え〜、まだまだ、お暑い九月でございますけれども、今月は、思い切って、泥棒さんのお話を。言うても、怖いことおまへん。どっちかいうたら、おもろいほう。って、そら落語ですからな。近ごろは、珍しい部類に入っております、『眼鏡屋盗人』で、ご機嫌を伺います。

 盗人の出てまいりますのは、どうしても、夜さり・夜ということになりますな。道で、三人ほどがボシャボシャと、なんじゃ、しゃべっております。どうも一人が、新米。これが、この町内に詳しいらしく、頭といわれる親分に、報告いたしております。この辺で金持ちは、斉藤はん。土間に鉄くずが積み上げたある。って、その金と違いまんがな。財産家ですがな。それやったら、田中はん。しかし、息子が柔道家で、若いもんが、五・六人も居てる。って、そんな家、入れまっかいな。「もっと、弱いとこないのんかい?」それやったら、伊藤はん。だいぶと歳で、一人暮らし。そやけど、生活に困って、町内で、何ぼかずつでも、出し合うて、養うてるて。そんな家、入りないな。

 それでは、どうも、昼間に目星を付けといた家が、一番、まともな様子。眼鏡屋はん。丁稚も一人ぐらいしか居てへんし、家族も少ない。エエ品もんも置いてそうやしと、新米に、ガミはらします。要するに、中の様子を覗けと。ちょうど、節穴がおましたんでね。中のほうでは、丁稚さん、感心なもんで、皆が寝静まってから、店へ出て来て、一生懸命に、手習いの稽古。表の様子がおかしいので、聞き耳を立てておりますというと、どうやら、この家に忍び込もうとしている様子。

 こら、エライこっちゃと、遠眼鏡・望遠鏡を持ってまいりまして、件の節穴へ、内側から押し込んだ。要するに、節穴を覗くと、拡大されて、大きいに見える状態に。その前で、自分は、習字の筆で、ヒゲを書きまして、横手に居た猫を掴んで、仁王立ち。外では新米が、「化けもん屋敷や!」と。ヒゲむしゃの大入道が、トラを掴んで立ってるやて。こら、様子がおかしいので、頭は、もう一人に、見張りを変わらせる。

 中では丁稚さん、どうも、人が変わった様子と、今度は、将門眼鏡を節穴へ。モノが七つに見えるという、万華鏡に近いといいますか、何といいますか、とりあえず、同時に、七つの同じモノが見えてるというもの。この前で、ヒゲを落として、真面目な顔して、手習いの稽古。外から覗くと、七人の子供が手習いの稽古。しかも、銘々に、猫が一匹ずつ付いてるて。こら、どう考えてもおかしい。

 最後は、頭の登場。いよいよ来たなと、望遠鏡を逆さまに担いで、節穴へ。反対でっさかいに、遠くに、小さく見えますわいな。下座から、カーン・カーン・カーンと。「化けもん屋敷でっしゃろ?」「手習いの稽古でっしゃろ?」「う〜ん。今、何時や?」「どっかの時計が、三時を打ちました。」「三時か。ここの家は、入れんわい。」「何でだす?」「奥へ行くのに、夜が明けるわい。」と、これがサゲになりますわ。要するに、頭には、モノが小さく見えておりますので、相当広い家に見えたわけですな。

 上演時間は、十分から、長くても十五分程度でしょうか。いろんな小噺を引っ付けても。寄席向きの、軽い噺です。大笑いは出来ないかも分かりませんが、小品で、捨てがたい味わいのある、なかなか、おもしろい話でございますね。導入部分も、ちょっと、おもしろいですが、いろんな、かやくを引っ付けて、工夫も出来ます。節穴からは、代わる代わる、三回覗かれるわけですが、丁稚さんは、大忙し。と共に、賢い子供さんですなあ。さすがは、眼鏡屋さんに奉公しているだけあって。そして、時計の合図と共に、サゲになると。なかなかシャレたお話でございます。

 東京では、『めがね泥』ですか。眼鏡の順番が、多少、違うこともありますが、それも、演者によりけりか、とりあえず、同じ趣向です。所有音源は、桂米朝氏、故・露ノ五郎兵衛氏のものがあります。大変、珍しいネタなのですが、ご両者共に、すでに、大御所になられてからのものしか、聞いたことがございませんが、それだけにまた、おかしみのある味わいを出しておられました。昔は、時間の無い時なんか、寄席で、やったはったんやろか?


<26.9.1 記>


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