随分と、暑くなりました。5月下旬はまた、特に、お暑い日が続きまして、もう夏かいなあと思うほど。そこで、ちょっと小粋な、こんな噺を出してまいりました。海の魚もありますが、川魚も、中に出てまいります。こんなん聞くと、夏も、もう間近かいなあと思いまして。

 いつものように、二人の男が出てまいりますと、お話の始まりで。「いてるかえ。ちょっと付き合うて。新町まで。いつもの店に、新妓が出てんねやて。線香三本でもエエさかいに。」って、大きな声や。相手の男は、どうも具合悪い様子。声も出せん。というのは、嫁はんが、横手に居ますねやね。そんなもん、大っぴらに言えますかいな。女郎買いに行こうて。あんまり、大きな声で、何べんも言うもんだっさかいに、挙句の果てに、嫁はん、裏の戸閉めて、どっか出て行ってしもた。

 こんなもん、一人で行ったらエエのに、じきに、友達仲間を誘いに来る。ま、なかなか、行きにくいもんどすけど。それでも、傘づけや、川柳の一つも、ひねくろうという人間なりゃ、それなりに、他の人に、分からんように、知らせることも出来るやろうと。そこで、ちょっと例を出してまいります。新町を表現するのに、俳句と申しますか、川柳と申しますか、句で現すと?新町は、日本三廓のうちの一つで、有名な遊所でございますので、“潮煮や 鯛の風味の 名も高し”と。魚の王様、鯛で、表現してございます。次は、宗右衛門町・島之内。“鯛よりも その勢いを 初鰹”と、勢いのエエところ。難波新地は、まだ若い、新しい所でっさかいに、“若鮎の うらやましくぞ 見えにける”と。北の新地は、小粋なもんで、“風鈴の 音も涼しき 洗い鯉”と。堀江は、“葉しょうがを ちょっと相手に 鰈かな”。坂町は、いろんな雑多なもんが、入り混じっておりますので、“昆布巻きの 中に鮒あり 諸子(もろこ)あり”と。ちょっと落ちて、松島は、“玉味噌の 悪土くさき 鯔(ぼら)の汁”。なかなか、ウマイこと表現したありまんな。

 そこで、今度は、女の人全般なら、どうなりまっしゃろ?素人の娘はんでしたら、“寿司につけ まだ水臭き 細魚(さより)かな”と、これも、ウマイこと考えたある。後家はんなら、“においには 誰も焦がるる 鰻かな”と、色っぽいところ。お手掛けはんで、“いしなぎや 毒のあるのを 知りながら”と。肝に、毒ありまっさかいになあ。おんばはんは、“喰えば喰え 見ては無粋な 鯰(なまず)かな”。おなごしさんで、“つまみ喰い あと生臭き 鰯かな”と、よう雰囲気出てますわ。間男、不倫ですと、“河豚汁や 鯛のあるのに 無分別”と、こら有名な句ですけども。尼はんは、“蛸烏賊(いか)は なぜに魚の ようでなし”。尼はんも、そうですなあ、女といえども、そんなことが許されて、エエのやどや、分からんちぇなもん。ここら、ようでけたある。そこで、最後に、嫁はんは、“これはまた 無くてはならぬ 鰹節”と。そらそうですわ、料理には、必ず必要ですもんな。「こら気に入った」「エライ鰹節を気に入ったんやなあ」「ほんで、あんたをダシにすんねや。と、これをダシにして、新町へ…、ということですわ。

 上演時間は、十分か十五分ぐらいでしょうか。元々から、短いものです。寄席向きですな。そんなに長くやるもんでもなく、サラッと、粋に句を出していくと、おもしろみが出ますわなあ。色街、しかも、女郎買いのほうでっさかいに、汚いような感じも、最初はするのですが、全然、そんな気配も無く、小粋な感じに仕上がっておりますな。ま、時代によって、句の文句も変わって来ているでしょうし、また、演者の創作ちゅうのも、入って来ているんでしょう。でも、相対的に、ウマイこと考えたありますわな。サラリーマン川柳みたいに、入賞の句が揃っております。で、思い出しましたが、笑福亭仁智さんの、川柳のネタありましたよね。おもしろい。

 東京では、聞きませんが、東京の『魚づくし』とは、違うネタですよ。所有音源は、故・三代目桂米紫氏のもの、また、故・桂米朝氏のものも、聞いたことがございます。先代の米紫氏のものは、多分、島之内寄席の時の録音だと思いますが、前の部分に、歌や句のやりとりが付いておりまして、あまり、いやらしい部分がございません。それから、大阪ではなくて、京都での色街の話で、置き換えてございます。これは、大変、粋な感じでありまして、録音だけ聞いておりますと、随分、容姿端麗な…。米朝氏のものは、軽い感じで、おもしろみも、句のほうに、重要性が掛かってくるというものでした。今でも、雰囲気ぐらいなら、通じる噺では、あると思うんですが…。


<28.6.1 記>


トップページ