随分と涼しくなりました今日この頃、いかがお過ごしでございましょうや?って、別にこんなこと、今さら言わんでもエエんかもしれませんけど。ところで、この前、別に何の前ぶれもなく、ふとした時に、頭の中に、みょ〜うな歌が思い浮かんできたんですわ。“待てば海路〜の〜、飛んで火に入る〜夏の〜虫〜。”て、何の歌やろ?そうそう、『道具屋』の中に出てくる歌ですわ。しかも、仁鶴さんの。で、今月は、その突然思い出しました『道具屋』をお届けいたしましょう。
毎度おなじみ、おもろい主人公が、叔父の佐兵衛さんに呼ばれて、その佐兵衛さんの家へやってくるところから、話は始まります。今日はちょっと金儲けをさしてやろうという魂胆。おっさんの副業・内職というのは、頭に“ど”のつく商売。って、泥棒やおまへんで。道具屋。道具屋いうても、店構えて商いしたはるんやのうて、縁日や夜店なんかに出たはる古道具屋はんですわ。骨董品というほどのたいそうなもんではなく、まあちょっと古めかしい道具類を売ったはるやつですな。私、京都に住んでますけど、東寺の弘法さんやら、北野の天神さんの縁日なんかで、結構よく見かけますわな。五つ玉のそろばんやら、ランプやら、そば猪口(ちょこ)やら、一見すると、なんじゃガラクタと見分けのつかんもんもありますわ。
なんじゃかんじゃ言いながらも、まずは何を売るかをおっさんが教えてくれます。風呂敷包みを開けると…。これがホンマのガラクタばっかり。火事場の焼け跡から拾うてきたノコギリ。切れるかどうか分からんて。ボラがそうめん食うてる掛軸…。やのうて、鯉の滝登り。そこで、主人公の思いつき、鯉をぎょうさん捕まえる方法。橋の上からバケツひっくり返して水流すと、これに鯉が登ってきてバケツの中へ。って、そんなアホな。『商売根問』やがな。ま、この他にも、芝居やなんかに使う、形だけの短刀、首の抜けるお雛さん、パッチやとか靴下、笛や太鼓なんか、さまざまですわ。そして、それぞれの仕入れ値が書いてある元帳をもらいます。古本の本屋の善さんが元締めみたいなもんなんで、その人に話をしてあるさかいに、本屋の善さんに場所割やらなんやらを聞きなさいと言われながら、いよいよ出発。大丈夫かいな?
やってまいりましたところ…、って、演者によって、この場所設定は、結構まちまちで、一定していないようで、阪町やら玉造やら…。“本屋の善さんはどなたです?”と主人公が聞くと、“頭の後ろにハゲがある、あの人や。”と教えられ、ハゲを十二分に確認して、本屋の善さんに事情を話します。て、失礼な話やで。ハゲで分かるて。ちょっと来るのが遅かったらしく、元々の場所を他の人に当てたので、残っているのは、公衆便所の隣ぐらいしかない。しょうがなく、風呂敷包みを解いて、さっそく店出し。値段の高いもんは、持ち逃げされたら困るので、手元へ置いて、目立つもんを最前列に置いて…、などといろいろと教えてもらいますな。ジーッと待つのんもおもろないんで、威勢よく、“いらっしゃい。出来立ての道具屋、新しい道具屋。”って、古道具屋やがな。
と、言うてるうちにお客さん。“ずっとお入り。まあ、お掛けやす。”て、どこへ入って、どこに座んねん。露店で。“ノコ見せて”と言われても、ノコが何のことか分からん。“のこにある”って、えらいシャレや。ノコいうたら、ノコギリのこと。“ノコ言うて、半分しか言わへんさかいに分からん。人間、ギリ(義理)欠いたらいかんで。”って、言うことだけは一人前や。ところで、昔、ドリフターズの大工さんのコントで、“ノコ一丁”とか、よう言うたはりませんでした?いかりや長介が。ほんで、長い材木を担いできた志村けんが、振り向いて、材木の端が加藤茶に思いっきり当たるいうやつ。なつかしいな〜。ま、話は戻りまして、お客が“焼きがあまいなあ。”と言うと、“あまいことおまへんで。火事場で拾うてきたんやさかい。そんなもんでも、油塗って、柄つけ替えたら、どこぞのアホが買うやろう。”って、お客、怒って行ってしまうわ。店出してる、隣のおっさんが、これを見て、“ああ、小便された。”つまり、見るだけで、買わんと行ってしまう、ひやかしを、道具屋の符牒で小便といいまんねんな。
“短刀見せてくれ。”というお客もいる。“銘はないのか?”“いや、いてまっせ。天下茶屋に姪がひとり。”って、その姪と違うがな。お客は、中がどんなんか見たいので、引っ張ってみますが、鞘から抜けない。片方を主人公の道具屋に持たせて引っ張るけど、抜けへん。よっぽどサビついてんねんなあと思うと、これが木刀。はじめから言いや。今度は、“抜けるもんはないんかいな。”と言われて、“お雛さんの首が抜けます。”って、またお客行ってしまうた。小便や。もう今度は、最初から“小便できまへん”と断ったらと思うてるところへ、また次の客。パッチを見せて欲しいと。“小便できまへん。”と言うと、“できそうに見えてるけどなあ。小便できひんにゃったら、買うてもしょうがない。”と、また行ってしまいます。って、その小便と小便が違いますがな。ま、この辺の主人公の道具屋はんとお客さんとのやりとり、演者によっていろいろと演出が違いますので、一概には言えませんが、だいたい、このノコギリと短刀とパッチの件りは出てきますな。
