お寒いさなかでございまして、今月は、『冬の遊び』をお届けいたしましょう。ごく、お珍しい話でございますが、これも、冬の話なのか、夏の話なのか。いうても、やっぱり、夏に聞くもんどっしゃろな。

 大阪・新町では、今年も、大夫道中が執り行なわれることとなりました。というのが、夏の話。たいがいは、春に行なわれるもんですけどね。この道中というのが、一風、変わっておりまして、太夫さんが扮装・仮装をいたしまして、行列を組んで、練り歩くという。お練りですな。京都の祇園でも、祇園祭の暑い時期に、昔、仮装の練り物が、行なわれておったようですな。当日、大阪・堂島の米相場師、いわゆるところの“ジキ”というやつですが、これが、四・五人も揃うて、新町へ。道中の日でございますので、いつもにも増して、にぎやかなこと、この上も無い。太鼓持ちの一八に会いますと、後で来いと言いながら、大店・吉田屋へ。ここも、道中を見物しようというので、混んではおりますが、人ごみを避けて、奥の座敷へ。

 暑い時分の話でっさかいに、庭を通して、涼しい風に吹かれながら、一杯飲んでるうちに、いつものご連中さんが呼ばれて、集まって来る。「もう、そない呼ばいでもエエ。大夫呼んでんか。栴檀(せんだん)大夫。」って、呼べませんがな。今日は道中で、中断できひん。しかも、知盛(とももり)の扮装してるて。「おい、お前、聞いてるか?」「知らんで」と、仲間のジキに聞きますが、道中なんて、聞いてないと。どうも、おかしな雲行きですな。知っていながら、わざわざ来たんでしょうな。しかし、道中は、奉行所のほうから、日時や道筋まで決まっていて、お役人も来てはるんで、勝手に変更できひん。「いのか。煙草入れ取ってんか。」こら、しくじったというので、この仲居さん、帰らさんために、煙草入れを持ったまま、姉さん格の、お富さんに相談にまいります。

 今度は、ジキの相手は、お富さん。間に入って、丸う収めようとしますが、栴檀さんを呼べの一点張り。「金は、どっから出てんのや?」て、この方々、道中の衣装や拵え(こしらえ)に、随分と、資金出したはりますねやね。要するに、その割りに、挨拶に、行ってはれへんかったんで、それに腹立てて、こんな無理な所業を、仕出かしはりましたんやがな。「とりあえず、お座敷へ。栴檀さん、連れて来ます。」こうなりますと、肝が据わりましたか、貰い受けに走ります。

 お富さん、店を出ますと、ごった返す中、道中で動いております、行列の中に、割って入ります。人だかりがしておりますので、掻き分けて、「新町の一大事!」と。チョンチョンと柝(き)が入りまして、行列が止まる。役員さんへ上訴いたしますと、どうも、原因が分かったらしく、挨拶に行ってないと。挨拶に回ってる最中、暑いさかい、飛ばしてしもたて。こらしゃあないと、とりあえず、有無も言わさずに、お富さんが太夫の手を引いて、元の座敷へ。

 こら、エライと、ジキの連中は、関心をいたしますが、肝心の栴檀さんは、知盛の衣装。この暑いさなか、重ね着で、何枚も着てる。かわいそうですので、大夫への心中立てと、皆で、冬の着物を着て、着込んで飲もうということになりますわ。お客は、丹前を着て、太鼓持ちや、芸妓連中は、冬の仕度。一名、“冬の遊び”でございます。本当は、暑い暑いんでっせ。ここへ、何にも知らん、冒頭に出会いました、太鼓持ちの一八が、遅ればせながら座敷へ参上。暑い暑いと、扇子で煽ぎながら、挨拶…。「何が暑いや。お前みたいな、向こう先の見えん芸人は、贔屓(ひいき)にせん。いね。」と怒られます。

