先日、友達がベトナムに行きまして、路上で散髪している話を聞き、こんなものを思い出してしまいましたんやわ。『青空散髪』て、もちろん、新作・創作のネタでございます。故・三代目林家染語楼氏、一一(かずはじめ)さんの作でございます。

 さて、主人公と申しますのは、我々同様というような、いたって、無精な人間。散髪がボサボサ、エライ頭や。しかし、金が無い。それやったら、五十円で散髪してくれはるとこがあるて。バリカンで頭刈ってもろうて、ヒゲ剃って、頭洗うて、五十円。それぐらいやったら、散発してもらおうと、場所を聞きますというと、天王寺公園の西口から入って、野球のグランドがある、草野球してんのを見てるような見物に、『青空のおっさん』て聞いたら、場所教えてくれるて。しかも、電気バリカンが自慢で、それ褒めたら、まだ三十円ほどに負けてくれるや知らんて。

 こら、エエ話を聞いたと、右の男、天王寺公園へ。草野球やってるギャラリーに、「青空のおっさん、知ったはりまっか?」と。皆、よう知ったはる。石段の横手の植え込み、その向こう側のバラックが、おっさんの家やて。エライ話ですけれども、恐る恐る、訪ねて行きますというと、『青空理容所』と。声を掛けますというと、表出て、待っとくなはれ。とは、何事ぞ?中入って、待ってては、分かるけど、表出て待っててて。狭いバラックですからな。散発してもらいたい旨を告げますというと、ここは家で、店は向かい。向かい?何にも無いで…。

 今歩いてきた、石段ですがな。そこの木陰に座らされて、ここで散髪。そら風通しエエし、夏は木陰で、冬は、日当たりのエエ場所で。って、んな、アホな。退屈やったら、向こうのグランドの野球見といとくれやすて。それもかなんかったら、本見といとくれやす。電話帳て。まあ、とりあえず、散髪の道具で、竿竹振り回して…。外線めくれた所へ引っ掛けて、電気取って、バリカンで。盗電やがな。「それぐらいは当然で」て、シャレ言うてる場合やないで。「ええバリカン使うてまんな」ちぇなとこ言おうもんなら、おっさん名調子。

 しかし、鏡が無いので、出来がよう分からん。手前の電信棒通り過ぎたところで、タクシーに手上げたら、タクシーが必ず前で、ブレーキ踏みよる。その窓に、自分の姿が映るさかいに、それで見てくれ。って、おもろいなあ。次は、洗髪。向こうに、用水桶があって、水道の蛇口が付いてまっさかいに、向こうへ行きまひょ。って、乗馬クラブの、馬の水飲み場ですがな。「馬の来んうちに」。この前、馬に蹴られて、エライ目に遭うた人がいたて。もう結構。ヒゲ剃ってもらおうか。と、公衆便所で水汲んで来て、剃り始めますというと、痛い。ほんなら、サラおろしまっさ。出してまいりましたのが、使い捨てのカミソリ。それも風呂屋で集めてきたて。消毒してますとはいえ、どうもないのかいな?石鹸も、風呂屋の湯落とし口に網仕掛けて、使い残った、落としてしもた、小さい石鹸を集めて、まとめ直したある。「汚いなあ。気色悪ぅ。」「あんた、そない言うたら、あきまへんで。これでも、まだなんぼでも、使えまんねん。使えるもんは、皆、使わな損だ。うちの看板、見てみなはれ。『利用しょう』と書いたある。」と、これがサゲになりますな。“理容所”と、“利用しょう”が掛けてあるんですな。不思議な話です。

 上演時間は、二十分から二十五分ほどですかな。短いと、おもしろくないようにも思いますが、ただ、長すぎても、貧乏たらしく…。何思うて、作らはったんやろ?と思うておりましたが、おそらく、昔は、実際に、あったん違いますやろか?ベトナムの青空散髪と同様に。冒頭は、青空散髪を教えてもらうところから。ホンマかいなあと、思うておりますところで、天王寺公園へとやってまいりまして、散髪してもらう。おもろいですわな。電線から電気引いて、馬の給水口で、頭洗うて。おまけに、カミソリや石鹸を、風呂屋で拾うて来て、再利用。ま、ここまでは、話が誇張してありますけれども、昔に比べたら、人間、贅沢になっているのかも分かりません。

 東京に…、移されてないでしょう、こんな噺。冒頭に述べました、染語楼氏、また、息子さんの故・四代目林家染語楼氏、そして、その息子さん・林家市染氏のものを聞かせていただきましたかね。三代目は、もちろん録音ですが、分かりやすい口調で、爆笑を取っておられました。やはり、時代ですな。四代目も、そんなに昔のものを聞いた訳ではございませんが、おもしろいものでした。当代の市楼氏も、頑張って、やったはりました。よくウケておりましたがね。

 古くて新しい、ベトナムの散髪を思い出しての、今月のネタでござりました。ベトナムでも、安かったらしいですよ〜。


<29.10.1 記>


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