こんな噺も、残ってましたわ。『ろくろっ首』ですけれども、最近、演題は、みな『ろくろ首』で出ておりますな。昔、『くっしゃみ講釈』と一緒で、上方式に『ろくろっ首』いう名前で、出てたんですけどね。

 いつものように、主人公の喜六が、甚兵衛さんの家へやってまいりますというと、お話の始まりで。やもめでっさかいに、養子に行けへんかて。前にいっぺん行って、懲りてると。先方に娘はんが二人いて、妹のほうに行た。ところが、姉のほうがべっぴんで、妹の留守に、姉を抱いた。それを妹が見付けて、エライ怒って泣かれた。仕方ないので、姉抱いて、妹背負うて…。って、子守り奉公ですがな。そやかて、『用しに』て。そやのうて、婿養子。よその娘はんの婿になるちゅうこと。初めは、ゴチャゴチャと言うておりますけれども、お相手は、紙屋さんの娘さん。財産もあるわ、借家もあるわ、そこへ持って来て、『今小町』ちぇなぐらいの、べっぴんさん。そんな人が、なんで、喜ィさんみたいな人と?

 やっぱりキズがあると。そらそうですわいな。しゃべりちゃうかて?そんなん違う。夜中になると…、寝小便たれ?子供やがな。違う違う。首が伸びる。要するに、ろくろっ首やて。「養子に行けへんか?」て、化けもんですがな。嫌がっておりますが、しかし、よくよく考えてみますると、この話を、誰ぞに持って行って、首伸びるの治った、夫婦仲良う暮らしてるちぇなこと聞いたら、後悔しますわな。迷っておりますが、こんな男でもエエ言うてくれはるうちが花やと、養子に行くことを決めてしまいます。

 しかし、喜ィさんは、男の割りに、ちょっと、しゃべりが過ぎる。出来るだけ黙ってるほうがエエと。話は、甚兵衛さんが、ウマイことしてくれはんねやさかいに。受け答え『左様左様』『ご尤も』『なかなか』の三つぐらい言うといたら、そんでエエて。しかし、どの時に、どれを使うたらエエのか分からん。こよりを三本よりまして、これを足の指に括り付ける。横から、甚兵衛さんが親指を引っ張りますと、『ご尤も』。中指が『なかなか』、小指が『左様左様』て。おもろなってきましたで。

 とりあえず、甚兵衛さんだけ、紙屋さんに話をしに行く。上々吉で帰ってまいりますというと、今度は、喜ィさんを連れて、いよいよ先方さんへ。甚兵衛さんは、挨拶をいたしますが、喜ィさんは、なかなかでけん。『この上ながら』とだけ言うといたらエエと教えられますが、お手伝いさんや猫にまで、『この上ながら』て。座敷へ通されますというと、お嬢さんがお茶を運んで来る。見ると、べっぴんさんですがな。どこをどうして、首が伸びまんにゃろてなもん。

 お膳の用意が出来まして、運ばれてくる中で、猫まで入って来る。喜ィさんは、正座なんか普段にせえへんもん、しびれが切れて、足が痛い。足の指を動かす。こよりが揺れる。これを見ておりました猫が、このこよりに、じゃれ付いてまいります。『なかなか』って、誰も居てへんがな。『ご尤も』『なかなか』エライことなって来た。『なかなか、ご尤も、左様左様。なかなか、なかなか。ご尤も、なかなか…。』って、おもろいですけれども、犯人は、猫ですがな。ビックリしますが、おもろいとこですわ。

 そうこうしておりますうちに、仲人は宵の口と、甚兵衛さんは帰ってしまう。さあ、喜ィさんとお嬢さんの二人だけ。喜ィさんほうは、首が伸びる・首が伸びると聞いておりますので、お嬢さんの首ばっかり見ております。反対に、お嬢さんも、今晩だけは伸びまいと、必死で我慢している。一つの布団で二人が寝ておりますと、ちょうどお時間。それへさして、首がニュ〜っと。これ見るなり、喜ィさんは、ビックリいたしまして、家を飛んで出る。

 「甚兵衛はん、開けとくなはれ。養子の出戻り。伸びました!」って、甚兵衛さんのほうも、夜中にビックリしますがな。家の中へ入れてやりますと、震えてる。しかし、最初から承知で、向こうへ行ったんですから、仕方が無い。また明日にでも話に行ってやるさかいに、とりあえず、何事も無かったかのように、向こうへ戻りて。そうでないと、キズもんにされたとかなんとかで、向こうの家も面目ない。とりあえずのところ、帰りなさいと諭します。そら『ご尤も』な話ですわいな。しかし、喜ィさんは、怖いので、よう帰らん。「お嬢さん、怒ってまっしゃろなあ。」「そんなことない。お前の帰りを、今か今かと待ってはる。」「わたいの帰りを、どないして待ってはりまんねん?」「首をなごうして、待ったはるがな。」と、これがサゲになりますね。ただ、元来は、「夏は、堪忍しとくなはれ。」「なんでやねん?」「首の出入りに、蚊が入ってしょうおまへんねん。」という、蚊帳を吊って寝ていた時代のサゲでありました。

 上演時間は、十五分から二十分ぐらいですかな。そんなに長いものではありません。寄席向きで、お笑いの多い噺です。冒頭は、養子に行けへんかて。あまりにもエエ条件ばっかりでっさかいに、こら怪しいと思いますというと、やはり一つだけキズがある。『延陽伯』みたいですな。お湯や水飲んだら、ヘソから漏るとか…。言葉が丁寧ではなく、首が伸びるて。これももう、古めかしい話ですかな?でも、ろくろ首の妖怪は、今でも、有名ですけれども。こんなんは、治らへんでしょうなあ。それでも、意を決しまして、後半は、先方さんへ養子に行くところ。挨拶がでけんのは、おもろいですわな。いらんことは、ぎょうさん、しゃべんのに。足に結びました、こよりに、猫がじゃれ付いて、『なかなか・ご尤も・左様左様』と、ここが一番の笑い所かも分かりません。そして、一緒に寝ますというと、案の定、首が伸びる。逃げ出して来て、甚兵衛さんの家へ入れてもらいまして、サゲになると。

 東京でもございます。今ですと、柳家小三治氏なんか、やったはりましたよね。内容は、ほぼ同じような物です。故・五代目桂文枝氏や、桂ざこば氏のものを聞いたことがございます。文枝氏なんか、よくウケてましたね。劇場なんかでは、昔は、やったはったのかも知れません。喜ィさんの、アホぶりがおもろいですわな。昔ながらに、蚊帳のサゲでした。ざこば氏も、やったはりました。おもろかったですけどね。こちらは、分かりやすく、『首を長うして』のサゲでした。近ごろは、あんまり聞きません、どちらかと申しますというと、珍しいネタの部類になってしまったのでしょうか。


<30.3.1 記>


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