今年も、桜がキレイに咲きました。で、何出しましょですわなあ。もう、随分と、ネタが出てきておりますので、今月は、これまた変わったところで、『紙屑屋』をお届けいたしましょう。演題は、東京風に『紙屑屋』、また、『天下一浮かれの屑選り』とか、『浮かれの屑より』などといわれます。この噺の中に、『千本桜』の道行、『吉野山』が出てまいりますにゃわ。
夫婦のもんが揉めておりますのは、二階の居候(いそうろう)のこと。こらどうも、具合が悪い。源兵衛さんの、恩のある家から預かっているので、どうしようもない。しかし、朝から晩まで、ブラブラしてて、ご飯食べささんならんねやさかいに、女将さんも怒るはず。スズメのお松・カミナリのお松といわれるだけあって、ガミガミ怒って、家を出て行く。ただ、居候も居候で、夫婦喧嘩を仲裁することもせん。まだ寝てんのかいなあと、ほうきで、天井を突きますと、「もうちょっと左でっせ」て、分かってんねやがな。呼びますと、ようようと下へ降りて来て、近ごろは、天候が不順やて。季節外れのカミナリが鳴ったと。そら、お松っつぁんのことですがな。
居候も、ただ、ブラブラしてんのでは仕方なく、仕事があったら働くて。そこで、源兵衛さんの知り合いで、紙屑の問屋をしてる人があって、紙屑を選り分ける、“選り子”を探したはる。これにどやと。長屋の奥に、空家が一軒あるので、そこに段取りしたある。「あんまり、色気のある商売やおまへんな。」って、別に、色気て、要りませんがな。一俵選って、三銭。とはまた、賃金が安い。しかも、最初は、一日で一俵ぐらい。ということは、一日三銭。んなアホな。しかし、お松っつぁんの気休めと同時に、その紙屑の中には、たまに、金貨やとか宝石が紛れ込んでることがある。そんなんがあると、見付けたもんのもらいになる。これが大きいですがな。
とりあえず、ご飯を食べますと、早速に、仕事へ掛かる。出刃包丁を持ちまして、長屋の奥の空家へ。戸を開けまして、「こんにちは」。って、空家に、誰が居てまんねやな。とりあえず、湿気臭いので、そこらじゅう開け放しまして、早速、屑選り。「口切り」って、自分の口切って、どないしまんねや。俵の口を、出刃包丁で切りまんねや。中からは、屑の山。そこで、源兵衛さんが、見本を見せます。いっぺんにぎょうさん出すと、飽きるので、小出しに、ちょっとずつ出す。これを、横手に置いてある、ザルなんかに分けて行く。白い紙に、書き潰しの反古。銀紙、針金…。源兵衛はん、なかなかウマイ。「あんたやり」って、それでは、どうにもならん。とりあえず、昼過ぎには、また食べるもん持って来るて。それから、この空家の隣りが、稽古屋でにぎやか。反対隣りが、お母さんと息子はんの二人暮しで、お母さんが病気で寝てるて。
なんじゃかんじゃ言いながらも、紙屑選り開始。「そう言いながらでも、人の世話してくれはんねや。自分は貧乏してんのに。根がアホやさかい。」「誰がアホや!」って、まだ、表に居はりますがな。出たもん読みなやと言われておりましたが、しかし、どうしても、見て読んでしまうのは、人情というもの。手紙が出て来た。しかも、巻紙で、“旦那様へ 焦がるる花より”やて。色っぽい手紙ですがな。旦那ちゅうのは、船場か島之内あたりの、四十二・三ぐらいの、エエ男。お手かけはんちゅうのは、浮世小路あたりの、粋な家に住んでる。人力俥で、いつものように、旦那がやってくると、今日は、応答が無い。おかしいなあと、上がってみますと、世間の心配事一人で引き受けたちぇな顔して、憂鬱な感じ。「居てたんかいな。心配したがな。」「夕べは、どこへ?」「寄り合いでミナミヘ」「夕べ、お越しやと聞いてましたさかいに、足音がすれば、あなたかと…。一睡も出来ず。」「悪かったがな。そやけど、あんな手紙寄越したら、いかんで。」「自分のことばっかり。そこへお座り。座んなはれ!」「源兵衛はん、奥の空家、何ぞ、やってまんのか?男と女の声が、聞こえまっせ。」って、居候が、紙屑選ってまんねやがな。知らん人聞いたら、ビックリしますわな。
