
新年、あけまして、おめでとうございます。旧年中は、いろいろとお世話になりましたが、どうぞ本年も、この上方落語のネタを、よろしくお願い申し上げます。お正月と申しますと、昔は、演芸場・寄席なんか、大流行り。立ち見でいっぱいてなもんでやしたけれども、最近は、テレビでも、演芸番組が、少のなりましたな。年末のM−1てなもんが、かろうじて、人気爆発いうところですか。ま、それでも、NGK・なんばグランド花月なんかは、いっぱいみたいですけども。もっか、京都には寄席がございませんので、KBS京都で、『新春寿寄席』を見るのが、関の山ですか。そんな愚痴をこぼしながらも、お正月の初席となりますというと、出演者が多いので、持ち時間が短く、たいがい、出るネタは、決まっておりまして、今年は、戌年にちなみまして、『犬の目』を。多分、どこの寄席でも、正月には、誰かがやってはると思いますので。
ある男、目を患いまして、今日しも、知り合いの人の家に。目押さえてるさかいに、そら眼病ですわな。お医者はんには、まだ見せてへんのやそうですけど、よっさんには、見てもろた。そしたら、“お前の目は、アメや。”て。何でて、くもってるさかいにやて。んな、アホな。するとこの人が、「こら、雨やない。日和や。星が出てる。」て、これもあんまり信用でけんわ。とにかく、この人の紹介で、エエ目医者はんを紹介してもらいます。横町ですな。やってまいりますというと、案内を乞いまして、早速、診察へ。診てもらいますと、だいぶに悪い。腐りかけやて。道具を揃えて、手術。目の下に受け皿を持って来て、くり抜くて。ほんで、目自体を治して、もういっぺん、入れ直すという。まあ、考えたら、それが出来たら、一番手っ取り早いわけで。千枚通しみたいなもんで、タコ焼きの要領で、クルッとくり抜く。その目玉は、助手に言いつけて、一号液と二号液のに漬けます。出てきたものを、はめ込みますが、これがちょっとうまいこといかへんがな。こんなことは、ちょいちょいある。ふやけてしもたんですがな。こういう時は、直射日光を避けて、陰干しにしとく。ほんなら、干し過ぎたら?また、塩水につけたら、元に戻る。て、かずのこやがな。
と、先生の袖を引っ張る助手。目が、見えんようになった。なくなってしもたて。こら、エライこっちゃがな。こらどうも、裏の木戸を開けといたところ、犬が入ってきて、食べてしもたらしい。近くで、犬が舌なめずりして、寝てまんがな。というて、犬から、患者の目を取り出すわけにいかん。こら、どうもしょうがない。スペアの目を。と、この犬を助手に抱えさせて、犬の目をさいぜんの要領で、クルッと。ほんで、これを、何にも知らん患者に入れ替える…。と、これが、ピッタリ!寸分違わず、合いまんがな。裏向けに入れてしまいますが、入れ直すと、これがまた、よ〜う見える。「あさってに、もう一度来なさい。」という言葉を背に、喜び勇んで帰ります。
二日後、また、例の患者がやってくる。経過を聞くと、前よりよく見えるとのこと。夜でも、よう見えるし、横になったら、すぐ寝られる。その代わり、コトッとでも物音がしたら、すぐ気がつくて。そら、犬の目ですもん。「しかし、困ったことがありますねん。」「なんじゃ?」「小便する時、片足上がりまんねん。」とか、「電信棒見たら、小便がしとうなりまんねん。」とかで、サゲになります。つまり、犬の目でっさかいに、小便するのに…、ということですわ。「表には出られない。鑑札がないから。」とか、「する時は、後ろから…。」というようなものもあるみたいですが、私は、実際に聞いたことがございませんね。
上演時間は、十分前後。話自体は、ごく短いものですが、様々な藪医者のマクラを引っ付けると、そこそこの長さにはなりますね。でも、あっさりとトントンと、やっておくほうが、いいネタですわな。寄席では、よく演じられますが。登場人物が少ないのもあって、前座ネタ的に使われもしております。目に関する諺や、ギャグ・シャレなんかを、冒頭の二人の会話、または、お医者さんとの会話なんかで、フルに活用しまして、笑いを誘っておりますね。こういう、細かいものの積み重ねも、大事です。話の運びを良くするためもあって、地の、説明部分の叙述がないのも、小ネタの割りに、珍しい。これが、最大の特徴でもありますな。時間の経過を感じさせないという。内容自体は、全くのありえないこととして、昔の人が作ったのでしょう。しかし、どうでございます?現代の医学において。もう、ほとんど、可能かもしれませんよ。人間から人間の臓器移植もできますし、やけどなんかやったら、豚とかなんかの皮使うたりしたはりますし。でも、電信棒見たり、片足上げたりして小便は、しまへんやろけど…。
東京でも、よく演じられております。しかし、関東人の好みには、ちょっとサゲが合わないみたいですが。所有音源は、故・六代目笑福亭松鶴氏、桂米朝氏、故・桂春蝶氏、桂きん枝氏、笑福亭松喬氏のものがあり、他にも、いろいろと聞かせていただいております。松鶴氏のものは、時間があった時のものか、た〜っぷりと間を取って、やったはりました。全体でも、二十分は、かかってましたな。特に、お医者さんのしゃべりが。いかにも威厳があるように描かれているだけに、かえって、失敗した時のおもしろみがあって。米朝氏は、どちらかというと、さらりとあっさり。リズムよく、笑いを取ったはります。春蝶氏は、角座で、ようやったはったみたいですな。代表的なネタでもないんでしょうけど、切っても切れないぐらいの関係ではあったようです。だいたいが、トントンと、調子良く、話が進んで行くタイプの方でもありましたし。私も、好きです。特に、細かな笑いを、いなしながら、最後のサゲに、盛り上がりを持ってくるという演出が、このネタには、あったように思えます。きん枝氏は、マクラで十分に笑いを取って、本ネタに入っておられますね。お医者さんも滑稽で、おもしろいものでした。松喬氏も、調子良い流れの中でも、やはり、松鶴氏ゆずりで、お医者さんにおかしみがあって。時間は短いんですが、それでも、たっぷりとした聞き応えがありまして。
2006年、戌年ですけど、こんな医者が、登場せんように、祈っときます。
<18.1.1 記>
<18.2.1 最終加筆>
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