「肝冷斎ちゃん、明日から平日だ。今日は何かスカっとするやつ、頼むよ」
といわれたので、スカっとするやつをご紹介することにした。
・・・唐の時代である。馬というひとあり。その家には一の宝があった。
一玉精碗。
一の玉精の碗なり。
玉の精髄で作られたお碗一つ、である。
このお碗、
夏蠅不近、盛水経月、不腐不耗。或目痛、含之立癒。
夏にも蠅近づかず、水を盛りて月を経るも腐らず耗せず。あるいは目痛するに、これを含めばたちどころに癒ゆ。
夏、この碗に何か食べ物が盛ってあっても、ハエが近づくことはない。水を入れて一ヶ月放っておいても、水は腐ることなく、また減りもしないのだ。また、目が痛いときにこの碗に入れてあった水を口に含むと、たちどころに治るのである。
という不思議な力があった。来歴は知られなかったが、いろいろというひとはあった。(馬の父が西域の商人から手に入れたが、あまりに価が高かったので、その商人には毒を盛って殺し、その死体は庭に埋められたのだとか、馬の先祖がある地方の太守をしたときに、領民の家に宝ありと聞いて、その一家を滅ぼして手に入れたのだとか・・・)
さて、この馬の家に、ある日、
小奴七八歳。
七歳か八歳の子供の下僕。
が雇われてきた。
その子供、特に異常なところはなかったのであるが、雇われてきてすぐに、ほかの下僕らと馬の部屋の掃除を言いつかり、作業をするうちにベッドの下の箱にこの玉碗が入っているのを見つけた。
「それはだんなさまの大切なものじゃ、触るでないぞ」
と年長の下僕らが注意したが、その子供、玉碗を見るやにやりと笑い、まなこらんらんと光らせてこれを手にとって、
「ひひひ・・・」
と笑ったか笑わなかったか、
弄墜破焉。
弄びて墜破せり。
手でいじりまわし、落として割ってしまった。
がしゃん。
左右驚惧。
左右驚き惧る。
回りのものたちは驚き、そして恐れた。
その間に、どこへ行ってしまったか、小奴は姿を消してしまった。
馬はもとより怒りっぽく残虐な性格であり、外出先から戻り玉碗の壊れたのを聞くと激怒し、ほかの下僕らを鞭打つこと数百にも及んだのである。
そして、
「その小奴を見つけてこい。わしが殺してやる。まず両手の指をきりおとし、それから両目を抉り、腕、足、鼻、耳の順に切り取ってやるのだ。見つけられなければお前たちのうちの誰かをその罰に処してやるぞ」
と命じたので、下僕らは三日の間必死で探したがどこに姿を消したのか、まったく知れぬ。
四日目の朝、
有婢晨治地、見紫衣帯垂于寝床下。
婢の晨(あさ)地を治めんとする有り、紫衣の帯の寝床下に垂れるを見る。
下女が朝、土間の掃除をしようとして、ふと、紫色の帯びが、ベッドの下から出てきているのを見つけた。
「寝床」はただのベッドというより、家の土間に置かれる屋根のついた寝台で、一つの部屋のように使われるものですが、下女、不審に思ってその帯の先を見ると、
小奴蹶張其床而負焉。
小奴のその床を蹶張して負えり。
あの子供が、寝台の下で四つんばいになり、その背中に床を背負っていたのである。
そして、子供は、下女と目を合わせると、にやりと笑い、暗がりの中でその目をぎらぎらと光らせた。
すぐに下女はひとを呼んだが、よく考えるとこの三日間、ずっとこの寝台を支えていたのだ。馬はこの上で寝ていたし、妻とも同衾していた。七八歳の子供だというのに、信じられないような体力である。
馬睹之大駭。
馬はこれを睹(み)て大いに駭(おどろ)く。
馬は、呼ばれてやってきて、この子供がベッドを背負ったまま、馬と目を合わせてにやりと笑うのを視て、たいへん驚きおそれた。
そして、
「こ、こやつが
破吾碗乃細過也。
吾が碗を破るはすなわち細過なり。
わしのお碗を壊したのは、大したことではなかったのだ。
・・・いずれもっと恐ろしいことをしでかすであろう」
と、左右の者に命じて、殴り殺させたのであった。
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以上。唐・段成式「酉陽雑俎」巻九より。このコドモの目的もよくわからんが、とにかく殴り殺させたのでスカっとする・・・というようなひとはいませんよね。