
まだまだ、お暑ぅございます、十月。ビックリしますな。取り立てて、意味はございませんが、今月は、『打飼盗人』で失礼をいたします。もう、だんだん、出すネタなくなってきましたんやわ。『おごろもち盗人』や『仏師屋盗人』などとも、似通ったところは、たくさんにございますが、また少し、違ったネタでございます。珍しいといえば、珍しい。ところで、打飼とは、胴巻きみたいなもんで、要するに財布と同様に考えていただけると、結構かと思います。
盗人ちゅうぐらいでっさかいに、泥棒さんのお話で、皆が寝静まった時分のこと。表の戸が、ベリバリと、なんじゃ、けったいな音。ネズミかなんぞかいなあと、「シャイ」と追いますが、掛け合いのように、ベリバリと。よ〜く見ますると、表の戸を、こじ開けてるような様子。「そこは開けしまへん。もう一枚西の戸。」てなこと言うてるうちに、戸外して、入って来なはった。「どなたはんで?」って、そんなもん、盗人に決まってまんがな。「盗人屋はんでっか。まぁ、お入り。」て、けったいな言い草もあったもんで。「われ、何さらしてんのじゃ?」「寝てまんねん」「灯りを点け」って、この人は、別に、灯り要れしまへんねん。盗人のほうが要る。電気を点けようとしますが、器具もなし、電気は引けてるが、止められてるて。こらどうも、エライ家に入ってしもた様子。代わりに、ろうそくに火を点けようとしますが、マッチが無い。左の棚の上にあるて。手探りで探すうちに、ゴツンと。頭打たはった。ド不器用な盗人屋はんで。
「目から火が出たわい。」「ほな、マッチ要りまへんな。」この人のほうが、泥棒さんより、よっぽど上手。盗人も、腹立って、なかなか、マッチに火点けられへん。明かりがともったところで、「二尺八寸伊達には差さん!」と、長いものを抜きますが、「二尺八寸あるか?」と、拍子抜け。職人さんでっさかいに、二尺も無いのは、見たらすぐ分かる。「あんた、ウソつきなはんなや。ウソつきは…。」もう、泥棒なってなはる。一悶着済んだところで、タバコを吸う盗人。この人も、タバコ吸いですけれども、タバコ切らしてるので、「一服、もらえまへんか?」と、盗人の上前はねる。キセルは銀の、のべで、刻みも上等。それはそうと、この盗人、四・五日前から、ここの家を狙っておりまして、いろんな道具があったように思うたが、今見ると、何にも無い。この人、やもめの一人暮らしで、そこそこエエ暮らしもしておりましたが、友達に誘われまして、バクチに手出して、何にも無くなってしもた。「バクチするような奴は、人間のカスやぞ!」と、泥棒に言われるよりは、ましやと思うんですけどねえ。
この人、職は大工。働いたらエエちぇなもんですけれども、道具箱も、質に置いてしもた。千両・千円もあったら、請け出せるやろうと、朝から友達・親類と回ってみましたが、誰も相手にしてくれへん。さっき帰って来て、横になったところで、ベリバリになったと。「兄さん、千円だけ…。」て、盗人に無心。同じ人間、「明日から、真人間になって働きたい。」てなこと言われますと、盗人でもツライもん、千円渡してしまいます。「おおきに、ありがとうございます。へてな…。」まだ、なんじゃ言いたそう。この人、メリヤスのパッチとシャツしかないので、仕事に行けへんと。「法被や腹掛けも、ついでに、出してきまひょか?」エライ物の言いようや。これは、五百円もあったら良さそうなので、もう五百円もらいます。「ありがとう、ありがとう。へてな…。」この「へてな」が、曲者。この千五百円は、元金。質屋はんでっさかいに、利息が要る。これが二百円。「へてな」昨日から、何にも喰うてへんので、腹が減ってる。明日仕事行くのに、弁当も要るのでと、三百円。「へてな」家賃が三つ溜まってる。家主が路地口で、その前を通って、仕事へ行きにくい。折角の道具箱や衣装でも、差し押さえられてしまう。わずか一つ分だけでも、払うておかんとて。「へてな」しかし、もう、盗人の財布は空っぽ。皆やってしもた。「割りに、今夜は、すけのおましたなあ。今度、いつ来とくなはる?」て、バカにしてまっせ。
盗人、表へ飛び出しまして、半町ほど歩きました所で、この人、後ろから、大きな声出して、「盗人屋は〜ん、盗人屋は〜ん。」と、呼び掛けます。盗人、戻ってきまして、この男を殴る。そら、当たり前ですわ。「へてな、へてな」言うて、金巻き上げて、最後に、近所じゅう響くような、大きな声で、「盗人」と、呼びまんねやさかいに。そやけど、名前知らんので、商売で呼ばな、しょうがない。「何ぞ、用事があんのかい?」「カラの財布を、忘れてます。」と、これがサゲになりますな。元来は、冒頭の説明のように、「カラの打飼、忘れてます。」というのが、サゲやったみたいですけどね。
上演時間は、二十分そこそこでしょうか。本題だけですと、もっと短くもできますが。やはり、どちらかと申しますというと、寄席向きですな。お笑いも多いですし。盗人ネタとは言いながら、特にいやらしい感じもございませず、やはり、おもろいですわな。冒頭の、主人公と、泥棒さんとのやりとりからして、ちょっと、おもろい。普通は、ビビッてしまいますけどね。そこは、やもめのありがたさか、死んでも、何にもないと思い込んでいるのか、なかなか勇気要りまっせ。灯りが要るのも、盗人のほうで、主人公は、寝てまんねやさかいに、明かりは要らん。当然ですわいな。タバコを貰うところからして、どうも、金は無さそう。でも、数日前は、あったんでっせ。中盤、話を聞き込んでまいりますと、この男も、商売道具が無いので、働けへん。そこは人情というもの、千円出すのを皮切りに、なんじじゃろと、金の無心。おもろいもんどすな。財布は空っぽになって、逆に、泥棒が逃げて返る。そして最後に呼び止めて、サゲになると。良く出来てはおりますが、人間、なかなか、そうは、ウマイこと行けしまへんけどね。
東京では、『夏どろ』の名前のほうが、通るでしょうか。夏の夜の話で、ちょいちょい演じられております。サゲもいろいろですね。似たようなものは、いくつか聞かせていただいておりますが、一応、所有音源に、故・二代目桂春團治氏のものがあります。有名な、『春團治十三夜』の中のものですが、このおかしさは抜群で、おもしろいものでございます。登場人物は、二人しか出てまいりませんし、時代背景もありますが、ホントに大爆笑ですな。
とりあえず、ただいまは、生活様式が、まるで違いますので、分かっていただけない部分も、あるかもしれませんが、まあ、とりあえず、おもしろい話です。
<25.10.1 記>
![]() |
![]() |
![]() |