暑中お見舞い申し上げます。暑い。今年も暑い。てなわけですが、『いもりの黒焼』『色事根問』と、ご紹介いたしまして、『稽古屋』は、まだでございましたのを、再認識いたしまして、今月は、『稽古屋』を、お届けいたしましょう。

 ちなみに、入りの、最初の部分は、先月の、『色事根問』の部分と、一緒でございます。女子にモテたいの主人公、甚兵衛さんの家へやってまいりまして、踊りが出来るとの後でございます。この横町を曲がりました所に、小川市松っつぁんという、稽古屋はんがある。そこで、なんでもエエ、唄でも踊りでも、習うてきたらどないやという話になります。まずは、膝突きというものが要るが、そこは、二円のところ、甚兵衛さんとこからと言うと、一円でも、負けてくれはるて。「ちょっと立て替えて」って、あっさり言うがな。しかし、これは、紙に包んで、白紙では、持って行けん。俳名を書いて行かないかん。「それやったら、うちのおやっさんのが一つ。」って、戒名やがな。稽古名ですけれども、だいたいは、名前の下に、“丸”の字でも付けると、粋に聞こえる。喜六の下に丸の字をつけて、“喜六丸”。て、淡路通いの、ポンポン船やがな。甚兵衛さんが、若い時に使うてた俳名で、“一二三”と書いて、“ひふみ”と。

 これを書いてもらいまして、早速に、横町へ出てまいります。角をまがりますというと、稽古屋さん、表が格子造りでございまして、皆が中の様子を覗いております。正面は、二間の踊り舞台となっておりまして、そこへ、十歳ぐらいの女の子が、『越後獅子』の踊りの稽古の真っ最中、ここへ、主人公がやってまいります。下座からは、長唄の『越後獅子』が入りますな。「咲かせたり」で、手を上へあげる。ここが、なかなか上がらん。「“り”で、上へあげまんの。り〜あげ〜。」って、ここは、質屋もしてんのかいなあと、主人公。表から、「利上げや。利上げんと、流れてしまうで。」って、質屋と、間違われてますがな。とりあえず、舞いが小さいさかいに、もっと、大きな、広い場所で、稽古しなはれと。それに、背が高いさかいに、もっと、腰を折ってて。「腰折って、腰折って」「バリボリバリ」「まぁ〜、表の格子折って、どなただす?」って、格子と違いますがな。腰ですがな。

 用事があると中へ入ってまいりまして、甚兵衛さんからと、紙包みを渡します。「どうぞ、ご仏前に。」って、んな、アホな。また、連名板にも、名前書いてもらいますしと、仲間うちに紹介をいたしまして、続きの稽古を、お師匠はんの横手で、見守ります。と、今度は、笑い転げて、お稽古にならん。お師匠はんの耳貸せと、聞いてみますと、今来はった方が、鉄瓶の上へ、草履乗せてるて。来る途中で、小便したら、草履にかかったんで、乾かしてると。ちょっと、ニオイしまっせ。とりあえず、今日はここまでと、次の子へ。次も踊りで、手を上へあげると言うてるのに、なかなか、あがらん。何でや知らんと思いますというと、袂から、お芋がコロコロと。訳を聞きますというと、先に、芋常で百匁を二回買うたて。向こうのおっさん、目が悪いので、二回買うたほうが、計りが良うて得やて。これでは、お稽古できひんので、お師匠さんが、預かっとく。すると、今度は、泣き出す。またもや、耳貸せと、聞きますというと、今のお方が、お芋食べたはるて。そんなこと、しなはんな。

 稽古が進みませんので、先に、一二三さんを、済ませてしまうことにいたします。何がエエかと聞きますというと、五十銭で踊り、二十銭で唄…。って、そんな切り売りしてはれへんがな。「何のお稽古がよろしいねん?」「色事が派手に出来るようなお稽古。」「それやったら、あきまへんわ。」「何でです?」「昔から、よう言いまっしゃろ。“色は指南の外”でございます。」と、これが、サゲになりますな。“色は思案の外”と、掛けてございますねね。まだまだ、ニュアンスとしては、分かってもらえる、サゲやとは思いますねやが、あきまへんやろか?

 上演時間は、二十五分ぐらいですかね。『色事根問』の部分を、もうちょっと短くも出来ますし、お稽古の部分を長くも出来ますが、そこそこのほうが、エエように思います。寄席でも、落語会でも、お囃子が入りますので、にぎやかな、楽しいネタでございます。前半は、主に、『色事根問』からの、主人公と、甚兵衛さんとの会話。おもしろい部分ですな。笑いも、ふんだんにございますし。宇治の名物・ほうたる踊り、おもろいですしね。ちなみに、「一二三」「火吹きダルマ」ちゅうのが、昔、故・五代目桂文枝氏のネタに、入ってましたな。後半は、稽古屋さんへ移ってから。唄や踊りの達者な演者の方ですと、うまいこと、お師匠はんを、演じはりますな。左右逆の振りの方なんかも、いはりまして。ただ、別に、得意でなくっても、それなりに、そのように見えましたら、話の大意に影響はございませんし、また、うまくやりすぎるがために、話がおもしろくなくなると、それはそれで、かなんわけでして。格子折ったり、芋食べたりするほうが、よっぽど、おもろいですしね。そして、サゲになると。

 東京でも、同じ趣向ですが、主人公が、唄の稽古をつけてもらいまして、これを家に帰って、大きな声を出すので、屋根の上で稽古する。唄の文句が、「煙が立つ・煙が立つ」「火事はどこや?」「海山越えて」「それだけ遠かったら、安心じゃ。」というサゲにされることが多いですか。もちろん、上方でも、このサゲで演じられている方も、結構、おられます。所有音源は、故・桂小文治氏、文枝氏、林家染丸氏、月亭八方氏、桂米團治氏、桂坊枝氏などなど、他にも、たくさんの方のものを、聞かせていただいております。小文治氏のものは、上記の唄本位ですか、ちょっと、録音状態が悪い物で、あんまり詳しくは、申し上げられないのですが、にぎやかに、やったはりました。文枝氏は、得意にして、ようやったはりましたし、私も好きでした。特に、小文枝時代のほうが多かったかも分かりませんが、主人公のアホさ加減や、お師匠はんが、いかにもちゅう感じでね。染丸氏も、お師匠さんを、ウマイこと演じたはりますよねえ。八方氏も、おもしろかった。米團治氏も、ようやったはりますよねえ。お師匠さんを、前面に押し出して。坊枝氏は、お笑い本位で、これがまた、主人公が、おもしろいんだ。

 なかなか、にぎやかなネタで、好きなものでもありますので、大切にしていただきたいですな。




<26.8.1 記>


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