花が咲きます、四月です。春らしいお話を…。なかなか思い浮かびません。もうだいぶと、出ておりますのでね。そこで、今月は、『象の足跡』で失礼をいたします。花も四月も、何の関係もございません。お珍しい話でございます。

 これは、ヨーロッパ、しかも、オーストリアはウィーンでの出来事。写真屋のおやっさんが、町外れで、雪の降った、雪景色を写真に撮ろうと、三脚を立てまして、カメラを構えております。どの構図が良いやろか、あの構図が良いやろかと、いろいろと、角度を変えながら、レンズを覗いております。と、その前を、ウロウロ、ウロウロ、屈み込んだりして、地面を見ております、初老のおじさんがおります。かなんなあ、邪魔やとは思えども、なんじゃ、見たことのある顔。究理学の有名な先生やったんですな。声を掛けてみますと、象の足跡があるので、物差しで計っていると。象ですて。象。象て、暑い国に居るんと違います?

 そう、それが不思議やさかいに、じっくりと調べていると。こんな雪の降る、オーストリアの冬に、出没するわけが無い。そこが、調べどころやて。「どんな象です?」と、写真屋のおやっさんも、物好きに尋ねてみますと、「メスじゃ」と。おまけに、妊娠してるて。その子はオスやて。それから、もうひとつ、その象を追うてたんは、ご婦人やと。写真屋のおやっさんも、何でそんなことが分かるのかと、とりあえず、二人で、足跡をつけて行く。

 突き当りには、一軒の家。ちょうど五十ぐらいのおじさんが、火を焚いて、体を温めている。中へ入って、尋ねてみますと、「どこで聞いて来られた?確かに、うちには、象が居る。」と。「オスですか?メスですか?」「メスじゃ。妊娠しておる。」って、ピッタリ当たりましたがな。子供は、オスかメスかまでは、分かりませんけどね。それと、象を追うて来たのは、この人の娘やと。「もうひとつ尋ねるが、その娘さん、途中で、小便せなんだか?」て、また、エライこと聞かはった。娘さん、恥ずかしがって、よう、表へ出て来れまへんがな。要するに、してしもたんですな。

 しかし、こんなことが、なぜに分かったか?そこは、物事を突き詰める究理学というもの。象の足跡を計ったら、左の足跡の深さが三寸、右が一寸五分。ということは、何かの重みで、左足に負荷が掛かっている。よく考えてみると、おなかの中に、子があるのではないかと。昔から、男の子は左腹・女の子は右腹というので、こらどうも、男の子を宿していると。もうひとつ、象を追うてたんは、女やちゅうのは?最初は、確信を持てなんだが、小便をしたんが当たってたんで、分かったと。しかし、小便は、男でもする。なぜに?「人間の足跡の後ろ側に、小便の跡があったんや。」と、これがサゲになりますな。詳しくは、申しますまい。

 上演時間は、ほん十分ほどの話です。寄席向きですな。軽い噺です。ちょっと、解説も、しづらいぐらいのもんなんですけどね。不思議な落語でございます。笑いというて、特にはございませんが、独自のおかし味がございますな。ご婦人でも、一緒でしょうか?『有馬小便』でも、そうなんですけれども。やはり、サゲを生かすために、そこまでの究理学を、真面目くさって述べるのは、ポイントかも分かりません。

 東京で、あるんでしょうか?よく知りませんねやが、私も、故・初代森乃福郎氏のものしか、聞いたことがございません。実に、真剣に、そして、バカバカしく、演じられておりました。究理学の先生というのが、いかにも学者っぽく、そして、案外、柔らかいと。なかなか、これ以上は、述べられませんな…。


<27.4.1 記>


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