新年、あけまして、おめでとうございます。旧年中は、いろいろとお世話になりましたが、どうぞ本年も、この『上方落語のネタ』をよろしくお願い申し上げる所存でございます。平成十七年、2005年、今年は酉年でございますねやが、鳥の出てくる話も、いくつかございます。その中で、『鷺とり』をご紹介いたしましょう。

 あいも変わりません、ぶらぶらしている男、ちょっとした知恵者の家へ上がり込む所から話は始まるという、最もオーソドックスな型。聞いてみると、もっか居候。米屋の払いもせん。しかし、金儲けは考えてるて。鳥とり。こぼれ梅と南京豆で、雀を獲ろうとしたんやが、失敗。梅の古木になりすまして、鶯獲ろうというのも、失敗。この辺は、『商売根問』と一緒、というか、この『鷺とり』の導入部に、『商売根問』が付けられているということですな。『稽古屋』と『色事根問』みたいなもんで。

 今度は、鷺は、どやと。鷺がドジョウかなんかをついばんでる所へ、後ろのほう、遠い所から、「さ〜ぎ〜」と呼んでやる。すると鷺は、誰か呼んどるけど、まだ、だいぶ遠いなと、またドジョウをコツコツ。もうちょっと近くへ寄って、さいぜんより小さい声で、「さ〜ぎ〜」。つまり、だんだん近づいてはいるけど、遠ざかって行くような錯覚を、鷺に起こさせる。安心して、コツコツやってるうちに、後ろから、ガバッとつかまえる。て、そら、やっぱりアカンで。しかし、鷺も、たくさんいてる所へ行かな獲れん。北野の円頓寺を教えてもらいますが、昼動いてたんではいかん。夜に寝てる所へ。そない、うまいこといくのかいな?

 夜になりますと、この男、萩でも有名だった円頓寺へ。何べんも言いますけど、私は、大阪に不慣れなんで、あんまりようは知りませんねやが、今でもございますそうで、昔は、湿地であった、梅田の近辺やそうですから、池や沼もあったんでしょうねえ。門は閉まっておりますので、辺りを見回すと、昼間、仕事をしていた左官屋さんが、ハシゴを忘れて、立てかけたある。これを塀へかけまして、上へのぼり、境内の墓石を踏み台に、中へ入ります。鷺という鳥は、大変用心深い鳥やそうで、集団でいますと、必ず一羽が寝ずの番をしていると申します。しかし、この日に当番になったもんが、エエ加減なやつで、皆と一緒に寝てしもてる。そうなりますと、もう主人公は、アホほど獲れる。つかまえた鷺の首を取って、自分の帯へ差し込んでいく。体のまわり、鷺だらけ。

 もうこれまでと、墓石を足場に、塀の上へのぼったんですが、拍子の悪い、さいぜんのハシゴを、寺男かなんかが持って行ってしもた後。ウロウロしてるうちに、ぼちぼち東の空が白みかけてきた。鳥というものは、総じて、朝の早いもんで、帯にくくりつけたある鷺のうち、一匹が起き出しよった。どうも声が出えへん、様子がおかしいと見てみると、人間につかまってる。帯に挟まってる仲間を起こして、主人公に悟られんように、一斉に飛び立とうやないかという算段。こら、エライことになったで〜。“ひぃ、ふ、の、みっつ。バタバタ、バタバタ。”と太鼓の音を道連れに、中天高く舞い上がった。獲れる時は、いとも簡単で、帰りにエライ目に遭うという、ほんに詐欺に遭うたようなもんで…。て、そんなシャレ言うてる場合と違うで。しかし、気持ちエエやろね〜。

 何ぞつかまるもんはないかいなあと思うてる所へ、目の前へ、長〜い棒が見えた。これ幸いと、主人公は、この棒につかまって、帯の間の鷺を放してしまいます。と、これで解決やおまへんで。ここどこ?ふっと見ると、生駒の山に、天王寺さんの西門・石の鳥居…。って、この人、天王寺の五重塔の上の、九輪につかまってまんねや!どないして降りはんねん?

 さて、昔、大阪の七不思議に、“玉江橋から、真南に天王寺さんの五重塔が見える”というのがあったんやそうです。堂島川にかかってる、玉江橋から。そこへ、ちょうど通りかかった人が、五重塔の上に、なんじゃ変なもんが引っ付いてんのを見つけたん。こら、何ぞ、天王寺さんに変が起こったんやないかと、「えらいこっちゃ、えらいこっちゃ」言いながら、天王寺さんへさして、走り出します。おなじみ、『韋駄天』が下座から入りますな。走り出す人も、だんだん増えてきて、途中で会う人も、何があったんか聞き出す。また、この返答がおもしろいん。天王寺さんのぼんさんが、お見合いして、結婚することになったが、このぼんさん、勉強しすぎて、目が悪い。見合いの時に見た顔と、結婚する時の顔が違ういうて、花嫁の首絞める。近眼坊主の首絞めながら…。て、そら金襴緞子の帯締めながらや。天満の牢から罪人が牢破りした。差し入れのスルメで、板切って、板切りスルメ。そら、舌切り雀やがな。と、この部分は、演者の創作仁輪加ですな。時代やなんかでも変わってきますし。まあ、三つぐらい出ますかな。

