

先月、用事半分、楽しみ半分で、舞妓さんビアカウンターちぇなもんに、参加をさせていただきました。必要な眼目は、他にあったのですが、これはこれで、大変、有意義な、意味のあるものでございました。と、その帰り、そのまま家帰るちゅうのも、おもろもないんで、連れにせがまれまして、一杯だけ飲みに寄せていただきました。が、男なのか、女なのか、マスターと呼んでエエのか、ママと呼んでエエのか…。ちぇなとこで。そこで、今月は、『ふたなり』で失礼をさせていただきます。近ごろは、“ふたなり”ちぇな言葉すら、あんまり聞かんようになりました。でも、内容は、決して、いやらしい話でもなんでもございません。おもろい話です。
夜分のこと、辰っつぁんと由っさん、若いもん二人が、おやっさんの家に、訪ねて来るところから、話は始まります。口下手やなんやかやと言いながら、何言うてんのや、さっぱり分からん。要するに、二人に預けてあった、年貢の金・十両を使うてしもたんで、夜逃げをする。それについて、挨拶に来たて。こらエライこっちゃ。この辺の詳しい理由は、演者によりまして、型がいくつかございまして、説明しづらいので、誠に申し訳ございませんが、とりあえず、村でまとめた金を、遊んで使うてしもたて。それで、大阪へでも、逃げて行って、たとえ、一年かかろうと、二年かかろうと、十両稼いで、持って帰って来ようと、今から夜逃げをする、それのことわりを、言いに来たという具合。エライと言いたいところですが、それが、エエ加減なもんどすわ。どこぞで、貸してもらえまへんか?しかも、この前、隣り村の、お小夜後家に、無尽の金が十両入ったちゅう噂でっさかいに、金貸しの、あのお小夜後家に、貸してもらえまへんかて。厚かましい話ですわ。おやっさんと、お小夜後家は、そこそこ知り合いでっさかいに、口聞いてもらえまへんかて。
「手紙書いたるさかい、持って行け。」と言いますが、そこは顔見知り、直接、おやっさんに、行って欲しいて。明日に必要な金でっさかいに、今晩じゅうに、この暗い中、行って、戻って来ないかん。貸してもらえなんだら、どうしようもないので、ぜひとも、おやっさんに行って欲しい。第一、隣り村へ行くには、栴檀の森を通らないかん。昼でも怖い、化けもんが出るとかいう噂の場所、夜に通るとなると、なおいっそう、勇気が要る。怖いもんなんか無いちゅうような、おやっさんに、行ってもらいたい。若い時分なんかでも、江戸へ行った折、箱根の山で、グラグラと大地が揺れた。何かいなあと思うたら、地震。収まった後に、割れ目から出て来たのは、三匹の地震の子。こらエエ土産がでけたと、持って帰って、昆布で巻いて食たら、なかなかうまかった。ジシンの昆布巻きいうてね。ニワカですかいな。箱根の山には、トラが居た。キセルを持って、立ち向かうと、妹が止めて、私が相手になると。あの産婆はんの。張り倒した後、前足と後足を持って、目よりも高く差し上げた。そらそや、トラ上げばばいうてね。また、ニワカや。
とりあえず、おやっさんの倅は、なんぞ食べてからと言いますが、「宵に食たなりやが、構わん。それより、帰ってからの、寝酒の用意を。」二人と、倅を残しまして、提灯に火を入れ、勢い込んで、家を出ます。が、しかし、おやっさんとても、怖いもんは怖い。って、案外、怖がりですがな。震えながらも、問題の森に入ってまいります。目の前に飛び出しましたのは、二十歳前後の、若い娘さん。狐か狸が化かしてんのかいなあと思いきや、訳を聞いてくれと。ちょっと離れた村に住む者ですが、エエ人がでけて、お腹に子が出来てしもた。親の金を盗んでの、二人で駆け落ち。ここまで来たが、男は、友達に挨拶してくるさかいに、ここで待っとれと言い残して、すでに二刻(ふたとき)。おそらく、逃げたに違いない。こんなことにもなろうかと、最初から、捨てられた折には、村へも帰れないので、死んでしまおうと、書置きも、用意してある。ここで死のうと思いますので、お金もあげますし、線香一本の回向もして欲しいて。どうぞというわけにはまいりません。そこは誰しも、止めるもん。一緒に、家まで付いて行って、親に頼んで、許してもらおうと言いますが、狭い村の中のこと、一生、肩身の狭い身で、暮らしていかんならん。また、大阪へでも行ったらと言いますが、ややさんと二人では、暮らして行かれへん。
「十両差し上げますで、どうぞ回向だけは…。」「十両。そら、死んだらわ。」って、お小夜後家の家へ行く手間が省けるてなもん。そやけど、死ぬ死ぬ言うて、どないして死んだらエエか分からん。森の中でっさかいに、松の木かなんぞで、首吊りすんのが、一番エエ。それでも、やり方が分からんと、おやっさんは、いっぺん先に見本を見せようというので、しごきを、松の木に引っ掛けて、輪を作る。タンゴ・肥えの桶が転がってますので、これを台にして、ここから首を吊って、足で台を蹴ると、首吊りがでける。と、説明しておりますうちに、おやっさん、思わず、台を蹴ってしもた!アホやなあ。死んでしまいましたがな。娘はんのほうも、お金のこと言うたら、死んでしまいて、この人も、あんまりエエ人や無いなあと、大阪で働きますと、死ぬのをやめて逃げようとする。書置きも要らんので、おやっさんの懐へ入れて、大阪へと。どっちもどっちですが、エライことでっせ。
