取り立てて、意味もございませんねやが、先月、『本能寺』を見てもらいました。そこで、今月は、この手の芝居噺で、もう一つ、『加賀見山』をお届けいたしましょう。これも、先月同様に、お話の中に、筋立ての中に、芝居が入り込んでくるというものではございません。お芝居一幕を見るという、正真正銘の、上方の芝居噺でございます。先月のほうは、原点の芝居が、元々のものが、いまいちハッキリといたしておりませんねやが、今月のものは、ハッキリいたしておりますし、現代にも残っております。『加賀見山旧錦絵(こきょうのにしきえ)』でございます。

 こちらのほうは、加賀騒動・お家騒動を題材としたもので、先月のように、登場人物に、お聞きなじみがございませんので、ちょっとだけ、ご説明を。局(つぼね)の岩藤が、中老の尾上(おのえ)を、いびるというお話ですな。岩藤には、悪い家老の軍次兵衛と、弟の若侍・主税(ちから)が結託。尾上には、腰元の左枝(さえだ)と、若侍の求女(もとめ)が連れ立ちます。早速、幕を開けることといたしましょう。と、先月もおなじみ、演者が、手拭いを幕に見立てて、しゃくってまいります。

 花見の場でございますが、正面には、紅白の幕が掛かっております。主税が一通の書状を持って、ウロウロしてる。軍次兵衛から、医師の天庵に渡すように言われたが、なかなか見つからへん。そこへ、今度は、求女を捜して、求女を求めて、左枝が出て来る。主税は、左枝を何とか、モノにしようといたしておりますので、これ幸いと声を掛ける。姫様の御用とか何とか言い逃れまして、振り切ろうといたしますが、ここで押し問答。左枝がトンと突いた拍子に、求女がヨロヨロヨロ。ここで、さいぜんの、天庵に渡す手紙を落とす。誰が見ても、落としたと見えるように落とす。お客が分かるように落としておいて、本人が気付かん。気付かんままに、左枝を追いかけて、引っ込んでしまう。

 この後へ出てまいりましたのが、中老の尾上。何が落ちてんのかいなあと、拾い上げてみますと、手紙。名宛を見てから、“ははぁ”という思い入れがあって、これを自分の袂の中へ。これも引っ込みまして、今度は、求女が左枝を探して、舞台へ出て来る。先ほどと反対。そして、ようやく左枝が出て来て、ここで二人が落ち合う。引っ付いたところで、さいぜんの主税が、「不義者見つけた!」と大騒ぎ。そこは違いますと言いながらも、求女と左枝が逃げてしまう。追う主税。

 これはこれで、舞台は、紅白の幕が下りて、社殿の場。正面には、お駕籠がデーンと据えてございまして、岩藤に尾上、それぞれに腰元を従えて、居並んでいるという、壮観な場面ですな。ここで、『本能寺』でも出てまいりました、渡りゼリフ・割りゼリフ。腰元連中が、千鳥に、交互にセリフを言うていくというもの。お乗り物の戸が開きますというと、お姫様の出。「皆も大儀」と。岩藤が、舞台端で、「風吹かば 花の梢を よけて吹け」っと、これがキッカケ、花道から、「不義者見つけた。両名歩め。」と主税が、縄付きの求女と左枝を連れて出て来る。岩藤は、姫様の御前を無礼であろうと言いながらも、不義は御家の御法度と決まっておりますので、両刀を取って、追い払わせようといたします。

 そこで、「しばらくしばらく」と、尾上が助け舟。お幕の内で、お茶のお稽古をしていたのであろう、打ち合わせをしていたのであろうということで、事を収めようといたします。しかし、主税は、そんなことでは、納得がいかん。「不義でござる。不義でござる。」「何ぞ証拠がのうては、かなわぬはず。主税様、証拠見ましょう。」と、ここで終わりかいなあと思いのほか、後ろの幕から、「それなる証拠は、身共でござる。」と出てまいりますのは、家老の軍次兵衛。証拠の手紙を持ってますにゃね。“求女様まいる左枝より”と。「あいやしばらく」と、またしても、尾上。不義と決まったからには、皆への見せしめ、ここで、中身の文を読んではいかがかと。それは賛成ということで、軍次兵衛から手紙を貰い受けます。そこで、お客が分かるように、皆が分かるように、さいぜん、舞台に落ちておりました手紙と、袂の下で、すり替える。皆が分かっておりますのに、舞台上の方には分からへんのですなあ。

 「非礼を以って、申し入れ候。先般、申し合わせし通り、医師天庵を味方に引き入れ、南殿の間に忍び入り込ませ…」「待て!それは、文が違うた。」って、エライこっちゃ。悪事露見ですがな。「何がさて、これなる文、名宛が肝心。」「名宛を読んではならぬ。」「名宛を読まねば、この両名が、不義であるか不義でないか、判じがたし。」そらそうですわ。っと、ここで、切羽詰って、形成不利と見た岩藤が、「もはやお時刻」と、姫様のお立ちを促す。腰元どもを引き連れまして、花道へ引っ込む。求女と左枝を連れまして、尾上も席を立つ。花道の七三で、求女と早枝が平伏をいたしまして、その前に、半開きの日傘の蔭から、さっきの、すり替えた手紙、恋文のほうの手紙を落としてやる。両名が、改めて、おじぎをいたしまして、尾上の引っ込み。大向うから声が掛かりまして、両名もこれに従って、花道へ入り込んでしまう。

 と、ここで、さいぜんから探しておりました、医師の天庵が舞台へ出てまいります。お家の宝の観音さんを、まんまと盗み出したと、出してまいりまして、引き換えに褒美を…。手を出したところで、岩藤が、軍次兵衛の刀を抜き取り、これを前へ出す。腰を抜かしたところで、尾上の復讐は?こら、一思案せねばなるまいと、軍次兵衛に刀を返し、岩藤も花道へ引っ込んで、これで幕となります。本日は、ここまで。サゲも、付けようと思えば、付けられるみたいですけどね。取り立てては、無いのでしょうか?

 上演時間は、三十分前後でしょうか。先月同様の芝居噺ですが、これは、完全に女の方、女形が主役の舞台ですし、噺です。よって、先月に比べますというと、ちょっと、テンポは遅い目ですかな。ですから、まずまず、時間を掛けて、分かりやすいようにとの事かも分かりません。ただ、題材が、先月と違いまして、ちょっと、お耳馴染みが薄いですわな。スターが出てくるという感覚が無いのかも分かりません。それにも増して、立ち回りもございませんしね。舞台自体は、華やかなんですが、何となく、噺自体は、華やかさが少ないように思えてしまうんですかね。そこを、お客に、飽きさせないように演じるんですから、難しいですわな。

 東京では、これもございますまい。ただ、故・桂小文治氏は、やったはりました。所有音源は、この小文治氏と、露の五郎氏のものがございます。小文治氏のものは、スタジオ録音のものですが、克明に描写したはります。が、おもしろいかといえば、そこがどうなのか、難しいところで、ある種の型が残っているとか、こういうものですという手本が、そこにあるといえば、納得できるかも分かりません。五郎氏のものは、途中に、ちょっと茶々も入れながら、少しは笑いも導きながら、幕切れまでやったはりました。なにせ、なかなか、理解されにくい手の芝居噺ですから、そこは、難しいですわな。


<27.11.1 記>


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