
先月、流しのタイルを張り替えてもらいまして、ついでに、おくどさんの外側も、左官屋さんに塗ってもらいました。そこで、今月は思い出しました、『へっつい盗人』で、ご機嫌を伺います。おもしろいネタなんですが、近ごろは、あんまり聞きませんか。
たよんな〜い男が揃いますというと、お話の始まりで。竹やんが宿替えしたて。そらめでたい、家移りの祝いを、二人でしたらどないやと。値が安うて、場の取る、かさ高いもんがエエ。「かんなくずは、どないや?」誰が喜びまんねやな。おばあさんが喜ぶもんで、棺桶。て、煮え湯浴びせられまっせ。家族がビックリするで、爆弾。て、誰でもビックリするがな。こないだうち、向こうの嫁はんに会うたら、「今度のお家は、誠に、使い勝手がエエの。ただ、へっついさんが具合悪ぅおますの。」と言うてた。こら、へっついさん祝うてくれちゅう謎かいなあと思うので、二人で、へっついさん祝うたろやないかと。しかし、へっついさんて、そこそこエエ値しまっせ。「今日び、五十銭は、すると思うで。」って、そら、三越で売ってる、おもちゃの所帯道具ですがな。ままごとセット。
目は付けたある。この前、丼池(どぶいけ)の道具屋の表に、エエのんが置いたった。十五円は、すると思うやて。「ほなら、わいが一円で、お前が十四円。」んな、アホな。半分。それでも七円五十銭。しかし、二人とも持って無い。そこで、ちょっと借りて来ようと。道具屋のおっさんに、訳言うて。しかし、行こうとしているのは、夜中。それでは、おやっさんも寝てはる。わざわざ、起こさんでもエエと。横手に置いたある、石灯籠はんやとか、植木鉢はんに、あいさつしてて。「そら、ひょっとして、盗人ちゃうか?」「そうかなあ」て、泥棒ですがな。見つかったら、見つかったで、覚悟決めて、別荘へ行くだけの話。こないだうちまで、天満の堀川に居てはったけれども、方が悪い言うて、堺へ、引っ越さはったて。立派なレンガ造りで、塀が高い。窓には鉄格子はまったある。電車で行くと思いのほか、向こうから、車で迎えに来てくれはる。って、監獄・懲役ですがな。
しかしながら、友達の勧めというものは、案外、聞いてしまうもんで、この男、家へ帰りまして、また、暗くなりましてから、出直してまいります。表の戸を、ドンドンと。「おい、ぼちぼち行こか。丼池の道具屋へ。へっついさん盗みに。」て、この男、アホでっせ。表で、大きな声出して、盗みにやて。近所へ知れたら、エライこと。「ほな、ちょっと行てくる。今の、“盗みにが聞こえましたか”言うて。」念の入った、アホでっせ。ワクワクしながら、天秤棒と縄を持って出ます。差し荷いで、持って帰りますねやね。天秤棒の先と後を担ぎまして、何やら、重たそうなもんを持ってる声を出せと。要するに、夜中に、荷物を運んでいる風体にすると。そこで、例の道具屋の表で、『一服しょう』言うて、へっついさんを荷造りして、今度は、ホンマもんの重たいもんを持って、帰って来ると。「ヨイヨイよっとさ」「よっとさのヨイヨイ」と、これが、なかなか、エエ加減な声が出ませんがな。
ようよう慣れたところでで、「一服しょう」「ここの道具屋か?」て、アホ丸出しですがな。「一服しょう、一服しょう」と、いよいよ荷造り。もたれ掛けさしてある、竹の垣が邪魔になるので、横手へ。「カラカッチ」て、エライ音出ますがな。音ささんと、静かに。「カラカッチ。カラカッチ。カラカッチ、カッチカッチ、ドンガラガッチャ。プッ、プー。」っと、大きな音がしましたで。どうも、竹の垣と、石灯籠の頭が、括ってあったらしい。コケた拍子に、隣りの三輪車のラッパを鳴らしてしもた。それやったら、“プー”でエエはず。二回鳴ったのは、あんまり音が良かったんで、もう一回て。いよいよ、へっついさんを持ち上げて、その下に、縄を通して、荷造りしようと。一人が持ち上げますが、なかなか、縄が通せへん。なにせ、暗がりですからな。「わい、小便しとなった。」て、子供やがな。音ささんように、隅のほうで。ジョンジョロリン、ジョンジョロリン。パラパッサ、パッサ。て、竹の皮に掛かったとこ。芸が細かいな。
