「それであかなんだら、もう十銭付ける。」「いになはれ。人をバカにして。風の強い日に、表歩きなはんなや。飛ばされて、紙屑と一緒に、どっか行ってしまうで。刃物で切っても、血は出まへんやろ。白いオカラが、こぼれるわ。」「もう十銭」「子供、塩まいとけ。」「番頭、わしは、どないしてくれんねん。人の目の前へ持って来たもん、黙って直すてなことして。」と。そやさかいに、最初から、アホやと言うてるんやて。中へ入って、“裁量しとくなはれ”と言うのが、商売人ちゃうんかと。『盗んできたもん売ってまへん。またそんな時があったら、買うてもらいまひょ。』て、そんなもん売る日があるんか?『刃物で切っても、血は出まへんやろ。』血出たら、どないしてくれんねん?「ド盗人」って、これもまた、屁理屈でっせ。番頭はんも、行き過ぎは謝りますが、しかし、何も盗んだわけやない。聞くと、“家職盗人・禄盗人”やて。商人の道を勤めなんだら、そない言われても、しょうがないて。「二度と来るか!」お連れのほうも、言い返したいが、なかなかウマイこと行かへん。「最初に口聞いたんは、わしや。」「わしやがな」「猫のヒゲ抜くアホや。」「そら、お前や。」「十銭のもんに、五円の値付けやがって。」あべこべですがな。「切っておからが出たら、どないすんねん。家職盗人。カ〜、チュウ。」子供ですがな。

 帰った後に、出てまいりましたのは、ここの旦さん。「一本かましたけど、三本ほど、かまされてたやないか。」『こんなん使うてる、主の顔が見たいわい!』とか何とか言うてたんで、よう出て来なんだて。亀吉っとんは、まだ戻っておりませんので、定吉一人に、お店の留守番をさせまして、番頭どんと旦さんは、奥の間へ。旦さんが、おっしゃるのには、さっきの盗人と言われるのも、少しだけ、分からんことはない。昨日、旦さんが店に居ると、入って来られたのは、ごく上品なお方。ご注文は、やっぱり、木綿の袷。使用人か誰ぞに、買いにやらせても、エエぐらいの方で、しかも、木綿もんを、自ら買いに来はるぐらいでっさかいに、よっぽど、何かの事情があると、お見受けする。先ほどより上の、一番エエ木綿もんを出して見せて、八円五十銭という値を言うた。二十銭引いてくれ言われても、値引きをするつもりもなかったが、何も言わずに、言い値で買うてくれはったて。もう二度と、古手屋なんかへ、来るようなお方やない。何かの事情がおありやったんやろうと。しかし、さっきのお客は違う。どう見ても、古手屋のお客。二度三度、またというようなお客。『こんな店、二度と来るかい!』は、あの二人だけの話と違う。隣近所・親類から友達まで、皆に言いふらす。また、言いふらすようなお客。この店へ来て、十六・七年にもなろうという、一軒の店も、持たそうかというような人が、ちょっとは、修行が足らんのではないかと。

 店の間では、定吉っとんが、奥で怒られてる番頭を、ざまあ見ろとばかりに、留守番をいたしております。ところへ、入ってまいりましたのは、刺し子を見せて欲しいという、勢いのあるお方。番頭はんが、怒られているのをエエことに、定吉っとんは、商売を始めてしまいます。火事羽織を出して、ちょっと羽織ってみて、鏡で見る。ところへ、ジャンジャーンという半鐘の音。火事は、長堀やという声に反応いたしました、この男。「脱いどくなはれ」という定吉っとんの声も聞かずに、飛び出してしまいます。ああ、いかれてもた。悪気があったのか、無かったのか、火事にまみれて、まだ買うてもいませんのに、出て行ってしもた。番頭さん・旦さんに報告しますと、大目玉。そらそうですわ、四十・五十円ほどするもんでっさかいになあ。火事の刺し子て、今でも、結構エエ値する、高いもんでっせ。一騒動の後に、入ってまいりましたお方は、今度はまた、葬礼の色・麻の裃をお求め。「五番のぼて」と言われますが、定吉っとんは、よう持って来うへん。「あきまへん」「何でや?」「向かいの辻から、葬礼が出かかってます。」と、これがサゲになりますな。前のお客が、刺し子着て、火事で出て行ってしもたんで、今度も、色で、そのまま葬礼へ出て行ってしもたら、かなんという理由ですわ。

 上演時間は、二十分前後でしょうか。お珍しい話ですが、昔の寄席なんかでは、演じられていたのでござりましょうなあ。今では、何か特別な会でぐらいしか、滅多に聞けません。それはやはり、あんまり、おもしろくないと申しますか、笑いが乏しいからなんでしょう。前半は、多少、ウケるんですけどね。古手を見に行くことになった理由から、文句言うて、帰るまで。実際、ここまでで切られることも、昔から多かったみたいです。買いもんの話は、『壺算』でも、有名なんですが、同じようでいて、これまた、少し違う。と申しますか、違うように、してあるんでしょうけどね。世代にもよりますが、私の感覚では、衣類の古着、あんまり感心しませんが、しかし、今また、この不況の時代には、結構、多いみたいですな。また、古くは、終戦後なんて、ご利用も多かったし、また、もひとつ昔、洋服と違いまして、着物となりますというと、ちょっと話は変わってきますにゃね。リサイクルの着物なんて、今また、案外、多いですからな。古手屋で、文句言うて帰る件り、笑いで終わりゃあ、それまでで、後で、番頭さんが、旦さんに小言を言われはるんですが、しかし、よう考えてみますと、別に、番頭はんも、そんなに、悪いわけではございませんねけどね。誰かて怒りまっせ。冷やかしや思うて。打って変わって、後半は、その怒られるのと、店では、刺し子を着たまま帰られて、エライ損。そこで、今度も、着て帰られては、かなわんと、葬礼の色を出せんというところで、サゲになる。モーニングちゅうのも、あるらしいですけどね。

 東京でも、演じられておりましたが、しかしやはり、上方のものです。といえども、珍しいものですので、私も、桂米朝氏のものしか聞いたことがございません。でも、米朝氏でも、なんべんかしか、やってはれへんと思うんですがね。故・三代目の桂米團治という人が、得意であったと、いわれておりますが、師匠のまだ、師匠という方でっさかいになあ。しかも、小言を言う、ねちねちと、文句を付けるところがウマかったて、ものすごい評価や思いません。とりあえず、そんなんが得意な方…、なかなか、いはれしまへんけど、残しといとくれやす。

<25.5.1 記>


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