今度は、なんじゃ、絵が出て来た。野原で弁当広げて、芸妓・舞妓が座って、踊り踊ってる。真ん中に居るのは、旦那で、踊ってるのは、太鼓持ち。横手に、『吉兆まわし』と。こら、大阪やない京都。室町あたりの旦那が、芸妓・舞妓・お茶屋の女将さんから、太鼓持ちまで連れて、春の野がけ。毛氈敷いて、弁当広げてる所で、「何ぞ、おやりやしたらどうぇ。」で、『吉兆まわし』を始める。「時雨をば…」っと、隣りの稽古屋の三味線が、合いますねやね。これに合わせまして、踊りを踊る。「源兵衛はん、隣りの空家、何ぞ、ありまんのか?さいぜんから、ドタンバタンと。うちの母者人が、頭が痛いと言うて、寝てまんねや。静かにさしてもらえまへんか。」って、そら、具合悪いわ。覗きに行くと、「チャンチャカチャンのチャン」って、いかんがな。
静かにさせまして、また元の紙屑選りに。なんじゃ大事な紙包み。中身は宝石と思いきや…、ビワの種。今度は、浄瑠璃本、『千本桜』の道行・吉野山の場面。幕が開くと、桜の吊り枝、そこで、静御前が、鼓を調べてる。花道のスッポンから、せり上がって来るのが、狐忠信。「屋島・壇ノ浦のいくさ物語、所望じゃ、所望じゃ。」「何をいたすも、君がご機嫌。げに、越し方を。」っと、ここで、ウマイこと、隣りの稽古屋から、浄瑠璃の声。下座の三味線に合わせまして、演者の踊りですな。「源兵衛はん。なんじゃ、壁蹴破って、足が飛んで来て、うちのオカンの頭、蹴り飛ばしましたで!」って、大騒動。源兵衛はんが見に行きますと、縁の下へ落ちてる。暴れすぎですわ。
今度こそ、おとなしくしてんと、家放り出されると、居候は、またも紙屑を選る。出てまいりましたのが、長唄の本。“わずかたらず”ではなくって、“いわずかたらず”。ここで、また稽古屋の三味線。『娘道成寺』ですわ。踊らなしゃあない。「もし、源兵衛はん、井戸の周り、回って踊ってんの、おたくとこの、居候違いますか?」もう、表まで出て来て踊ってる。「こらっ。これ。ホイ!」って、源兵衛はんまで、踊ってなはる。亀の甲より年の功と、これを見ておりました、おばあさんが止めには入りますが、これも一緒に、踊ってなはる。「おい、いそ公、お前はホンマに、人間のクズやなあ。」「クズ。俵があったら、入りとうございます。」と、これがサゲになりますな。人間のクズで、「一緒に、選り分けてもらいます」などのサゲも、使われております。元来は、『天下一浮かれの屑選り』という演題のごとく、屑の中から、サイコロが出て来まして、これが天下一という目になって、せっかく選った屑を、総取りでかき集めて、何の意味もなくなるというサゲであったといわれておりますが、詳しい話は、私は存じません。勉強不足で、すみません。
上演時間は、やはり、三十分そこそこは、掛かります。これは、聞く落語ではなく、断然、見る落語でございます。というのも、途中に、踊りがふんだんに入りますのでね。下座の手も要りますし、普通の寄席や何かでは、なかなか上演できませんね。何か、特別な会の時とかでないと。誰でも出来る噺では、決してございません。導入部分は、源兵衛夫婦と、居候との揉め事から。要するに、何で、紙屑屋、紙屑の選り子になるかを説明する部分です。でも、ここは、おもしろいんですよ。女将さんがね。そして、屑を選り分けることになって、大騒動が始まるという。また、隣りが稽古屋で、反対隣りが、お母さんが病気で寝ている家やて。ここもポイントですな。最初のうちは、声色を変える程度で済みますが、だんだんと、そういうわけにはいかん。芸事好きな居候でっさかいにな。『吉兆まわし』やて。私も、実際には、存じ上げませんねけどね。それから、浄瑠璃で、『吉野山』が出て、長唄で、『娘道成寺』。演者の方は、上半身だけで、踊ったはりますな。あれ、普通に、踊り踊るよりも、大変なん、違いますやろか?そして、サゲになると。
東京の『紙屑屋』とは、趣きが違いますな。サゲも違うようですし。どちらかと申しますというと、唄のほうが多いですか。踊りというよりも。所有音源は、故・桂小文治氏、林家染丸氏、林家染二氏などのものがあります。もちろん、小文治氏のものは、録音だけで、映像は無いのですが、ウマイこと踊ったはったんでしょうなあ。染丸氏のものは、見たことがございまして、これは、ほんに、見る落語でございました。『吉野山』で、転がったはった。染二氏のものも、パワフルで、ウマイこと踊ったはりましたわ。なかなか、こんなん、マネ出来ませんよ。ま、とりあえず、現代にまで、こんな噺の型が残っているというだけでも、文化財級でございます。故・五代目桂文枝氏も、やったはったらしいんですが、残念ながら、わたしゃ、知りませんねやわ。
<28.4.1 記>
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