 一旦、下がりまして、帳場はんに工夫を聞いてみますと、冬の遊びをしていると。そこで、襦袢(じゅばん)三枚に袷(あわせ)や綿入れを借り受けまして、着るだけ着たら、もう、コロンコロン。向こうへ行くと、簾戸は、いかんので、唐紙にと言えと。そこで、こっちで用意しといた、唐紙をはめる。煙草盆ではいかん、火鉢にせえと。これも、火鉢持って行くと。そこで、熱い鍋食べて、茶碗蒸し用意せえと。裏で、用意しとくさかいにと、裏方では、相談が決まりまして、元の座敷へ戻りますというと、一挙に、冬景色へと変えてしまいます。こうなりますと、ご機嫌が戻ったとみえまして、「何か、冬らしいもんでも踊り。」と、『御所のお庭』を踊ります。って、コロンコロンで、手出まへんねや。「寒さで、手がかじかんで、動けんと見える。火鉢持って行って、懐へカイロ入れたれ。」て、無茶ですがな。さすがに、辛抱堪らんようになったとみえまして、着物を脱ぎ捨てまして、庭へ走って飛んで出る。頭からザァーザァーと、水をかぶっておりますので、「おい、一八、何じゃ、そのざまは。」「へい、寒行のマネをしております。」と、これがサゲになりますな。本来は、「あまりの寒さに、気を失いよった。懐へ祝儀入れたれ。ぬくうなったら、気が付くやろう。」というのが、どうやらサゲみたいですな。といえども、昔から、いくつか、サゲがあったみたいですけどね。

 上演時間は、二十五分ぐらいですか。珍しい噺ですので、滅多に聞くことがございません。私も、桂米朝氏で聞いたのみでございます。どうやら、滅んでいたものを、復活させはったみたいですな。以降も、あまり聞きませんので、やったはる方は、少ないと思います。ちょっとスケールが大きくて、なかなか、掴みきれない感じがいたします。というのも、実際に、道中がどんなものか、ジキの財力・権力の大きさが、なかなか、今では、分かりづらいからかも知れませんね。ただ、雰囲気だけは、我々、庶民でも、何とか想像がつきますが…。前半は、新町の吉田屋で、ジキの旦那がゴテるところ。吉田屋さんといやあ、九軒の一つでもありまして、大店でございますな。夏のことですので、なるべく涼しい座敷に通されると、ここで、細かい情景描写も、にくい演出ですな。後半に、エライ目にあいまっさかいに。そこで、道中てなもん、知らんという態で、栴檀大夫のご指名。要するに、道中をするに当たって、堂島へ挨拶行かなんだんが、原因やったみたいですな。そこで、仲居さんでも、仲居頭とでもいうべき、お富さんの登場。こういう所の、仲居さんと申しますのは、料理屋の仲居さんとも、またちょっと違いまして、気遣いの難しい商売でございます。女将さんでも、主人でもなく、仲居さんがこの一件を、丸く収めるというのが、この話の、一番のポイントですな。そこで、道中を止めて、太夫さんを連れて来る。後半は、暑いさなかに、大層な着物を着ております、太夫さんを見習えと、みんなで、冬のマネ事。遊びも、ここまで来ますと、ヒネてまいりまして、周りのほうが、大変ですな。そして、一八が、暑い暑いと言って、しくじったのを、また、機嫌を直すように仕向ける。しかし、クーラーも扇風機も、何にも無い時代に、暑いことやと思います。コロンコロンに着さされて、踊りも踊るて。こんな遊びを、不自然さも無しに演じるのですから、やはり、ちょっとやそっとでは出来ません、難しい話やと思います。

 東京でも、あるんでしょうか?よく知りませんねやが、とりあえず、米朝氏の復活ネタと言っても良いでしょう。でも、そんなに、得意にしては、やってはれへんかったと思います。数回程度かも分かりません。笑いというよりも、どうも、もっと大きな、大仰な、おもしろさがあったように思います。スケールが大きなだけに、なかなか、難しいですからな。おもしろさを伝えるのも、並大抵ではございませんね。


<27.2.1 記>


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