ソルトレーク冬季オリンピック、いやあ、楽しませてもらいましたなあ。みなよう頑張らはりましたわ。そやけど、夏のオリンピック以上に、日本人選手の茶髪が目立ちませんでした?これも時代の波ですやろか。まあ、そんな話はどっちでもエエとして、残念ながら日本は金メダルが一つも取れませんでしたな。そこで、せめて話の中にでもと思い立ちまして、今月は金メダルの金ということで、『黄金(金)の大黒』を選びました。

 とある長屋での出来事。家主さんから長屋のもんが集まって来てほしいとのお達し。さあ、そうなると、何でみなが呼ばれたんか分からん。ある人が、“そら家賃の催促やないか。”と言い出します。と、これから家賃を払うてるかの尋ね合い。“家賃のこといわれると、ツライ。”“うちの親父の遺言で、払うたことはない。”やとか、“家賃てなもん、もろたことがない。”という始末。おもろいもんでんなあ。今やったら、家追い出されまっせ。この部分、『貧乏花見』のマクラなんかによく使われてますよねえ。

 そうこうしているうちに、何で呼ばれたんかを家主さんに聞きに行った人が帰ってきますわ。家主の坊ちゃんと長屋の小倅(せがれ)とが、質屋の蔵の横手で砂なぶりをして遊んでいると、何か手にあたるものがあって、掘り出してみると、これが金の大黒さんだったので、それを祝いに長屋一統に一杯飲んでもらおうということ。こら一杯飲めると大喜びしますが、やっぱり儀式のもんで、羽織を着て挨拶をせなアカンということになります。“羽織て何だす?”と羽織を知らんやつがいてるわ。“そら言うたれんわ。この長屋、羽織着て入ってきたら、犬が吠え付く。”て、そんなアホな。中にまた、小紋の紋付の羽織を持っている人がいるので、持ってきてもらうと、これがエライもんや。汚〜いし、ネズミにかじられて紋が抜けてるわ、おまけに臭い。聞くと、質屋に質入しようと持っていったが、蔵に入れると、他の品物にニオイがつくさかいに、持って返ってくれと、十銭もろて帰ってきたとのこと。そらそやわ。ほんで、この羽織一枚でどないすんねんというと、まず一番手がこれを着て、家主さんとこで挨拶をする。ほんでまた、外へ出てきて、羽織を脱いで、次の人へ。次の人がまたこれを着て、挨拶をする。また次の人へ…、と順々に羽織を着て挨拶をすることとなります。

 ごじゃごじゃいうてるうちに、まずは一番手。そこそこの挨拶ができる人が見本にと、家主さんの家へ。なかなかの口上で、“上がっとくれ”と家主さんに言われますが、羽織の件があるので、上がるわけにはいきまへんわ。“表の共同便所から来てくれいわれてますのんで。”てなこと言いながら、なんとか外へ。代わって次の人。“こんにちは、結構なお天気さんでござります。明日もエエ天気で。あさってあたりは危ない。”やとか、“承りますれば”がなかなか言えないという調子。おもろいとこですけど、ま、これは落語の口上にはようある手ですな。『祝いのし』とか『くやみ丁稚』やとかねえ。ほとんど口上を言えないままに、外へ出て次の人へ。次の人は、“こんにちは”“さいなら”と出てくる。見かねて家主さんが、皆を呼んで家へ上げますわ。

 お家の中でも長屋の連中、じっとしていませんわ。“何かうちの子が悪いことしてたら、遠慮なしに叱っておくれや。”と家主さんが言うと、中にはこの前に一回怒ったというやつがいてるわ。朝、寒いので、とんと(どんどともいいますな、ま、焚き火と思うてもろたらよろしいかなあ)いこして、火に当たってたら、ボンボンがきて、“おっちゃん、火消したろか。”と言うので、“消せるもんやったら、消してみい。”と言ったとのこと。すると、ボンボンが小便で消したので、怒ってゴンゴ〜ンと。“何をすんねんな。大人の手やがな。”“いやあ、そばにあった金槌で…。”て、子供エライことなりまっせ。そうかと思うたら、ボンボンにリンゴあげてるやつがいる。しかし、聞いてみると、大黒さんの前にお供えしてあったもん。そら、ここの家のもんやがな。

 というてるうちに、お膳の用意ができますわ。この宴会でも、長屋の連中、おもろいでんなあ。いろいろとやらかしますわ。この辺は、これといったきっちりとしたものがあるわけでもないみたいで、演者によって多少異なりますな。寿司を配るといいながら、寿司がこけたと自分一人で食べ出すやつとか、豆を手に乗せて、ポンと手を叩いて、箸を使わずに豆を食べて、鼻の中に豆を詰まらせたり、鯛の塩焼きを売りつけようとするもん、いろいろいてますわ。中でも、だいたいの演者は、コノワタ食べる様子を見せますな。コノワタて、ナマコのはらわたの塩辛ですな。高級な珍味で、恥ずかしながら私も、まだ食べたことおまへんねん。これを箸でつかんで、食べてる最中にくしゃみをして、鼻からコノワタが出てきますわ。で、出てきたコノワタをもういっぺん食べなおすと。見てるとおもろいもんでっせ。

