押し詰まりました。もう十二月ですわ。今年もお世話になりました。京都では、南座で顔見世が行なわれます。有名な歌舞伎興行でございまして、東西合同で、これがまた、ええ加減、お値段いたしますにゃわ。近所ですから、行きたいとは思いますれど、一人で行くわけにもいかず、誰ぞを誘うと、誰ぞの分も、払うたらないかんしね。ま、まねきの看板見ながら、前を通るだけというのが、通例でございますけれども、今月は、お芝居のお話で、『質屋芝居』で御免蒙ります。

 ここにございました質屋さん、ご主人はもとより、番頭さん丁稚さんに至るまで、家内じゅうが芝居好きというお家。朝も早うから、お客さんが飛び込んでまいります。質に入れに来ると思いのほか、出しに、請け出しに来はった、お客さん。葬礼の送りに立つので、葬式の裃(かみしも)を出して欲しいと。急ぎの様子で、札を渡しますが、これが、三番蔵に入ったある。定吉っとんが、松本はんの裃を出しに、三番蔵へ。重たい戸を開けますというと、隣りの稽古屋から、三味線の音が聞こえる。

 この音を頼りに、出しました裃で、芝居を始める。忠臣蔵の三段目・“喧嘩場”というやつで、師直(もろのう)と判官(はんがん)さんの二役。憎たらしい場面ですが、その後には、刃傷沙汰(にんじょうざた)で、大事になるところですな。「遅い遅い」「遅なわりしは、拙者重々の誤り。」と、一人で芝居始めてしもた。有名な「鮒だ鮒だ、鮒侍だ!」ちゅうやつですわ。そして、判官さんが師直に斬りかかる。店のほうでは、裃が遅いと、松本はんが待ってる。ところへ、今度は、高橋さんが入って来て、布団を出して欲しいと。実は、質に置いたが、貸し布団で、小遣い欲しさに預けたが、布団屋が返せと催促するので、札を持って来たと。これもおんなじ、三番蔵。さいぜんの裃を見てくるついでに、布団を出して来て欲しいと、今度は、番頭さんに行かせます。

 中では、定吉が、目むいて芝居してる。怒りますけれども、そこは、番頭さんも芝居好き。今度は、その後で、三段目でも、裏門・塀外の場面をやりまひょと。ちょうど幸い、請け出す布団を塀の書き割り・セットに見立てて、今度は、お軽・勘平と伴内のやりとり。近ごろは、こちらのほうは、歌舞伎では、あんまり上演されませんけど、おもろい場面です。「喧嘩だ喧嘩だ」と、にぎやかに始めてしまいます。下座からも、声の助けが入りまして、お軽の出。顔見たら、お猿ですけれども、ここを飛ばしまして、今度は、追手の伴内。勘平の名ゼリフがあって、立ち回り。さて、大騒動。

 またまた、店では、エライこっちゃ。裃に布団が出て来うへん。最後は、主人自ら、三番蔵へ。中では、二人が大立ち回りの真っ最中。自分も中へ入りたいが、入る隙が無いのと、危ないのとで、今度は、木戸番に回ります。「さあ、いらっしゃい。札買うて入ろ。」と、蔵の戸前で、座り込んでしもた。店の間では、お客二人が取り残されて、何の音沙汰も無い。不思議に思いまして、二人が、いよいよ中へ乗り込んで来る。と、蔵の中では、定吉っとんと、番頭はんが、目むいて、芝居してる。しかも、大立ち回り。中へ入ったろうと、踏み出しますが、そこは、木戸番・ご主人に止められます。「中へ入んねやったら、札は?」「札は表で、渡してます。」と、これがサゲになりますな。芝居の木戸銭、一枚二枚で、札で、勘定しておりましたのと、質札の札を掛けたものですな。

 上演時間は、二十五分ほどでしょうか。とりあえず、鳴り物がふんだんに入ります、にぎやかなお話です。落語会、特別な会なんかには、ちょいちょい出てますね。おもしろいのも、おもしろいんですが、華やかですな。もちろん、演者は一人のままなんですが。冒頭は、裃を出して欲しいというところから。最初は、丁稚の定吉っとんが、三番蔵へ入りまして、芝居を始める。三段目ですわ。重要な場面。ここは、主筋に当たりますので、現在でも、よく上演されております。師直が、憎たらしいでっしゃろ。そして、今度は、布団を出すとのことで、番頭さんが来て、裏門へ。文楽では、省かずに、上演されますけどね。下座から、塀内からの応答が、本当に入るのが、また、おもしろい所で、芝居好きには、堪りませんでしょうなあ。それから、大立ち回り。最後に、ご主人が現れて、木戸番に。そして、請け出しに来た二人が見物で、サゲになると。芝居を見ている風に見えましたら、お慰みというところですか。笑いを忘れては、いけませんけどね。

 東京では、やはり、あまり聞きません。上方のものでしょう。所有音源は、故・桂小文治氏、月亭八方氏などのもの、また他には、故・六代目笑福亭松鶴氏のものなど、聞いたことがございます。小文治氏のものは、やはり、芝居本位で、華やかにやったはる雰囲気がございますね。案外、色男役が、うまかったんでしょうなあ。判官さんに、勘平の声色などに、特徴がございます。八方氏は、芝居の中にも、お笑いも多く、楽しませていただきました。松鶴氏は、大きな声で、楽しんで、やったはったんでしょうなあ。おもしろいものでございました。ちょいちょい、聞きますので、まだ、滅びはしませんが、札の説明も、克明に、せんならん時代になることと思います。それより、質屋はん自体てか?

 とりあえず、こんなこと言いながら、今年も暮れてまいります。どうぞ、良いお年を、お迎えくださりませ。


<26.12.1 記>


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