
押し詰まりました。今年も、何ひとつ、エエことございませなんだが、とりあえず、何か一つネタを、『強情』でお楽しみいただきましょう。滅多に出ません。
主人公は、辰という男。ある人の家にやってまいります。言いにくい話ですので、先に返事してもらいたいと。『うん』て。んな、アホな。頼みちゅうのは、そういうもんですけどね。と来ると、相場は、だいたい決まってる。金貸してほしい。しかも、五十円の大金。「五十円てな大金、今、うちには無い。」「いいや、ある。」って、算段付けたあんね。手広い商売したるは家でっさかいにな。しかし、理由も聞かんとでは、そら貸せませんわなあ。実は、この月、今月の一日に、ある人から、五十円借りた。その人が言うのには、「今、うちで遊んでる金やさかいに、いつ返そうと思いなや。」と、無利子無証文で、五十円貸してもろた。しかし、いつまでも借りてるわけにいかんので、今月の月末には返そうと、心の中で決めた。今日、節季になったところで、その五十円がでけなんだ。これでは、自分の中で、自分で自分にウソ付いたようで、男が立たん。それで、その人に返すがために、五十円貸して欲しいと。
こら、エライ話でっせ。強情も、ここまで行くと、バカが付くぐらい。この家の人も、そのキップに惚れ込み、「よし、五十円貸そう。」って、持ったはんねがな。さいぜん、『無い・無い』言うてたくせに。ま、とりあえず、ひと月という期限を決めて貸してもらいます。「その金返したら、戻って来いや。うちで、一杯飲もう。」と言う言葉を聞きながら、ここの家を辞退。今度は、先に、五十円借りた家へ。「ありがとうございました」と、五十円を返しますが、「なんやこれ」と、受け取ろうとする気配が無い。五十円の余裕が出来たら、返しに来たらエエと言うたはずやと。どう見たって、これは苦しんでるお金、遊んでるお金や無い。そやさかいに、もうちょっと余裕が出来てから返しに来いと、受け取りませんねやがな。この人も、強情ですな。そこで、本当のことを打ち明けまして、人に借りて来たお金でっさかいに、どうしても、受け取って欲しいと。「持って帰れ、カカ、出刃包丁…。」「さいなら」って、命懸けですな。
元来た家へ。「おお、行て来たか。なんやこれ。返しに行ったんと違うんか。」と、よくよく事情を話しまして、最後に、出刃包丁まで出してくる始末を語りまして、五十円返します。っと、この人も受け取らん。「ひと月の期限付きで貸したんや。まだ、ひと月経ってへんがな。」って、強情ですがな。人から借りたてなこと言わんと、無理矢理にでも理由付けて、“宝くじに当たった”とか、“人に貸してあったのを、返してもろた”とか何とか言うて、返して来いと。さもなくば…。ここはピストルや!
また、先ほどの家へとやってまいりまして、また五十円返すと。「今、そこの公園で、遊んでた。」って、五十円が、遊んでますかいな。「宝くじに当たったとか。」って、その『とか』ちゅうのは、何でんねん?「道で拾うたとか」。とりあえず、受け取ってもらわな、辰っつぁんの男が立たん。自分自身で、一ヶ月で返そうと決めたんやさかいにと言いますと、分かったと、やっと納得のご様子。しかし、今日はまだ、アカンと、まだ、ひと月経ってへん。あれ、一日の朝の十時やったはず。でっさかいに、ちょうど一ヶ月後の、明日の朝の十時に、出直して来いと。出直すのは、大儀な話でっさかいに、この、ちょうど真ん中に、五十円置いて、朝の十時まで待ってますて。翌朝の十時になったら、パッと突き出して、それを受け取ろうやないかと。
