
今年は桜の開花も遅く、また、咲いている間も、長かったですな。おかげで、予定が立てづらく、難儀したわけですけれども、それはさておきまして、一ヶ月遅れとなりますが、桜のお話をば。『さくらんぼ』でご機嫌を伺います。要するに、『あたま山』でございますわ。そう言うと、一般的ですかな。
主人公のよっさん、患うてるてな具合で、徳さんが見舞いにまいります。見ると、頭巾かぶってる。おかしな具合で、聞いてみますると、これが病の種。取ってみるというと、頭から、木が生えてる。ここからして、おかしな話ですわな。まともに、考えんとくれやっしゃ。お笑い・噺でっせ。桜の木が生えてるんですわ。頭の上に。さくらんぼ食べてて、一つ、種を飲み込んでしもたらしい。それから、お腹の中が、なんじゃ、具合悪いと思うてたら、頭の上から、桜の木が出て来たて。医者に相談したが、見立てがつかん。そこで植木屋へ行たて。桜の木を移し替えはでけるけれども、抜いた後の土台、頭のほうは、補償しかねると。そらそうですわな。そこで、切ってもらおうか知らんと、思案をいたしております。
しばらくいたしまして、徳さんがやってまいりますというと、木が成長してる。よっさんも、愛着が出て来たとみえて、大事にしてるて。今度、徳さんが来てみると、桜も花が付いて、七分咲き。てなこというてるうちに、だんだん満開になって来た。すると、近所の人が穴場というので、このあたま山の下へ、花見に詰め掛けます。そら、にぎやかですわな。しかし、花見の後は、始末が悪い。ゴミは溜まるわ、酔いたんぼは残るわ。そこで、いっそのこと、人足を雇いまして、この桜の木を抜いてもらうことにする。頭の上のですよ。抜いてしまいますというと、ポッカリと、穴が開いてしまう。そこへ、真夏のこと、夕立に遭いまして、雨に濡れて帰ってまいりますというと、ここに水が溜まる。
徳さんがやってまいりまして、水溜りだけでは、寂しいというので、金魚を放つ。近所の人が、コイやらドジョウやら、魚を入れに来る。とうとう、釣りの名所になってしもた。釣りの穴場と化してしまいます。夜になりますというと、今度は夕涼み。屋形船が出る、花火が上がる、周囲に物売り店が出る。こら、たまらんと思っておりますと、そのうちに、秋になり、物悲しい雰囲気に落ち着く。、つくづく考えてみますると、さくらんぼの種を一つ飲み込んでしもうたために、こんな、因果な事が次々に起こる。ええい、いっそのこと。っと、よっさん、この、あたまが池にザブーンと…。身を投げたというのが、サゲでございます。なんとも言えん、壮大な噺でございますな。お分かりですか?
上演時間は、十分か十五分程度。長いものではございません。寄席向きの、軽い噺です。想像の中の世界ですな。しかし、よくぞまあ、こんなことを昔の人が、考えていたことで。お客さんのほうに、考える無理が無い程度に、サラリと終わってしまうほうが、良いでしょうなあ。端的に文章を書きましたが、上方では、下座から、お囃子が入ります。東京では、上方以上に、有名な噺として、残っておりますね。
所有音源は、桂雀々氏のものがあります。ちょいちょい、やったはりますね。おもしろいですけれども。故・桂枝雀氏も、やったはったと、記憶しておるんですが。とりあえず、落語らしい、なんとも言えん噺ですわ。
<29.5.1 記>
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