 飲んだり食べたりしているうちに、皆が踊りだしますわ。下座からお囃子が入って、“豊年じゃ、豊年じゃ。百で米が三升じゃ”と歌い出します。これを聞いた床の間の大黒さん、スーッとお立ちになって、表へトコトコトコ…。これを見た家主さんが、“どちらへ?”と聞くと、“百で米が三升じゃというとるんでな、あんまり安うならんうちに、足に踏まえてる二俵を売りに行こうと思うて。”、または、“あんまりおもしろいんでな、わしも踏まえてる二俵を売って、割り前出して仲間に入れてもらおうと思うて。”と、このあたりがサゲになります。つまり、“百で米が三升”というてるのんを聞いて、米売りに行こうと思わはったんか、長屋の連中の仲間に入りたかったんでしょうかなあ。なんとも滑稽な様子ですな。しかし、他にも、“あんまりおもしろいんでなあ、連れの恵比寿も呼びに行くんじゃ。”というのでサゲている方もおられます。おなじみの七福神、中でも仲がエエといわれる恵比寿さんを呼びに行くという、これもおもしろいサゲですな。“恵比寿や弁天も…”としているものもありますが、やはりどちらかというと、弁天さんは入れずに、大黒さんだけの方が、内容的にもゴロにしても、私はイイと思います。私個人としては、サゲの言葉数が少なくて、かつ、現代でも分かりやすいので、本来ではない、恵比寿さんのサゲの方がすっきりとしてよいと思っています。おそらく、このサゲの方が、今後は主流になってくるのではないかと思いますねえ。しかし、このサゲにすると、サゲ前で“米が三升じゃ…。”というお囃子を入れる必要性は、全くなくなってきますわな。“仲間に入れてもらおうと思うて”のサゲでも、必要ありません。でも、もともとある“ハメモノ”のネタから、“ハメモノ”をはずすのは、上方落語としては、非常に惜しい感じがしますので、やはり、そこの所は残しておいて欲しいものであります。

 上演時間は三十分前後でしょうか。ただし、最初の家賃の相談の部分や、挨拶・宴会の件りなどを多少コンパクトにまとめていけば、二十分以内にもできるネタであります。とにかく、最初から最後まで、全編通して笑いの多いネタでありまして、どこをとってもおもしろいのでありますが、特にといわれると、言葉では挨拶の口上を詰まりながら述べるあたり、しぐさではコノワタを食べるあたりでしょうかねえ。暗い所が一つもなく、人間もたくさん出てきますので、ご陽気で、ほん楽しいネタでありますね。

 東京でも結構と演じられる方が多く、あっさりとしていて、なかなかいいものではあるのですが、やはり、このネタに関しては、私としては、上方式に丁寧にじっくりと積み重ねて笑いを取っていくほうが好きなのであります。このネタ、実は初代桂春團治氏の十八番ネタとしても有名なのでありまして、SPレコードにもなっております。このレコードを幼少の頃の笑福亭仁鶴氏が買い求め、落語が好きになってしまったという、思い出深いネタらしいですなあ。で、何回も聞いているうちに、憶えてしまって、いろんな素人の参加番組に出始めはったらしいですわ。縁とは不思議なもんですねえ。先年、春團治氏の落語をしているときの映像が発見された折、映っていたのは、このネタの中のコノワタを食べている所でありました。この映像を見たときに、仁鶴氏は“黄金の大黒やなあ。”と、うれしそうに言っておられましたなあ〜。

 所有音源としては、故・三遊亭百生氏、故・桂小南氏、笑福亭仁鶴氏、月亭八方氏、桂小春團治氏、他に、桂文華氏などのものを聞いたことがあります。百生氏のものの中では、“きんのだいこく”と同時に、文字通りの“こがねのだいこく”とも発音されておりますが、これは口上を述べるときの、“黄金餅、あんころ餅、安倍川…”という餅づくしのギャグにするためのものと思われます。また、サゲ前の歌の文句は、“米が一升三十銭”となっています。内容では、挨拶の件りがおもしろく、何回もあの独特のガラガラ声で、“こんにちは”というのが耳について離れません。また、声だけで見たことがないので、はっきりとはいえないのですが、豆を食べるしぐさがうまかったらしく、この部分で大爆笑をとっておられます。非常におもしろい、この方に合ったものでありました。小南氏のものは、大黒さんを“金ムク”と言っておられて、家主の坊ちゃんを叱る所では、その理由をとんとではなく、弁当をドブに捨てられたとされています。内容は、挨拶の“承りますれば”の“うけたま”のところで、家主さんの家の“たま”というネコが、自分の名前を呼ばれたと思って、何回も“ニャーオ”と鳴くところがおもしろく、この方も、豆を食べる所で笑いを取っておられます。しかし、この豆を鼻に詰まらせるのは、与太郎で、喜六ではないのでありまして、東京式の人名になっています。また、サゲ前の歌は入っておらず、“割り前を出す”のサゲになっています。仁鶴氏のものも、“こんにちは”“はい”が何回も出てきておもしろく、丁寧に一つずつ笑いを積み重ねていくという、やはり大爆笑なのであります。しかし、仁鶴氏はこのネタを大事にされているためか、最近は、そんなに数多く上演されていないようですな。月亭八方氏のものも、そら大爆笑の渦ですな。長屋の住人の描写がいかにもうまくて、羽織の紋に貼ってある新聞の記事が、タイガース十連敗やとか、サゲ前に六甲おろしを歌いかけるなんかいう、阪神ファンならではの、関西人としては、腹を抱えて笑えるものでした。サゲは、本来のサゲと、恵比寿さんのサゲ、両方使っておられるみたいであります。小春團治氏の、あのねばっこ〜いしゃべりの挨拶も、なかなかおもしろくって、よろしいなあ。また、文華氏のものも、大変に人物描写がうまく、たくさん笑いを取っておられましたねえ。

 とにかく、おもろいネタでんなあ〜。私は大好きなんですわ。落語を聞いたことない人でも、十分に笑えると思いまっせ。今、現在の時点で聞くのであれば、八方氏のがオススメ!

<14.3.1 記>
<以降加筆修正>


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