しかし、強情な話ですなあ。男二人、差し向かいで、翌朝まで…。となりますというと、一杯飲もうと。夜明かしで、朝の十時まで待ってようやないかということになりますわ。一升びん前へ置いて、アテは…。「よし、牛肉のすき焼きで、一杯飲もう。」「いや、わて、牛肉あきまへんねん。鳥すきで、かしわで一杯。」「牛肉うまい。牛で。」「いや、鳥で。」ここらも強情。しかし、ご馳走してもらうんでっさかいにと、そこは折れまして、牛肉で。息子に、牛肉を買いに行かせます。その息子ちゅうのも、おとっつぁんに似て強情。こないだ、嫁はんが旅行へ行ったんで、『朝、学校行くのん、起こしてや。』『分かった』言うて、前の晩に寝た。明くる朝、起こすのが遅れてしもたんやが、『エライこっちゃ』言うて、飛び起きて学校行きよった。しかし、日曜日で学校閉まってる。それでも、せっかく来たんやからと、無理矢理に教室入り込んで、一人で勉強して帰って来たと。明くる日、休みよったんで、何にもならんて。おもろい話ですなあ。
ふと見ますと、横手のほうに、将棋盤前に、考えてる人が居る。三年ほど前に、将棋しようと、この人と、将棋を始めまして、王手飛車、ここで、『待ってくれ』『いいや待たん』『待っていらん。考えさしてくれ』いうて、ずーっと考えてるて。毎日、ああして考えては、帰りよる。ホンマかいな?強情な人や。しかし、息子の帰りが遅い。ほん近所に、肉買いに行ったのに、まだ戻って来いひん。心配になって、おとっつぁん、表へ出てみますというと、息子発見。「牛肉買うて来たんか」「まだや」て、それではあかへんがな。路地口、出て曲がった角で、向うから、人が来た。鉢合わせですな。しかし、この人退(の)かな、わいの負けになると、一歩も退かん。鉢合わせになった人も、電車間に合わんと、子供を退かして欲しい。おとっつぁんのほうも、強情でっさかに、退かすわけにもいかん。しかし、辰っつぁんが、家ですき焼き待ってる。「おい、お前、牛肉買うて来い。」「そんなことしたら、わいの負けになるがな。」「なんの、お前に負けさすかい。おとっつぁん、代わりに、立っといたるわい。」と、これがサゲになりますな。いずれも強情な人ばかりで。
上演時間は、二十五分ぐらいでしょうか。内容自体は、そうストーリーがあるというわけでもございませんので、落語の材料には、良いかも分かりませんね。ものすごい大笑いというものも、ございませんねやが。タイトル通り、どこもかしこも、強情な話で。とりあえず、最初は、人に借りた五十円を返すがために、五十円貸してくれというところから。一ヶ月で返すと決めたんは、辰っつぁん本人さんだけの話で、別に、誰が決めたわけでもないんですけどね。そこが強情の起源かも分かりません。男が立たんとまで言われたんでは、そこは、五十円貸さな、しょうがないん。それ持って、借りた家へ。受け取りまへんがな。この人の強情のほうが、まだ一段上のよう。元の家に帰っても、返して来いと言われまして、再び、返すことといたします。それでも、一ヶ月ちょうどで、明日の朝十時まで、受け取らんて。おもろいですけどな。というところで、お堅い話が砕けまして、それまで、夜明かしで、一杯飲もうと。これが無ければ、この話、難しい、四角四面のまま終わりますねけどね。そして、息子に牛肉を買いに行かせまして、サゲになると。ちょっと、お堅いようで、おもしろい所もありで。
東京では、『意地くらべ』ですか。というか、これは、元々、東京で作られた新作落語らしいんですけどね。それで、上方では、あんまり演じられていないんですな。それでも、所有音源は、故・橘ノ圓都氏、桂ざこば氏のものがあります。しかし、お二方とも、強情そうで…。圓都氏も、若い頃は、強情やったとされておりますが、私も、詳しいことは存じません。それなりに笑いを取ったはりましたし、おもしろいものでした。ざこば氏も、あんまり演じてはれへんとは思いますが、よくウケておりました。堅い話ですのに、おもしろくやったはりました。こういうのは、時代が変わっても、受け入れるところがあるんでしょうなあ。人間の性格て、いろいろございますもんな。とりあえず、ひっそりとですが、良いお年を。
<28.12.1 記>
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