新年、あけまして、おめでとうございます。どうぞ本年も、上方落語のネタを、よろしくお願い申し上げます。さて、今年は、未年でございまして、といえども、これちゅうて、思い出ございませんねやけれども、昔、初席で、ちょいちょい桂雀三郎氏が、やったはりましたのを思い出しまして、『いらち俥』をお届けいたしましょう。

 急いでおります折に、車が来ない、タクシーがつかまらないというのは、今も昔も、変わらんもんで。人力俥のお話でございます。道端で、居眠ってる俥屋を見つけます。「梅田のステンションまで」「この道真っ直ぐ行って…」って、道聞いてんのと、違いますがな。梅田まで、やってもらいたいちゅう、お客さんですがな。「なんぼで行きまひょ?」て、これも、反対ですがな。これこれでて、言うとくもんですがな。ま、とりあえず、十銭で。乗ろうとしますと、気ィ付けてて。底抜ける。んな、アホな。腰浮かして。「かじ棒上げまっせ」が、上がらんがな。お客さんの重心を後ろへ。って、今度は、上げすぎ。大丈夫かいな?

 ようようのことで、走り出しますが、どう考えても、遅過ぎる。歩いてたほうが早い。急いてるさかいに、俥乗ってますのにね。仲間の俥屋はんにも、抜かれて行く。って、抜き返さないかんがな。だいたい、この俥屋はん、この前まで、入院してたて。病み上がりかいな。とりあえず、急いでるので、他の俥に乗り換えようと、降りますわ。五銭でエエかいなあと思えど、意地でも梅田まで行くというので、十銭払うて、堪忍してもらいます。乗ったとこ、まだ、見えたあるがな。いつも、向こうの、柳の下に出てまっさかいに、ご贔屓に。って、幽霊やがな。

 ホンマに急いでおりますので、今度は、早そうな俥屋を。いた、いた。威勢のエエ、若いもん。「俥屋、声は達者なが、足は、達者なか?」「東京で鍛えて、足には、筋金が入ってま。韋駄天のトラ言いまんねん。え〜い、え〜い。」っと、走り出します。まだ乗ってへんがな。とりあえず、町内一周してきたて。「北へ行てんか」「まかしときなはれ。え〜い、え〜い。」っと、こら、早い。この前なんか、急行列車と競争して、高槻で追い抜いたて。それはそうと、振動で、俥乗ってられへん。この辺は、普請中で、道が凸凹してる。十字路では、向こうの辻から、横手から、市電が来てる。これは、余計に危ない。こないなったら、市電が先か、俥が先か、ちょうど出会うか。って、出会うたら、いかんがな。ああ、無事に行き過ぎた。聞いてみますと、この前は、後ろだけいかれたて。後ろだけて。

 「ここどこや?」「さあ?」って、箕面ですがな。北・北いうて、梅田通り越して、箕面まで来てしもた。北いうても、梅田まで行きたかったんやと言うと、今度は、戻りますが、また、あの電車道。横手から市電が来てる。市電が来てる。今度は…。という、このあたりで、切られるか、「大将、干支は?」「羊」「ほな、ここは一番、当たり年に…」てな具合で、正月らしく、サゲられたり、ま、いろいろですな。

 上演時間は、十五分から二十分前後。マクラを引っ付けても、長いものではございません。寄席向きですな。しかも、見る落語です。聞くだけでは、なかなか臨場感が出ませんわ。俥に乗っている場面、曳く場面が交互で、おもしろいんですがね。先の俥は、ゆっくりした、お公家さんみたいな俥屋はん。かじ棒も、上げられへん。しかも、追い抜かれて行く。聞いてみますと、病み上がり。って、やめさしてもらうわ!おもろいとこですけど。今度見つけたのは、両極端で、早過ぎる。凸凹道なんか、命懸け。と思いきや、もっと、命懸けの、市電と鉢合わせ。怖いでっせ。止まりゃぁ、エエのに、止まりますかいな。命からがら、着いたのが、箕面。って、バカバカし過ぎますな。今度は、戻りますが、その途中で、またもや市電と…。動きがあって、おもろいですな。

 東京では、『反対俥』。駅へ戻ると、終電が出たあとで、始発には間に合うというサゲですな。東京では、よく演じられております。元来は、上方ネタであったものらしいんですが、雀三郎氏が逆輸入という形になったのでしょうか?詳しくは、存じ上げません。勉強不足で、申し訳ございません。しかし、故・初代桂春團治氏のレコードに、あったようにも思いますが。所有音源は、その雀三郎氏のものなど、いくつかございます。氏は、テンポ良く、やったはりましたな。よくウケておりました。見てるほうも、酔うぐらいに、ホンマに、早い俥乗ったら、あんななんねやろうと思いながらね。今では、上方でも、ちょいちょい、聞かせていただくようになりましたので、今年は、大当たりの年に。市電に当てられたら、困るけど…。


<27.1.1 記>


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