目次 概要 脱磁器について 筆者 福島 貫 鋼材は外部磁界の影響や機械的応力により残留磁気と呼ばれる磁気を帯びることがあります。 この残留磁気は細かい鉄粉を吸着しますので、回転部品や精密部品にとって致命的な障害を招く原因の1つとなり、この残留磁気の除去に用いられるのが脱磁器です。 脱磁に関する文献はまとまったものが見当たらず、ほとんど経験に頼った設計が行われているのが現状です。 脱磁の方法としては 1)
交番磁界を与える方法 2)
温度をキュリー点以上に上げる方法 が知られていますが、一般には1)の方法が用いられています。 交番磁界を用いた脱磁器としては、次のようなものが実用化されています。 1)
テーブル型脱磁器 2)
トンネル型脱磁器 3)
コアー型脱磁器 4)
コンデンサー共振型脱磁器 5)
減衰型脱磁器(低周波) しかし、完全に残留磁気を除去できるものはなく、それぞれに性能のアップについての研究がなされています。 近年の研究で強磁性体には磁区というものがありこれが磁気の発生源であるとされています。 筆者は残留磁気の問題をこの「磁区」の性質ということから考えることに挑戦しています。 |
||||
|
概要に記した脱磁器の内、1)〜3)は電力会社から供給される50Hzまたは60Hzの商用交流電源を直接コイルに接続して50Hzまたは60Hz の交番磁界を得るもので、ベルとコンベアー等でワークを動かすことによりワークに減衰する交番磁界を与えます。 |
|
磁気発生面がフラットなテーブル状となっていることからこの名前で呼ばれています。 構造はコの字型のコアーに励磁用のコイルが巻かれており、コアーの先端に磁極が設けられこの磁極が表面に現れています。 コアーは渦電流による損失を少なくするため、成層鉄心が用いられます。 この磁極間に交番磁界を発生させ、ベルトコンベアーや手でワークを移動させてワークに減衰する交番磁界を与えるようにして使用します。 このタイプの脱磁器は、商用交流電源に直接接続して交番磁界を発生させるため価格が安く、古くから製作されており、比較的小さいワークに使用されます。 コイル設計は、基本的には交流理論に基づいて行われますが、空間磁路が複雑となるためパーミアンスの計算が複雑となり、磁極に無垢の軟鉄材が用いられるため渦電流の影響が大きく、通常はカット&トライによる方法が用いられます。 渦電流を無視した場合計算は(1)〜(5)式で計算されます。
R:脱磁器のコイル抵抗 ρ:導体の固有抵抗 L:コイルの平均長 S:導体の断面積
L:脱磁器のインダクタンス P:脱磁器のパーミアンス
Z:脱磁器のインピーダンス ω:角速度=2×π×f f:周波数
E:印加電圧の実効値 I:脱磁器のコイルに流れる電流
NI:起磁力(脱磁器の強さの目安) N:コイルの巻き数 I:脱磁器に流れる電流 基本的にはコイルだけと考えてよいものです。 実際のものはコイルが傷つくのを防ぐためアルミニュームやステンレス製のカバーを設けます。 この時、渦電流を遮断するためカバーの一部を切断して絶縁物を用います。 このコイルに商用交流電源を接続して交番磁化を発生させ、テーブル型の場合と同じようにワークを移動させて使用します。 このタイプの脱磁器も古くからあり、いろいろなものに用いられますが、一般には磁力が弱いとされています。 トンネル型は単純なコイルとして計算でき、インダクタンスLを(7)式で求め(1)(3)(4)(5)式で計算します。
