特に意味もございません。こんなん、残ってましたわ。『盗人の仲裁』。東京では、『締め込み』ですな。故・八代目桂文楽氏なんかもやってはって、音源は残っておりますけれども、関西のほうは、あまり、有るような無いような…。

 どこにでもございます、コソ泥・空き巣ちゅうのが、お話の眼目でございます。「風呂行ってきまっさかいに、留守お頼みいたします。」と、出て行きました、一人の女。これを物影から見ておりましたのが、空き巣狙い。どうやら、所帯持って、間もないのか、いろんな道具や衣類がある。とりあえず、タンスから。下から開けると、陽がありまっさかいに、見やすいん。一反風呂敷を広げまして、ボツボツ荷物入れていく。ヘコ帯を胴ぐくりに、荷物まとめてしもた。早う出たらエエのに、目が行きましたのが、お膳ごしらえ。お腹が減ってたもんと見えまして、ちょっとご相伴。

 ちぇなことしておりますところへ、亭主のほうが帰って来よった。「お隣りの、すんまへんなあ。」という声で、ここの家の主やなあと感づきました泥棒、逃げようと思いましたが、一方口で、逃げるとこ無い。仕方が無いので、台所の縁の下へ、コソコソと、ちっちょなって、見えんように、入り込む。ご亭主、とりあえず、目に付くのは、大きな風呂敷包み。どうやら、呉服屋の清七でも来て、荷物置いて、遊びに出たのに違いないと察します。それに、お膳が出しっ放しで、かまぼこやみな、半分食いさし。ネズミでも来たんかいなあと、電気をつけて、よ〜く見まするちゅうと、風呂敷やヘコ帯に、見覚えがある。ほどいてみますと、中は、二人の帯やら着物やら。

 こら、どうやら、好きな男でも出来て、亭主置いて、二人で高飛びしようというのやなと、何ともいえん勘ぐりをいたします。そらそうかも分かりません。荷物が大きすぎて、持てんさかいに、相手の男呼びに行ってるんやないかと。亭主のほうは、カンカンになって怒る。ところへ、嫁はん、何にも知らんと、風呂から帰って来る。「この風呂敷包み見てみい!」「また、清八っつぁんが、荷物置いて、出て行ったんかいな。」と、そこは、おんなじ考えですな。しかし、言われて中を見まするちゅうと、うちのもんばっかり。

 こらどうも、女と高飛び…。夫婦共に、そこへ行きつきます。こうなりますというと、お定まりの夫婦喧嘩。お互いに、怪しい所を言い出しまして、亭主のほうは、手当たり次第に物を投げ出す。放った鉄瓶、嫁はんが体をかわしまして、柱へ当たって、縁の下で隠れてる、泥棒の頭に、熱い湯が、ジャバジャバ。こら堪らんと、盗人出てきよって、「あちち!」。「まあ、万さん、放っといとくなはれ。今日という今日は、勘弁でけん。」「まあ、待ちなはれ。」と、慌てて、泥棒が夫婦喧嘩の仲裁に入る。よう見ますると、隣りの万さんやのうて、見ず知らずのお方。表を通りかかったものかと、この盗人に、仲裁に入ってもろたことをお詫びいたします。なんじゃ、けったいな具合でっせ?この風呂敷包みは、この盗人はんが作ったて。「とりあえず、夫婦別れだけは、堪忍しとくなはれ。」て、盗人に仲裁される始末。挙句の果てに、ホンマもんの万さんが、騒ぎを聞きつけて、盗人はんにお礼を言う。ちぇなところあたりで、『盗人の仲裁』お時間でございます。泥棒が、「また、ちょいちょい伺います。」とか、「表から戸締りをしろ」「盗人は、中にいます。」「それじゃあ、表から閉めて。」などという、これぐらいがサゲですかね。ほんに、『締め込み』ですわ。

 上演時間は、十五分から、二十分もありますかな。寄席向きです。いろんなマクラを引っ付けまして、お笑いの多いネタですな。最初は、『花色木綿』などと重複する感じがしたり、最後の騒ぎは、『喧嘩長屋』の風もありますけれども、どちらも、やはり違いますね。夫婦で、それぞれに、順を追って、同じ考えをするのが、おもしろいですわな。こういうのは、一緒に住んでないと、考えが至りません。お互いに、エエ仲の、男とか女が居て、荷物持って、高飛びするて。そして、鉄瓶の湯が熱かったので、慌てて出て来て、仲裁に走る。おもろいもんでございます。現代でも、ありますやろ。

 東京では、さいぜん申しました、『締め込み』の演題で、有名ですかね。上方では、あまり聞きませんが、昔は、時間の調節が出来るので、ちょいちょいありました。故・五代目桂文枝氏や、故・桂文紅氏なんか、やったはりましたな。文枝氏も、お笑いの多いネタで、よくウケておりました。花月なんかでは、時折、やったはったんでしょう。文紅氏も、おもしろかった。力の入った感じではなく、普通にしゃべって、おもろいというような。今でも、おんなじような話、ありませんか?私の知ってる人で、ある日、会社から帰って来たら、奥さんの荷物無くなってて、離婚しはった人…。


<30.5.1 記>


トップページ