もう十一月ですが、さすがに、半袖は、しまわはりましたな。今年は、秋が早く到来とか言いながら、まだまだ暑い日があったりと、おもしろい気候でしたが、夏冬の入れ替えも、終わったことと思います。掛軸の虫干しも、ようやく、この前、終えまして、また、防虫香を入れ直したわけなんですが、あれ、やっぱり、独特のニオイしますな。各メーカーによりまして、それも違うんですが。ということで、今月は、『源兵衛玉』で失礼をいたします。東京では、『樟脳(しょうのう)玉』。そうですねん、樟脳が出てまいります。最近、あんまり見かけませんけどね。ホンマもんの樟脳て。

 八兵衛はんと、喜ィさんの会話。なんぞ、エエ金儲けは無いかと。寝てて食われるちゅうような。たいがい、こんなこと思うてる人間に、エエことおまへんわいな。一つ、思案があると。隣り裏の、源兵衛の話。あれは元、源吉というて、最上屋という質屋に奉公してた。なかなかの男前で、向こうのお嬢さんのお気に入り。芝居や習い事のお供は、皆、源吉。これが元服して、源兵衛と名乗るようになったんやが、エエ仲になりそう。そうなると、朋輩(ほうばい)の誰ぞが、旦那に、ご注進というやつ。源兵衛は、すぐに、お払い箱になってしもた。親類のおっさんに話をすると、これが、質屋に奉公してたんで、古手には詳しいやろうと、おっさんが資本金出して、隣り裏で、古着の商人・ブローカー始めよった。

 相手のお嬢さんのほうは、納まりがつかん。恋しい人が、辞めさせられて、どっか行ってしもた。ここで、出入りの洗濯屋ちゅうのが、お嬢さんに事情を密告。千円札三枚渡して、『これで飴玉でも』って、なんぼほど、飴食べられますねん。虫歯なりまっせ。とりあえず、お嬢さんは、居ても立ってもおられず、家人の寝静まるのを待って、母親のへそくりの金を懐へ入れて、源兵衛の家へ。ビックリした源兵衛ですが、そこは物堅い男ですから、お嬢さんを連れて、おっさんの家へ。おっさんが一晩中、言い聞かせて、夜の明けるのを待って、おっさんと一緒に、お嬢さんは、最上屋へ。

 家の中では、大騒動。お嬢さんが行方不明ですからな。八方手を尽くして、探しにやってるところへ、おっさんが、お嬢さんを連れて帰って来る。『この度は、無傷でお返しいたしますが、これから先は、責任を持ちまへん。新聞の三面記事は、御免蒙ります。』と、おっさんが、下駄を預けて帰る。さあ、こうなりますと、お嬢さんが患い付く。恋患いですな。明日をも知れん命ともなりまして、猪飼野へ戻ってる、おんばはんを呼び出して、聞いてみますると、『源兵衛と一緒にならなんだら、死んでしまう。』と。

 そこで、おっさんを通して話をしますと、『養子には、あげ申しませんが、嫁になら、貰いますと。』命には変えられませんので、裏店のこと、嫁入り道具も、それなりに少ない目ですが、すぐに、お嫁入り。しかし、好事魔多しというのか、わずか十日の患いで、コロッと死んでもた。今日が初七日で、毎日、仏壇の前で、念仏三昧(ざんまい)の源兵衛に、二人で、幽霊に出ようやないかと。樟脳買うてきて、あの樟脳玉の真ん中に、穴開けて、針金通して、先に紐を付ける。これに火点けて、火の玉代わりにして、天窓から降ろす。お嬢さんの声色を使うて、『源兵衛さん、迷うたわいな。』『何に迷うた?』『私は、衣類に迷いました。私の衣類、全部、お寺へ納めとくれ。それも、あんたの手では、いかん。隣り裏の、八兵衛はん頼んで、あげとくれ。』明くる日の朝になると、源兵衛が、衣装を持って来ると。これを叩き売るなりしたら、そら、十万円は堅いやろうと。折半しても、五万は、儲かる。

 幽霊に太鼓も付きもんと、これも、用意することにいたしまして、とりあえず、分かれてしまう。夜になるのを待ち焦がれまして、喜ィさんは、八兵衛はんの家へ。表で、大きな声出して、幽霊出しにて。ここら、いつものことですけどな。出発すると、思いのほか、ちょっと時刻が早い。丑三つという頃おいまで、仮眠。いうても、眠とうないて。さっきの五万円は、くずしで、ちょいちょいもらえんのか、それとも、いっぺんにもらえんのかと、いらんことをしゃべりながらも、ついウトウト。世間が静まり返ります、夜半過ぎ。喜ィさんを起こしますが、寝てしもたもん、今度は、なかなか起きん。いびきはかくは、うなされて、夢見るわ。この悪事がばれて、警察へ引っ張られる夢やて。縁起でもない。

