
全くの、時候違いでございます。ただ、もう出すネタのほうを、考えないと、エエ加減、出ておりますということで、何の関係もございません、この前、久々に聞いたというだけの話でございます。しいて言えば、ハローウィンの仮装とでも、申しましょうか…。今月は、『卯の日詣り』で失礼をいたします。要するに、『せむし茶屋』です。“せむし”の言葉自体も、ただいまは、使えないかも分かりませんし、また、“かったい”となりゃあ、もひとつ使えません。関係各位の皆様方には、非常にご迷惑をお掛けいたしますが、誠に、申し訳ない次第でございます。
主人公は、船場の旦那。どういうわけか、せむし・猫背でございます。風流人でもございますが、ここへやってまいりましたのが、髪結いの磯七・磯村屋。二枚目な上に、太鼓持ちも同様というような、器量のエエ人。旦さんのほうは、庭の植木の手入れ。お天気は良し、ちょうど卯の日でもございますので、住吉っさんへお参りしまひょて。しかし、磯やんのお供は、御免蒙ると。というのも、住吉っさんへご参詣、帰りには、どうせ、どこぞで一杯飲む。顔もエエので、女子は、磯やんのほうに集まるばっかりで、旦さんは、放ったらかし。後で勘定は、旦さんに回ってくると。これでは、おもろいことおまへんわなあ。そこで、磯やんは、一計を案じます。おなごしのお清どんは、天気がエエので、洗濯しようと、鍋に一杯糊を炊いてる。洗濯糊ですな。これをちょっと貰いまして、梅干しの種と皮を取って、中身の果肉を入れて混ぜる。これを顔一面に塗って、古い綿かなんぞを、ちぎって、所々に付けておく。エライ顔や。
その顔で、お供をすると、どんな女子でも、逃げて行くと。そら、旦さんでも逃げますわいな。これは、おもろい趣向と、磯やんを供に連れまして、南へ南。住吉街道へ出てまいりますというと、その道中の陽気なこと。と、下座から『いざや』が早間に入ってまいります。にぎやかですな。道々、お乞食さんが、お恵みをと近寄ってまいりますが、磯やんの顔を見ますると、今度は反対に、逃げて行くという始末。普通の人が見たら、なおさら逃げて行く。反り橋渡りまひょと、ご参詣を済まします。裏手へ出てまいりますと、腰掛けの茶店や、一見茶屋なども並んでございます。客引きが出ておりますが、せむしにかったいて、こらどうも、具合が悪い。あんな人と夫婦になったら、身投げするとか、首吊るとか言うてるような、仲居のいる店へ、頬ずりしたろと、これまた、わざわざ上がってまいります。
二階へ上がりましたが、嫌がって、誰も相手に出てけえへん。手を叩くと、ようようのことで、御用聞きに上がってまいります。お酒が運ばれてまいりますが、女子はんは、皆、旦さんのほうへと寄ってまいります。磯やんは、汚いので、移ったらかなんて。「わしにも注いで」「あんた、お酒飲まはりますのん?」という始末。文句言いながら、飲み出しますが、食べるもんもない。「付き出しの一つもない」ちぇなこと言いながら、顔の綿をちぎって、吸うては出す。そら、糊に梅干しでっさかいに、食べられますけどね。見てるもんは、ビックリする。顔の膏薬食べてると。ハツ・マグロの刺身が出てきましたが、脂っこいもんは、体に悪いと、よそうてもらえへん。刻み昆布か麩でもて、鯉やがな。あんまり言うもんだっさかいに、「こっちへ来い」と磯やんが、仲居はんを引っ張りますので、仲居はんのほうも、割り箸を持って、顔を削ってしもた。
さすがに、磯やんも、腹が立ちまして、下へ降りてまいります。板場へやってまいりまして、たらいを拝借と。顔を洗うというので、病気が移ったらかなわんと、犬洗うような、汚い、ほかしてもエエような、たらいを貸しまして、鏡も出します。磯やんのほうは、洗う前に、いっぺん、鏡で自分の顔を見ますると、エライ顔や。とりあえず、顔を洗いますというと、そらエエ男ですわいな。板場連中、皆、ビックリしてなはる。こしらえもんやったんですな。心付けを渡しまして、二階へ。「お連れさん、エライ遅うおましたこと。」「さいぜんから来てるわい!」「あれ、こしらえもんだしたんかいな。」「手荒いことすな。ミミズばれがでけてしもたやないか。」「まあ、エライすんまへん。見事に、引っ掛かりましたわ。もうし、こっちの旦さん。」「なんじゃい」「あんたも早う、背中のいかき、出しなはれ。」と、これがサゲになりますな。ウミも、こしらえもんやったんで、せむしも、こしらえもんかいなあということですわ。いかき・ザルです。
上演時間は、十五分から二十分前後。いくばくかのマクラを付けられますが、そんなに長いものではございません。寄席向きだったのでしょう。ただ、現在は、何か特別な会ぐらいでしか、上演できません。もちろん、テレビやラジオなんか、放送では、もってのほかの内容でございます。ただ、言葉もそうですが、何か、少し形を変えるだけで、上演出来そうな気は、いたしております。冒頭は、こしらえもんを作る件り。もちろん、せむしは、こしらえません。本物でございます。卯の日詣りの、時候の良い季節に、洗濯もんの糊を炊いてるちゅうのも、この話のポイントですな。ただ、今、お家で、洗濯糊使わはるとこ、どれだけございますやろ?浴衣や白衣もございますので、我が家は使いますが、普通のお家で。洗濯屋さん・クリーニング屋さんのものと、思われがちかも分かりません。ひょっとしたら、近ごろの子供は、洗濯糊知らんかも分かりませんな。これを顔に付けて、えげつない顔にしてたら、女子が近寄って来うへんて。誰でも、イヤですがな。腰を上げましてのお参り。乞食のほうが逃げて行くのも、ムリは無い。住吉っさんへご参詣、て、バチ当たりまへんかいな?途中で出てまいります、住吉踊り、京都では、なぜか、ゑべっさんの時に、売ってございます。“人気(にんき)”いうてね。ただ、昔は、これも、“住吉っさん”言うたはりましたわ。さて、これからがお楽しみ。とある一見茶屋へ。要するに、料理茶屋みたいで、そない、たいそな大店(おおだな)でもないような、お茶屋と申しますか、お休み所と申しますか。二階へ上がっても、嫌がって、誰も来うへん。そらそうですわ。お酒が出て来ても、女子は、旦さんのほうばっかり。付き出し代わりに、膏薬食べるちゅうのも、おもろいとこですけどね。頬ずりするちゅうのも、悪いシャレで、仲居はんのほうも、思わず、箸で対抗してしもた。そこで、下へ降りて、顔を洗いまして、正体を現す。これがまた、エエ男ですにゃね。二階へ上がってまいりまして、サゲになると。なかなか、おもろい、よく出来たサゲですな。
東京でも、あるかも分かりませんが、残念ながら、私は、聞いたことございません。勉強不足で、申し訳ございません。でも、上方以上に、もっと、やりにくいでしょうなあ。上方でも、やはり、桂米朝氏のものしか、聞いたことございません。氏の師匠、故・四代目桂米團治氏が、ちょいちょいやったはったみたいですけどな。それなりに笑いも多いのですが、なかなか演じるのは、難しい事情がたくさんございます。ぜひ、少し違う形でも結構ですので、たまには、聞かせていただきたいものですな。
<25.11.1 記>
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