μ0:真空の透磁率 Kn:長岡係数 la:コイルの長さ Sa:コイルの磁路断面積 他は、テーブル型と同じです。 トンネル型脱磁器は空芯のため、強力なものを製作しようとすると非常に大きな電力を必要とします。 このことから磁路の方向は異なりますが、強力トンネル型脱磁器の代用として登場したのがコアー型脱磁器です。 コアー型脱磁器は強力型とするため一般に消費電力が大きくなります。 コイルの設計方法は基本的にテーブル型と同じです。 テーブル型、トンネル型、コアー型は、減衰する交番磁界を得るためにワーク(被脱磁物)を動かす必要があります。 ワークを固定した状態で減衰する交番磁界を得るには、コイルに減衰する交番電流を流す必要があります。 この方法として、LC共振現象を利用したのがコンデンサー共振型と呼ばれる脱磁器で、脱磁器にコンデンサーを接続しただけの簡単な構造でよいため、古くから使用されています。 しかし、この方法は脱磁器のインダクタンスやコンデンサーに蓄えられるエネルギーを利用するもので、損失が大きいと十分な交番電流が得られません。 一般には小型のワークに使用されます。 コンデンサー共振型の電流は(8)式で表され、この式はコンピュータを用いてグラフにすることができ、このグラフで減衰の様子を確認できます。
L:インダクタンス i:電流 R:抵抗 C:コンデンサー容量 t:時間 |
|
大型のワークを脱磁するために非常に数が少ないのですが、トンネル型で非常に消費電力の大きいもの(数十KVA)が製作され使用されている例があります。 しかし、さらに強力なものは吸引力や消費電力の問題で製作しにくい状況があり、残留磁気が大きい場合には対応しきれないという問題があります。 大型のワークは重量があり、これを磁界中で自由に動かすことは磁力の作用もあって非常に困難で、ワークを動かさないで脱磁することが要求されます。 ワークを固定した状態で、脱磁を行う方法としてはコンデンサー共振型が古くから使用されてきましたが、ワークの大きさが限定されるという問題がありました。 この問題を解決する方法として、古くから外部から必要な電力を供給する方法が考えられていましたが、サージ電圧発生の問題があり、電力供給装置の性能のよいものがなく実現できませんでした。 近年、サージ電圧の問題を克服した電力供給装置の性能のよいものができるようになり、この電源を用いることで大型のワークにも対応できるような脱磁装置が製作できるようになりました。 この脱磁器をコンデンサー共振型と区別して「減衰型脱磁器」と呼んでいます。 この方式の脱磁器では、φ400×200×40程度のベアリングの外輪を対象とした脱磁器で消費電力を1KVA程度と大幅に小さくすることができる他、脱磁方法を工夫することで残留磁気を2ガウス以下(ピーク値)とすることも可能です。 φ200〜φ300高さ100〜200mm程度のいろいろな形状のベアリングの内輪および外輪(十数種類)についていろいろな部分(全ての部分)の測定を行って残留磁気の最大値が1ガウス以下という結果を得ました。(ここをクリック) {注意} 残留磁気が小さい時は地磁気の影響を少なくした測定が必要です。(強磁性体は地磁気を集めますので測定により数ガウスの誤差が出る場合があります。) |
|
残留磁気が小さくなると地磁気の大きさに近くなり、地磁気の影響を受けるようになります。 特に強磁性体を地磁気の磁界中に置くと地磁気を集める性質があり、ワークが大きい場合にはワークの置き方や測定箇所により、数ガウスの測定誤差が発生します。 測定場所やワークの位置、プローブの角度等に注意する必要があります。 |
|
単結晶の磁性体は規則性のある磁区を持ちます。 鋼材は一般に多結晶ですので、いろいろな方向を向いた磁区で出来ています。 磁区は一定の磁気を有し、見かけ上の磁気大きさは、外部磁界が一定の値より小さいときや磁区の磁界の方向と一致している時は外部磁界との相乗作用で外部磁界の大きさに従って変化します。 磁区の有する磁気の方向と逆方向の外部磁界の大きさが一定値以上に大きくなると、磁区の反対方向に磁化されます。 このことから残留磁気の問題を考察すると残留磁気がない状態とは「強磁性体内部の磁区が強磁性体の内部で磁気を打ち消すような状態になっている」ためとする考え方があります。 強磁性体の磁化曲線がヒステレシス特性を示すのもこの磁区の性質によるとする考え方もあります。 |