 こんな人がたかってきまっさかいに、天王寺さんの境内は黒山の人だかり。お寺のほうでも、放っておくわけにはいかん。人を救うのは、出家の仕事じゃと、大きな布団を出してきた。こら、やっぱり、僧堂なんかで、いっぺんに何人か寝られる布団が、昔からあったんやそうで。その四隅を一人ずつ、計四人のぼんさんが、持ってる訳ですな。つまり、これをクッションにして、上から飛べと。主人公も、下見ると、ぎょうさんな人。それに布団が出て、のぼりが出てきた。“これへとへすくふてやる”。“これへ飛べ。救うてやる。”ちゅうことですわ。そんなら行くで〜、ひぃ、ふ、の、みっつ、と飛んだ。下では、ぼんさんが、人を救うのは出家の務めと、救うたのは救うたんですが、なんと、エライ勢いで降りてきたもんでやっさかいに、四隅のぼんさんが、頭をコツコツコツコツと打ってしもた。一人助かって、四人死んでもた。と、これがサゲになりますな。つまり、人を救うのが出家の道なんですが、一人助けたために、四人死んでしもたという、逆説になったというのがサゲなんですわ。ま、もちろん、あんまり、エエ感じで終わりませんので、他にも、いろいろとサゲが作られております。四隅のぼんさんが、必死で布団を持ってたんで、主人公が飛び降りた拍子に、トランポリンの要領で跳ね上がり、元の九輪をつかんで、サゲになるとか、無事に飛び降りましたと、サゲをつけないなんか、工夫されておりますな。ま、私も、どちらかというと、元の九輪へ戻ったというぐらいのサゲのほうが、イイのではないかと思いますねえ。ちょっと残酷ですもんな。

 上演時間は、二十五分位から三十五分前後、と申しますのは、前半の『商売根問』の部分を、どれだけやるかにもよりますのでねえ。しかし、たっぷりと聞かせていただくほうが、値打ちのあるネタではありますな。笑い所も多いですし、しぐさ・ふりも多く、にぎやかなネタであるという感じはしますね。前半の、鳥とりの話は、前述のごとくですが、かなりよく出来てますよねえ。初めて聞いた時は、腹かかえて笑いましたもん。中盤の鷺を獲りに行くところ、ここは、案外うまく、すんなりといってしまう。その代わり、後半に、どエライ目に遭わんならん。ま、この鷺を帯の間へ挟むまでは許せても、飛んで行って、五重塔の上へて、これまた大胆な発想ですよねえ。スケールの大きな話で。昔の人て、やっぱり、空飛ぶ夢があったんやろか?でも、皆様方、いっぺんは、こんなん、やってみたいと思いません?ちゃんと、降ろしてもらえればの話なんですが…。

 仁輪加の部分、演者によりけりの、全くの創作なので、私も、この部分だけは、故・桂枝雀氏が、勝手に作って、挿入してはったんやとばっかり思っておりました。しかし、お古い所の、故・初代桂春團治氏の口演による速記本なんか見ますると、もうすでに載ってましたわ。春團治氏が創作しはったんかどうかは、知りませんけど。心中と、敵討ちの仁輪加で。ちなみに、このSPレコード版をおこしたものでは、鷺を獲りに行くのが、茶臼山の正念寺の門の上で、ハシゴは持参ですな。現代の趣とは、またちょっと違いますけれども、おもろいもんですわ。

 東京では、『雁とり』『雁つり』などという題で、不忍池(しのばずのいけ)に雁を獲りに行き、最後は、布団の上に火口(ほぐち)を置いて、真ん中の目印にして、主人公を飛ばせ、ぼんさんの頭が当たって、火が出て、その火口に火が付いて、主人公が焼け死んでしまうというものらしいです。私も、実際には、聞いたことございません。間違っていたら、ごめんなさい。あんまり、演じられてもいないみたいですがね。

 所有音源は、さいぜん申しました、枝雀氏、桂雀々氏、他に、桂む雀氏のものを聞いたことがありますし、桂吉朝氏のものも見たことがあります。枝雀氏の十八番でありましたな、このネタ。お好きな方も、大勢おられたと思います。あの何ともいえん、アホらしさがね。特に、仁輪加作りながら、走って行く、息というか、間というか。客席と一体になれば、『韋駄天』囃子と、お客さんの手拍子が一緒になることなんかも、ありましたし。このネタが、息を吹き返したのも、枝雀氏によってではないかといわれても、過言ではないと思いますわ。金メダリストの森末慎二氏が、このネタを初めて聞いて、それから枝雀ファンになったという逸話も残ってますし。あの、九輪にしがみついてる姿、今でも目に浮かんできますな。サゲの部分、大昔は、四人死ぬほうも、使っておられたようですが、近年は、元の九輪に戻るというものでした。雀々氏も、それを受け継がれたというような、楽しいものでした。汗いっぱいかきながら、体いっぱい使わはって。大笑いですな、ホンマ。む雀氏のものも、そうですわ。爆笑取ったはりました。鷺の声がかすれる所なんか、ホンマもん見てるようで。吉朝氏のもの、わざわざ“見た”と書いたのは、実は理由がありまして、数年前の読売テレビ・『平成紅梅亭』の模様です。この時、ビデオでとってたんですけど、朝起きて見たら、映像は映ってますねやが、音声が入ってませんねん。ビデオの故障ですわ。それから、すぐに新しいビデオ買いましたけどね。それでも、映し出されるのは、声なしの姿だけ。最後まで見て、一応、様子だけは窺い知れたんですけどね。多分、最後は、頭出してはったんで、ぼんさんが頭打ってサゲになってたんでしょう。

 ネタとしては、個人的に、あんまり好きなほうの部類に入るもんではないんですが、大いに笑えますし、楽しいネタですな。ま、そんなことより、来月は、冒頭で中途半端な説明にしてしまいました、『商売根問』を、じっくりとお届けいたしましょうか。

<17.1.1 記>


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