
今月も、残り少ないネタの中から、お届けいたしましょう。『八五郎坊主』でございます。有名な『八五郎出世』ではございません。内容は、似ても似つかぬ、バカバカしい噺でございます。
ホンマ、世の中、バカバカしいことが多くて、“つまらんやつは、坊主になれ”ちぇなことをいいますなあ。を、どこぞで聞いてきたもんとみえまして、主人公の八五郎、いっそのこと、坊主になったろかいなあと、甚兵衛はんに相談に来ます。まあ、それもエエやろうと、心安いお寺を紹介してもらいます。下寺町のずく念寺さん。行くだけでは分からんので、手紙・紹介状を書いてもらいます。手紙が書けたが、封をする糊が無い。台所で、お櫃を見つけて、中のごはんを…、ウマイ。って、喰うて、どうしますねや。汚い手で、手づかみにしたさかいにと、ごはん食べてしもうて、猫のごはんで封をする。残りを、甚兵衛さんが…。しょうがない人間ですわいな。
とりあえず、大きなイチョウの木が目印ということで、やってまいりましたのが、ずく念寺さん。尊いお寺は、ご門からと申しますが、ご門を潜りまして、裏手の台所・庫裏(くり)の一間半の格子戸をガラガラと。「こんにちは」「こんにちは」っと、天井が高いので、反響してますねやね。奥からは、おぼんさんが出てまいります。「お前さんは?」「人間じゃ」「どちらから?」「あちらから」「どうして?」「歩いて」「やれやれ」「こりゃこりゃ」って、掛け合いやがな。おもしろいうことを言うておりますが、甚兵衛さんのところからと、手紙を差し出します。
奥で、おっさん・お住持に伝えますと、奥に通せということで、ご伴僧と共に、奥の間へ。座布団にチンと座ってなはるのが、こちらのお住持。手紙には、“少々愚かしい”とありましたので、八五郎を見ても、さほど驚かん。それよりも、出家得度をしたいということ、本当かどうかを聞きます。やはり、間違いが無いみたいですので、早速、気の変わらんうちに、頭を丸めましょうと。「やすりかペーパーで?」って、んな、アホな。カミソリですがな。たらいに水を汲ませまして、これで、頭を湿らしながら、「なまんだぶ、なまんだぶ」と、カミソリで剃り上げる。「ちょっと、鏡、貸してもらえまへんか?」「寺方に、鏡は無い。前の、水鏡で。」「あら〜。変わってもたなあ。しわくちゃで、歯抜けて…。」「そら、私の顔じゃ。」って、おもろい人でんな。着物も、ネズミ色で、ネズミ色の衣に着替えます。猫のそばには、寄れませんな。
次は、名前。“がらっ八”では、具合が悪いので、“八”の字と、仏法の“法”の字で、“八法”は?こら、八方ふさがりで、どうも具合が悪い。“六法”?ん〜。“法春”でどうやと。“はしかも軽けりゃ法春も軽い”“はしかも軽けりゃ疱瘡も軽い”のシャレで、おもしろそう。しかし、自分の名前でありながら、すぐに、忘れそう。紙に書いてもらいますが、早速、甚兵衛さんに、お礼も言いに行かないかんのでと、外出の許しを請います。結構なんですが、外へ出ると、誘惑も多い。魚類はならんぞ、つまり、魚の系統は口にしてはならんということですわ。それから、ぞんざいな言葉づかいも、いかん。「へいへい」ではなく、「はいはい、愚僧かな」と。寺の門は、暮れ六つに閉まりますので、それまでに帰って来るように。大丈夫ですやろか?
外へ出ますというと、風が吹くと、寒い。今までと違いまして、髪の毛ありませんからな。それから、衣の袖が長いと、袖くくって、尻からげ。チョンコ節を唄いながら、歩いておりますと、さすがに目立ちます。派手なぼんさんですからな。「あれ、八と違うか?八!」「おお、ヨシにタケ!」は具合悪い。「はいはい、愚僧かな」と。これこれこういう訳でと、ぼんさんになったことを告げると、案外、似合うかも分からんて。「で、なんちゅう名前もろたんや?」書いてもろたもんを出しますが、なかなか上手な字。上の字が“ほう”で、下の字が“はる”、“ほうばる”か?そんな名前やなかったはず。読み方を変えまして、下の字は、春日神社の“春”でっさかいに、下が“かす”で、“ほかす”?そうそう、ほかされたんでは、具合悪い。上の字が、御法の“法”で、“のりかす”?これも違う。しかし、どう考えたかて、上が“ほう”で、下が“しゅん”、“ほうしゅん”?「はしかも軽けりゃ法春も軽い、はしかも軽けりゃ疱瘡も軽い。分かった、分かった!ワイの名前は、“はしか”言うねん。」と、これがサゲになりますな。元来は、「のりかす?剃るなりつけるなりや。」と、頭を剃るなり、名前を付けるなりを先に出しておいてのサゲであったらしいです。
上演時間は、二十分から二十五分ぐらいですか。長い長いものではございません。何せ、八五郎さんのキャラクターを前面に押し出した、おもしろい話ですな。こんな人、どこにでも、一人や二人、おられますね。冒頭は、甚兵衛さんの家で、おぼんさんになる、つてを探す所から。ま、喰うには、困らんもんですが、なかなかに、修行も厳しいもんですよ。この発想からして、八五郎さん、普通の人間やおまへんで。そして、紹介状を書いてもろうて、下寺町のずく念寺さんへ。お寺の描写が、風情もありますが、お寺自体をよく現しておりまして、よろしいですわな。早速に、頭を剃って、名前を付ける。これが、元来のサゲに繋がるんですが、しかし、本来は、そうそう簡単には、おぼんさんになれませんけどね。終盤は、外へ出してもろうて、友達に合うて、サゲになると。笑いは多いのですが、やはり、八五郎さんのおもしろさが前面に出ますな。
東京では、ほとんど聞きません。上方でも、一時、故・桂枝雀氏がやったはっただけでしたけれどもね。所有音源は、故・三遊亭百生氏、それに枝雀氏のものがございます。私は、枝雀氏のものしか聞いたことがなかったのですが、ある時、百生氏のものも、聞かせていただきまして、元は、こんなネタだったのかと思ったことがありました。百生氏も、八五郎さんを前面に出しまして、おもしろいものでした。昔の寄席では、よくウケたものだったと思います。枝雀氏のものは、十八番のもので、爆笑でしたな。他には、林家染二氏や、桂雀々氏などのものも、聞かせていただきました。今では、演じ手も多くなりましたね。
<28.11.1 記>
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