次は、笛を見せてくれというお客が来ますわ。エライほこりで、しかも何ぞ詰まってると言いながら、笛の中へ指入れて、詰まってるもんを出そうとしますが、なかなか出ない。と、そのうちに指抜けんようになってしもうた。こらエライこっちゃ。誰しも、こんな覚えありませんか?指輪が抜けへんようになってしもうたり、太ったはる方やったら、ユニットバスの浴槽から出られへんようになったり…。主人公も、商売でっさかいに、金づちで割るとか何とかしてもろたら困る。買うてもらわなかなん。お客の方も、そんなに高いもんやないさかいに、ちょっとぐらいやったら買うてしもうてから、何とかして抜いたらエエわいなあと観念する。すると、主人公、帰りに一杯飲んで、土産も持って帰りたいと、元値が十五銭の笛を三円ぐらいに言いますわ。そら、えげつない高いわ。そこで、お客も、“そんな人の足もと見やがって。”と言うと、主人公が、“いいえ、手元を見ております。”と、これがサゲになります。もうお分かりですわなあ。お客さんが、“足もと見やがって。”と言うと、主人公も、笛からお客の指が抜けへんのを見ているために、“手元を見ております。”と言ったんですな。分かりやすいサゲですわな。ま、他にもサゲはありまして、最終的に、主人公が笛の売れたお金で“家、買いたい”と思うているところで、お客が笛を持ち逃げしたので、“ああ、家、盗まれた。”とか、この笛から指が抜けて、主人公が、“負けます”と言うと、お客が、“指が抜けたら、もうエエわ。”とか、お客が持ち合わせがないので、“家へ来てくれ。”と言われ、指に笛ををつけたまま、お客の家までついて行った主人公、なかなかお客が家から出てこないので、表の格子の間に首を突っ込んで中を見ようとすると、今度は、首が取れなくなるので、主人公が、“この格子はいくらです。”というのもあります。また、笛のところだけでなく、鉄砲の問答で、鉄砲の音でサゲたり、小刀の問答で、“先が切れなくても、元が切れます。”などのサゲもあり、別に一定したものがあるわけではないと思います。しかし、上方では、ほとんどが、この“手元…”のサゲが使われていまして、私も、上方ではこのサゲのものしか聞いたことがありません。内容からいっても、分かりやすさからいっても、このサゲが一番よいのではないでしょうか。
上演時間は、十五分から二十分ぐらい、どちらかというと、そんなに長くならないほうがよい、寄席向きにはピッタリのネタでしょう。全編通して笑いも多いですしね。やはり、笑い所としては、後半のお客さんと主人公の道具屋はんとのやりとりですよね。とぼけた会話の味もさることながら、ノコギリを手にとって見たり、短刀を引っ張ったりするしぐさも含めて。特に、最後の笛のところで、なんじゃかんじゃいらんこと言いながら、指が抜けへんようになってしまう瞬間の間なんかもねえ。そして、その中に、ちょこちょこ入ってくる、隣に店出してるおっさんが、なかなかエエ味出してまんな。この茶々の入ることによって、お客さんと主人公のやりとりが、よりいっそうおもしろくなっていますしね。このネタ、前座ネタとして有名なのではありますが、このお客さん、それぞれの描き分けなんかは、簡単なようでも、なかなか笑いのツボの持っていくところが難しいような気もします。とにかく、前半の佐兵衛さんとのやりとりがしっかりしていればこそ、後半の笑いがより大きく感じられてきますな。この後半のお客さんと主人公とのやりとりは、広げようと思えば、もっと広げられると思いますが、ある程度の、ほどほどにしておいた方がイイような気もします。あんまり、しつこくなりすぎない程度に。
所有音源は、笑福亭仁鶴氏。他にも、上演頻度が多いので、たくさんの方のを聞いたことがあるんですが、とにかく、所有音源としては、仁鶴氏のものしかないんですわ。ほんでまた、私の頭の中に深く残っているのも、仁鶴氏のものなんです。もう始めから、なぜか笑ってしまうんですよ。あのとぼけた主人公の味がね。アホ役にピッタリとハマッてましてね。前半の佐兵衛さんとのやりとりでは、『商売根問』の伝書鳩売りの話も入っていて、しっかりと十分に演じられていますし、後半のお客さんとのやりとり、隣の店のおっさんのツッコミ、絶妙の間で、笛から指が抜けなくなるあたり、どれを取っても、とにかく笑えてきますねやわ。
ところで、指の抜けなくなった、このお客さん、この後、どないしはったんやろ?やっぱり、お金払うて買うてから、笛を割るとか何とかしはったんやろか?そういやあ、ちょっと前に巨人の上原が、ナビスコのポテトチップス・チップスター食べてて、手が筒に入ったまま抜けへんで、筒持ったままユニフォーム着て、マウンド上がって、ボール投げてるいうコマーシャル、ありましたなあ…。
<14.9.1 記>
<以降加筆修正>
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