一方、おやっさんの家では、帰りが遅いと、二人が探しに出る。通い慣れた道、どこぞで、おやっさんに会うやろうと、提灯も持たずに出て行きます。余計、怖いがな。森へと入ってまいりまして、伊勢音頭でも歌いながら、ご陽気に…。と言いたいところですが、前に進めへん。誰かが立って、通せんぼ。声を掛けるが、返事が無い。押してみると、返ってくる。引いてみると、向こうへ行く。突き飛ばしたら、アゴを蹴られた。こら、おかしい。よっぽど、背の高い人に違いない。こんなとこが帯で、尻で…。って、宙に浮いてはんねや。大騒動。東が白んでまいりまして、よ〜く見ますると、これが、おやっさん!金がでけなんだんで、面目ないちゅうので、首吊ったに違いないと、村に戻って知らせますと、一回り大きな騒動。変死の届けを出さんなりまへんので、代官所から、お役人が二人出張ってまいります。村の主だった者が出揃いましての吟味。懐には、書置きが入っている。『ふとしたことが縁になり、さるお方と偲び逢い…』って、そら、おかしいですがな。『ついに、おなかに子を宿し…』さっきの、娘さんの書置きですからな。「この親爺は、男のように見えますが、ふたなりにて、実は、女子ではござらぬか?」「なるほど、ご同役。こりゃ、そちの父親は、ふたなりか?」「いいえ、宵に食たなりでございます。」また、「着たなり」とか「出たなり」のサゲ、また、漁師の話で、「男子か女子か?」「漁師でございます」というサゲもございます。ふたなりは、男女両性とか、変性男子とか、まあ、両性とでも、言いましょうか。そんな意味です。
上演時間は、三十分前後でしょうか。存外、長いものですが、そんなに長くは感じさせません。話の筋があり、また、笑いも結構、ございますのでね。『ふたなり』という演題自体で、おかしげな気がするかも分かりませんが、おかしい話では、決してございません。どちらかと申しますと、おもしろい話です。冒頭は、おやっさんに、暇乞いをしに行くという所から、話が始まります。といえども、ホンマのホンマは、最初から、隣り村の、お小夜後家の所まで、金を借りに行く算段まで、付けてきてからの話やったんですけどね。ここは、年貢の金としましたが、サゲに漁師を出す場合、地引網の網代とされることもございますね。演出によって、さまざまなようで。女郎屋の居続けの話やとか、ニワカの部分も、創作やったり、演者によって、まちまちであったりと。おもしろい部分ですけどな。全く入っていない型もございますし。中盤は、おやっさんが家を出まして、森へかかる所から。そやけど、夜中に、娘さんが森の中から急に飛び出してきたら、誰でも、ビックリしまっせ。事情を聞いてみると、駆け落ちの、仕損ない。おやっさんも、十両の金に目がくらんで、お手伝い。しておりますうちに、自分で、首吊ってもた。一巻の終わり。傍で見ているもんは、おもろいかもわかりませんが。書置きも、一緒に入れて、娘さんは逃げてします。ここが、ポイントですな。あまりに帰りが遅いと、若いもん二人は、提灯を下げずに探しに出る。ぶつかる人が居る場面、真っ暗で見えませんので、ここも、おもろい所です。夜が明けて、おやっさんと分かり、検死の役人が、懐の書置きを見つけて読む。ここらが、最大の、おもしろい部分。そしてサゲと。おもろい話なんですが、人が一人死ぬことになりますので、最近は、あまり、歓迎されないんですかねぇ。あんまり、演じられません。特に、上方では。
東京でも同じ題、同じ話の内容です。東京のほうが、有名ですかね。でも、上方にも、古くからあったみたいです。もちろん、録音でしか知りませんが、故・五代目古今亭志ん生氏のおかしさなんか、抜群でしたな。途中の娘さんが、案外、かわいらしかったり、また、最後の役人が、いかにもキッチリした人だけに、おかしかったりして。また、上方では、桂米朝氏が、やったはりました。といえども、そんなに、演じてはらへんと思いますが。おもしろかった。爆笑というより、おかしみが多いといったほうが、イイかも分かりませんが、やはり、サゲの前に、お役人が、真面目な顔して、書置きを読む所なんか。
だんだん、だんだん、この手の話も、やりにくくなっておりますのでござりましょう。
<25.6.1 記>
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