今年の夏も、暑いらしいですな。なんじゃ、特に暑い、いうて。そんな中、何の関係もございますまい、『短命』でご機嫌を伺います。有名な落語なんですが、案外、上方では、珍しい。
表から、一人の男が飛び込んでまいりますというと、お話の始まりで。珍しい風してる。紋付着てるんで、聞いてみますと、横町の十一屋で、旦那が、また死んだ。しかし、“また”ちゅうのは、おかしな話。人間、いっぺんは、死なんならんもんですけれども、二回も三回も死ぬもんやない。役者はんや、おへんにゃし。向こうには、一人娘さんが居はって、ご養子さんを貰いなはる。要するに、婿養子。これが、一人目が死なはって、二人目が気の毒で、三人目が、ゆんべ死んだ。それで、“また死んだ”と。そこで、イヤ味言わんならんので、それを教えてもらいに来たと。そら、くやみや。
しかし、以前にも、お弔いがあったんやさかいに、それをそのまま使うたらエエと。一人目の時は、お通夜の席で、ぎょうさん、ごっつおぅが並んでたんで、『こらどうも、ごちそうさま』と。爆笑。二人目の時は、『二度あることは、三度ある』と。そらいかんわ。とりあえず、『ご愁傷さまで。お疲れの出ませんように。』ちぇな、ありきたりのもんでエエ。けどまあ、不思議なんは、なんで、その養子が次々に死んでまうかということ。よう聞いてみますと、親旦那もエエ人やったらしいですが、その娘さんも、器量良し。おまけに、べっぴんさんで、婿養子さんも、そないに仕事があるわけでもなし、店に、しょっちゅう居はるわけでなく、奥に入って、夫婦仲は、至って、よろしい。そこで、ご養子っさんは、短命やと。なんじゃ、さっぱり、訳が分からん。
一人目のご養子さんは、役者にも無いエエ男。男前。しかし、半年もせんうちに、なんじゃ、訳の分からん病になって、須磨の別荘に出養生。それからすぐに、死んでもたと。「で、娘はんは?」「そら、一緒に。」「それがいかんがな。出養生 毒も一緒に 連れて行き」お分かり?二人目は、丈夫なんがエエやろうというて、体格のエエお方。これも、半年もせん間に病気になって、須磨の別荘へ。娘はんが一緒で、コロッと。三人目は、不細工な顔でしたが、気のエエ方で、前の二人は気にせんと言いながらも、半年せん間に、また、須磨の別荘へ。コロッ。
寒い冬、コタツかなんかに入って、差し向かいで居る。手が触れると、お互いに笑って、一層に力が入る。っと、どうしても、短命やと。これでも、分からんがな。二人っきりの部屋、何の気なしに、手が触れる。笑った後に…、短命やと。これでも、エエ加減なもん。ご飯を食べる際に、娘はんが、ご飯をよそう。渡そうと出した手が、婿はんの、出した手に触れる。手と手が触れる。これが短命の原因。アホは、アホなりに、ようやく分かった様子。
っと、十一屋はんへ、くやみを言いに行くのではなくて、とりあえず、自分の家へ帰りますわ。嫁はんに、「腹減った」て。それやったら、弔いの十一屋はんで、食べたら、よろしいのに。なんなと、用意したありまっしゃろ。とりあえず、嫁はんのほうは、ご飯ごしらえをする。お櫃からご飯をよそう。受け取ろうと出した手が、手と手で触れる。嫁はんの顔を見て、「わいは、長生きや。」と、これがサゲになりますな。おもろいもんですわ。べっぴんやさかいに、短命でしたんでね。
上演時間は、十五分前後ですか。決して、長いものではございません。寄席向きの、おもしろい、お笑いの多いものですな。前半は、主人公と、仮にも、甚兵衛さん、物知りの方との会話。これから、くやみに行くと。十一屋はんで、また死人。ご養子さんが三人目。こら、エライ話ですわな。もろた養子っさんが、次々に亡くなる。でも、娘はんは、大丈夫と。そこで、詳しい訳を聞きますというと、須磨の別荘に出養生で、娘はんも、付いて行って、お陀仏。ここらで、たいがい、分かっていただけるような。いただけないような。詳しくは、私の口からも言えません。そして、後半と申しますか、最後は、家へ帰ってみて、同じように、ご飯をよそってもらうと、「わいは、長生きや。」と。おもろいサゲですわ。最初は、小噺程度のものだったかも分かりませんね。
東京にもございますし、どちらかと申しますというと、東京ネタでしょうなあ。上方のほうが、演じられる機会が少ないように思えます。ただ、所有音源は、故・橘ノ圓都氏のものがありますし、桂文之助氏のものも、聞いたことがございます。圓都氏のものは、有名な、『丙午(ひのえうま)』の題で、録音が残ってございますね。この時、六十年にいっぺんの、丙午やったんですな。それをウマくなぞられましての、『短命』でございました。文之助氏は、丙午の年だけの話ではなくって、当然、年じゅうの話として、やったはりました。よくウケてましたけどね。上方では、ちょっと少ない系統のネタですな。おもろいんですけどね。
<28.7.1 記>
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