こんな話もありました。ということで、今月は、『茶漬間男』でございます。『二階借り』という演題もございますので、お忘れなきほどに。題名からしてお分かりでしょう、色っぽいお話でございます。現在ですと、不倫という言葉のほうが、良いですか。
なんじゃ、表から唄が聞こえる。と思いますというと、女房の、おかみさんのほうが、風呂へ行ってきますと。旦那の、亭主は、茶漬喰うてる。食べてから、片付けてから、出たらエエのに。そやかて、隣りの、お咲さんが、聞いてもらいたい話があると、風呂屋で聞く約束してたん、コロッと忘れてたて。あんまり待たせたらいかんので、お風呂へ行ってきます。と、女房のほうが家を出る。「おい、遅かったやないか。」て、さいぜん、表で、唄うたうてたんは、辰っつぁん。これが合図に、逢引き、要するに、不倫・間男。「いつもの盆屋へ」って、今でいう、ラブホテル・連れ込み旅館・出逢い茶屋ですな。
しかし、辰っつぁんも、慌ててたもんでやっさかいに、財布を持たず。女房の、おかみさんのほうも、お金持って無い。「また今度にしよう」と言いますが、せっかくのことで、辰っつぁんは、我慢でけん。「どこぞ近所で、借りるとこないか?」って、んな、アホな。そんなもんに、貸してもらえますかいな。「お前とこ、二階空いてへんか?」って、こら、エライこと言い出しますわ、辰っつぁん。空いてはおりますけれども、旦那の、亭主のほうが、下で、飯喰うてる。そんなとこで、男女の、この営みが…。「こんばんは」って、辰っつぁんも、顔見知りでっさかいに、家へ。「ちょっと頼みがあんねん。二階貸してもらえへんか?」小指を出しまして、「近所の、人の嫁はんを…。」って、そら、誰も、エエ顔しまへんで。
「あいつが帰ってきたら、怒りよるで。」そらそやわ。辰っつぁんも、強引なもんで、気まずかったらいかんと、電灯の火消して、「入れてもらい」て。亭主のほうは、ぼやきながら、電気付け直して、茶漬喰うてる。「エライすまなんだ」と、事が済んだとみえ、また、電気消して、辰っつぁんが、女房のほうを表へ出す。案外、ウマイこといきましたがな。亭主は、再び、電気を付けて、茶漬食べ直し。っと、「ただいま」と、女房が帰って来る。「あんた、まだお茶漬け食べてんの?」と聞きますと、辰っつぁんが、やって来て、二階を貸して、ややこしいことしとったて。張本人は、女房のほうですけれども…。「この近所の、人の嫁はんや言うてたわ。」「そのご亭主、何にも、知らんのやろか?」「ちょっとボーっとしとる奴や、言うてたわ。」「おかみさんが、そんなことしてるのん、知らんと、そのご亭主、今時分、どないしてんのやろなあ?」「おおかた、茶漬けでも、喰うてるやろかい。」と、これがサゲになりますな。ちょっとおもろいとこですけれども。
上演時間は、十分そこそこですか。寄席向きと思えども、昔の寄席では、こんなん、口演できません。御法度ですからな。お座敷なんかで。今でしたら、テレビでも、やりようによったら、大丈夫かも知れません。亭主は、最初から最後まで、長いこと、お茶漬け食べたままなんですけどね。これがまた、キーポイントで、案外、おもろいん。自分の女房が、辰っつぁんと、不倫してるのに。しかも、大胆にも、亭主が居る家の二階で、事を済ますて。終わって、風呂から帰って来たと見せかけて、最後は、茶漬けのサゲになると。
東京でも、『お茶漬け』なんかの題で、ちょいちょい出るみたいです。私は、故・桂米朝氏のものしか、聞いたことがございません。あんまり、いやらしい所は、ございませんでしたな。お茶漬けのように、サラサラと…、やったはりました。
<29.4.1 記>
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