 なかなか動かんので、せかしまして、太鼓を持って、表へ。って、下駄と草履と、片っぽずつ履いてますがな。片方脱いだら、歩きやすい。いうて、草履脱いでら、余計、歩きにくいですがな。昼間に、一応の用意と、見当が付けてあるので、ゴミ箱を足場に、垂木に手を掛けまして、ポイッと、八兵衛はんは、屋根の上へ。ヒモを取り出しまして、先に、太鼓を括って上げえと。しかし、ヒモが足らん。って、胴括りして、丸う括っても、括れまへんがな。カンへ通さんと。喜ィさんは、ゴミ箱へ上がりまして、そこから、手を取って、八兵衛はんに上げてもらう。「エライことした。忘れもんや。ちょっと降ろして。」「何忘れたんや?」「小便すんの忘れたんや。」て、これも、よくありますが、とゆを伝うて、静かに。ジョンジョロリン、ジョンジョロリン。長い小便や。

 源兵衛はんの家の天窓から、中を覗きますというと、やっぱり、念仏唱えて拝んでる。寝られまへんねやろなあ。そこで、太鼓を、ドドツク、ドンドン。って、祭り違いまっせ。幽霊の太鼓ですがな。ドロドロドロっと。「なまんだぶ、なまんだぶ。何の火やろなあ?」「源兵衛さん、迷うたわいな。」「ありゃ女房、何に迷うて出て来るのじゃ?」「私は、衣類に迷いました。私の衣類、全部お寺へ、あげておくれ。それも、あんたの手ではいかん、隣りの八兵衛はんに頼んで、あげておくれ。」と、上々の首尾で、ポイと家へ帰ってしもた。

 明くる朝、大きな風呂敷包みを背たらいまして、源兵衛はんが、八兵衛はんの家へやって来る。これこれこういう訳でと、八兵衛はんに、お寺へ、納めて欲しいと。そこは、供養になるこっちゃ、待ってましたとばかりに、手伝うことにいたします。早速、これから行きますというが、源兵衛さんが言うのには、まだ、雛道具があって、これにも、心を残してたら、いかんので、一緒に、お寺へ納めて欲しいと。そら、行きがけの駄賃でっさかいにと、二人は連れ立って、源兵衛さんの家へ。雛道具は、まだ、長持ちの中に、入ったままですのでね。この長持ちの蓋を開けますというと、源兵衛はんが、「あ〜、ふふふふ。」「どないしなはってん?」「この中に、女房が入ってます。」「何でです?」「人魂のニオイがいたしました。」と、これがサゲになりますな。人魂に、樟脳を使いましたのでね。そこで、『樟脳玉』なんですな。

 上演時間は、二十五分程度ですか。めったに聞きません。珍しい話です。夏にも、あんまり出ませんけどね。やはり、趣向が古いのと、樟脳が分かりづらいのかも知れません。今は、防虫剤ですか。あれで、幽霊火は、焚けませんもんね。前半は、この幽霊を出して、金儲けをしようという算段の話。ちょいちょい、喜ィさんの合いの手に、笑い所がありますな。しかし、昔の大家のお嬢さんの嫁入りて、大層なもんやったんでしょうなあ。しかも、裏長屋で、荷物減らしたとはいえね。なかなかの人間として描かれておりますのが、この、源兵衛さんの、おっさん。こういう人、親類に一人ぐらいは、今でも、いはりますわ。ここで、お嬢さんの墓荒しかいなあと思いのほか、そうではなくて、衣類をお寺に納めるふりをして、金に変えて山分けと。『片袖』や『不動坊』などと、似た感じでもありますが、最終が変わってまいります。後半は、幽霊を出すところ。動きがあって、おもろいですけどな。この場合、実際に、幽霊は、源兵衛さんの前には、出てないような感じですな。声色だけで。違うんでしょうか?そやから、人魂と太鼓が、余計に、効果あるようで。そして、明くる朝に、衣類と、まだ、家に置いてある、雛道具を納めることになりまして、これを取りに行って、サゲになると。樟脳のニオイて、案外、キツイですもんな。

 冒頭にも述べましたが、東京では、『樟脳玉』ですか。ちょっと趣向が違いますね。金持ちのお嬢さんが、嫁入りして、すぐに死んだ所とか、幽霊が一回で済むあたりなんかも。故・六代目三遊亭圓生氏は、やったはりました。所有音源は、故・三代目林家染丸氏のものがございます。おもしろい中にも、八兵衛はんのドスの効いた声なんかが、響いておりまして、なかなか、分かりやすいものでございました。想像するだけでも、笑えてきますしね。土台が、あんまりエエ話題でも、ございませんねやが、たまには、聞かせていただきたいものですな。


<26.11.1 記>


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