アテネオリンピック、いやあ、感動いたしましたなあ。オリンピックは、いつ見ても、心打たれる物語がたくさんに隠れております。ほんでまた、今回は、日本がたくさんメダル取りはった。特に、金メダルね。柔道やら水泳、体操やら。ということで、今月は、そのアテネオリンピック開催を記念いたしまして、金つながりの、『狸茶屋』を。元来は、この話、『金玉茶屋』と申しますのん。それでね。私も個人的に、『金玉茶屋』の名で看板を上げたいんですが、公衆の面前といわれる、このネット上で、“金玉”の名前を全面に押し出すと、サーバー元のヤフーさんからも、クレームが来たらかなんので、泣く泣く、『狸茶屋』の名前で。でも、『金玉茶屋』ですよねえ…。
主人公のある男、なじみのお茶屋はんへとやってまいります。このお茶屋はんというのは、舞妓はんやとか、芸妓はんやとかのお茶屋遊びのほうとは違いまして、女郎買いのほうのお茶屋はん。これも、見世で、照らしというて、表から見える所で女の人を選んで上がるのと違うて、送りで、お茶屋はんに呼んでもろうて、事を成すというほうのお遊び。つまり、なじみの女の人を呼んでもらうとか、初めてでも、顔を見ずに、お茶屋の女将さんの裁量で、選んで来てもらうというもの。でっさかいに、女郎買いといえども、そんなに下等な遊びでもなく、中流以上のもんですな。大阪でたとえていうと、飛田や松島なんかやのうて、ミナミやとか新町ぐらいの程度。って、知らん人は、よけ分からんてか。かく言う私も、昭和三十三年以前に生まれてもしまへんのでねえ…。
とりあえず、ここのお茶屋の女将さんとのやりとり。このお客さん、一名、“ほうきさん”といわれてるとのこと。つまり、あっちこっちで、いろんな女の人を買わはるさかい。相手が一人と違うて、色々と変えはると。ほうきの細長い形と、先の開けた形なんかがね…。しかし、この主人公、今日も、また前と違う人をと。女将さんが言うには、この前の妓も、良かったんで、また来はったら、知らしとくなはれ、呼んどくなはれて、言うてたて。そやけど、この人、二度と同じ妓はアカンねて。その訳ちゅうのは、人に言いにくい恥ずかしいこと。それは、つまり、子供時分から、脱腸やと。あの激しい最中に、腰振ってて、腸出てきたら、そらかなんわ。笑われもするしね。今やったら、治療で治りますけど、昔やったらねえ。そういう理由やったらと、女将さんは、また違う妓を呼びにやります。
二階へ上がりますと、いつもの間に用意がしたある。“どんな女が来んねやろ?”と思いながら、座布団に座って待ってるのも、照れくさい。というて、先に布団入っとくのも、何じゃ、せからしい思われると、かなん。と、色々と考えて、いっそのこと、先に寝てしまおうと、いびきかいて寝たふりをして待ってます。そこへやってきたのが、今晩、相手のおやまはん。娼妓さんですな。下で、女将さんとしゃべってる声が、ちょっと聞こえてくる。それから、二階へ上がってくる足音。これ聞いてると、どんな女かいなあという期待と興奮が満ちてきて、いっそう高いびき。座敷の襖を開けて、『今晩は。おおきに。』入ってきた、入ってきた。
これ聞くと、またいっそうの高いびき。女が見ると、お客さんは、よう寝たはる。階下の女将さんに聞くと、さっき来はったとこやて。その割りによう寝たはる。よっぽど疲れたはんねやわ。と、傍へ寄って起こしにかかると、いびきかきながら、顔は笑うてる。夢でも見たはんのかいなあと思うと、これも違う。『ああ、分かった。お客さん、狸でっしゃろ?』『あっ、わいの大きいのん、誰に聞いてん?』と、これがサゲになりますな。おやまはんは、“狸寝入り”の意味で、『狸ですか?』と聞いたんですが、お客さんのほうは、金玉が大きいという意味の狸と間違うて、それで、『大きいのん、誰に聞いてん?』と答えたということですな。狸の金玉、八畳敷きいうてね。今でも、信楽焼の狸なんか見てるとね…。意表をつかれますが、ちょっとエロチックなサゲでございますかな。『狸の化寺(化寺)』なんかにも、この意味が使われておりますが。
上演時間は、十分前後。話の内容自体ですと、五分ぐらいなんですが、ちょっとしたマクラをつけて、一席物となっていますね。土台が小噺程度のものですからな。しかし、ちょっとサゲがバレかかっておりますので、通常の寄席では、そんなに演じられておりませんな。今やったら、これぐらいで、別に文句いわれることないんでしょうけど、言論の厳しかった時代ではねえ。ちなみに、バレちゅうのは、バレるという意味で、エロチックなということですわ。話自体が別に、おもろいとか、筋があるとかいうようなものでもなく、爆笑できるものでもないのですが、小品で、昔の女郎買いの模様が、少し垣間見られるという、粋なもんですな。主人公は、そんなに人品賤しいわけではない、中流の方、女将さんは、いかにも色街の女将という、色っぽいところもあるというところですかな。おやまはんも、そう下等ではなく。
所有音源は、故・六代目笑福亭松鶴氏のものがあります。有名な、ABC朝日放送の『1080分落語会』の時の模様のものもありますが、おもろいもんですな。特に、主人公の男が、松鶴氏自身のように思えて。その割りに、女将さん、おやまはんのほうも、いかにも色街の女性という風で。メリハリがあって、イイもんです。ところで、私は、松鶴氏以外で、このネタを聞いたことがないので、ハッキリとは断言できませんが、おそらく、もうちょっとエロいもんなんでしょうなあ。つまり、放送に乗ったり、音源化される可能性があることから、松鶴氏自身は、この程度に抑えられていたものかも知れません。また、実際に語っておられるのであれば、カットされているはずであります。ですから、演題も、『狸茶屋』となっているんですな。そら、『金玉茶屋』では、公然とレコード屋さんでは、売れしまへんやろ。で、思い出しましたが、SPレコードでは、たしか、故・立花家花橘氏で、『狸茶屋』があったと思います。残念ながら、中身は聞いておりませんので、詳しくは分かりませんが、多分、それにならって、この松鶴氏口演のものがレコード化される時にも、『狸茶屋』の名前が使われたのではないかと推測されます。
本文には、松鶴氏のその時のものを参考に述べさせていただきましたが、少し不自然に思われる所がある方もおられるかも知れません。それは、女を変える理由が脱腸であるということ。サゲの金玉が大きいことからすると、当然、ここは、病気でないにしても、金玉が大きいためとか、チ○ポが大きいためとかの理由でなければ、相手の女の人がつとまらないことにならないのではないかと…。
と、書きましたところ、ご愛読の方から、脱腸で、金玉が膨れ上がるとのご指摘をいただきました。誠にありがたいことですなあ。真剣に読んでいただいている方がおられるので。ですから、ここも、無理がないわけなんですと。脱腸で、十分なんですわ。私は、長年、苦しまぎれの置き換えかと、思っておりましたので。ホント、何事にも、勉強ですな。
しかし、こんなことで、大いに議論できるなんて、日本は平和なんやろか?特に関西は。こんなネタ、上方でしかやられてへんの違います?
<16.9.1 記>
<19.7.1 最終加筆>
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