仕切り直して、重たい、へっついさんを浮かしている間に、縄を滑り込ませて、括る。が、なかなか、見にくうて、縄が通せん。「もうちょっとやねんけどな」「もうアカン」「いた〜」って、そら痛いわ。「あほんだら」と、どつきますと、「そら、わしはアホじゃ。アホやからこそ、夜中に、こんなことしてんねん。そやけど、お前も、あんまり、賢うないぞ。お前がアホか、わしがアホか、道具屋のおやっさん起こして、聞いてもらう。」と、わあわあ、わあわあ言うております、『へっつい盗人』お時間でございます。と、たいがい、この辺で切られます。この後は、どうにかこうにか、へっついさんを盗み出して、家へ持って帰る。表があんまり、うるさいんで、道具屋のおやっさんも、この二人の後をつけておく。明くる朝、おやっさんが代金を貰いに行って、わずかでも、内金をもらって来る。バレたほうは、「あぁ、へっついさん、いろうた祟りや。」と、これがサゲになりますな。昔から、おくどさん触ったり、なぶったりするのは、あんまりエエこっちゃないと、いわれておりますのでね。
上演時間は、二十五分前後でしょうか。全編通して、笑いの多いネタで、おもしろいもんですな。前半は、へっついさんを盗みに行く算段をする場面。聞いてるだけで、おもろいですがな。しかし、盗んだもんで、祝いするちゅうのは、あんまり、感心しませんけれども、それでも、自分とこに、置いとくもん違うしでしょうなあ。へっついさんは、要するに、かまどですな。石造りの、あんな大きな、重たいもんですからな。引っ越しに、所帯道具を、お祝いするちゅうのは、今も昔も、変わらんもんですが、これが五十銭。て、ままごとの、おもちゃですがな。へっついさんみたいな、大きなもんですから、道具屋はんの表でも、まさか、盗まれるとは思うてへんし、また、そう毎日毎日、出し入れできひん。そこで、取って来てやろうと。覚悟を決めると、バレた時は、別荘へ。これがまた、頑丈な所で、お迎え付き。金の鎖も、くれはるて。おもろそうやと、今度は、盗みに行く後半部分へ。夜中に、重たいもん運んでいる風にして、道具屋はんの前で一服して、ホンマもんを担いで帰って来ると。こら、出来心程度やおまへんで。本気でっせ。「一服しょう」「ここの道具屋か?」て、バレバレですがな。おもろいでんな。ここからは、効果音も、一つの楽しみ。カラカッチと、ジョンジョロリンですけどね。聞いてるだけで、おもろいですがな。そして、笑いが起こった所で、切られると。昔から、サゲまで演じられることは、あんまり無いみたいですね。
東京では、あまり聞きませんので、やはり、上方のものかと思われます。所有音源は、故・初代桂春團治氏、桂塩鯛氏などのものがあります。春團治氏のものは、もちろんSPレコードでの録音ですが、十八番のネタで、何を隠そう、この表現力が豊かで、おもしろすぎるぐらいに、おもしろい。おそらく、この方以前の、このネタは、こんな風なものでなかったような気もするのですが、爆笑に次ぐ爆笑であります。あのダミ声と、効果音のバランスが、非常によく合いますな。塩鯛氏のものも、爆笑で、おもしろいもんでした。見台を、へっついさんに見立てて、その真ん中から、縄を通す仕草なんか、思い出すだけでも、おもしろいもんですな。
とりあえず、へっついさんの説明から始めなあきませんし、古めかしい噺といえば、そうなんですが、おもしろいもんですので、ぜひ一度、お聞きくださりませ。
<26.10.1 記>
![]() |
![]() |
![]() |